001、ジャックとクレア
残酷表現入ってます。回によっては残酷さに度合いがあると思いますので、ご注意ください。
「また、派手にやらかしたわね……」
累々と積まれた死体をみて、私はため息をつく。
「うるせえ。コッチは遠慮しなくていい。むしろ思い切りやれって言ったのはおまえだろ?」
乱暴に吐き捨てたのは、今回の監察対象──ザック。
「ええ、そうね。一晩でマフィアを壊滅させたのに驚いただけよ」
どこぞで手に入れた長い日本刀。それで人をいとも簡単に斬っていくジャックは、マフィアの連中の目にどう映っただろう。
いや、私にとってそんなことはどうでもいいことだ。
私の役目はこの男を徹底的に監察し、報告書を書くこと。そう、それだけだ。
「……お疲れさま。近くのホテルを確保してあるから、そこで泊まってちょうだい」
鍵を渡す。私は別のホテルに泊まる。
「おれは寝てるからよ。明日は好きなときに迎えに来いよ」
それだけ言い捨てると、ジャックはマフィアの事務所をあとにした。
[ジャック・クレイトンの監察結果
剣術A、体術C、頭脳D、拳銃E、その他総合戦闘技術B。
年齢は不明だが、見た目20代前半。
長刀を振り回し、人をつぎつぎと殺していく。爆弾の知識も有り。素手でも戦えるが、慣れないことはしないほうがいいといい、やけに慎重。
初めて人を殺したのはまだ十代の少年時代。盗みが露見し、そのもつれから勢いで人を殺めた。
その後、生きていくために人を殺していく。ここ数年では、暗殺の依頼をこなし、生計を立てている。
他の『殺人狂』と違い、殺しを楽しむ感情はない。よって、我が組織──スローターの趣旨とはずれているが、ここまでの戦闘能力はなかなかないということをここに示す。
事実、マフィアを一晩で壊滅させてしまった。敵対するマフィアから依頼を受けたジャックは、殺戮の限りを尽くした。連中を皆殺しにするのにかかった所用時間は、四時間三十一分十五・四十一秒。抵抗・避難する推定五百人を全滅させるには、早すぎるタイムだ。
ジャック・クレイトンの驚異的な身体・戦闘能力はこのごもマークし続けるべきだ。
スローター監察員 クレア・ベリーサ]
電子メールでの報告書を送信。
私はスローターという組織に所属する、監察員の一員だ。スローターには、大虐殺という意味がある。
組織は上から、総帥→最高幹部→幹部→監察員という仕組みになっている。
そもそも組織は、殺人狂たちを監察し、徹底的に性格や戦術の傾向を洗い出してデータに納めるという意義を持っている。
だが、なぜそんな事をするのかは、総帥と最高幹部の計二人しか知らない。私たちのような幹部や監察員たちは目的も知らぬまま、世界中で任務をこなしているのだ。
組織はそれほど人員はいないが、もうとっくに存在はバレているだろう。つまり、世界中から黙認されている。
それはなぜか?殺人狂たちのデータを元に、最強の殺人兵器でも作る気なのか?それとも、いつかすべてのデータを警察や軍に明け渡して逮捕させる気か?
いや……不毛な考えだ。私みたいな下っ端がいくら考えたところで、答などでない。
それはそうと、どうにかして組織を抜け出せないだろうか?私は望んで組織に入った訳ではない。物心ついたときから、組織に拾われていたのだから。
聞いた話だと、私の両親は当時スローターが監察していた殺人狂が、暴走したことで死んだ。
この事件では両親以外でも一般人が十人、組織の人間が2人、そして殺人狂も十四人殺した後自殺。
一人生き残った赤ん坊の私は、血で真っ赤に染まりながら泣いていたそうだ。その私を、最高幹部のモーガが育てた。
監察対象が罪のない一般人を無闇に殺さないようにするのも組織の役。組織の失態故に両親を亡くした私をみて、後ろめたく思ったのだろうか。
モーガのことは大好きだし、実の父のように思っている。でも、この年になった今でも、明るい光に照らされた世界にあこがれる。
でも、目の前でひかるパソコンの画面が、そんなことあり得ないって言っている。
──いや、でもどうにかして……。
私の思考は、組織を取り巻く血なまぐさい世界へ沈んでいく──。