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放課後は毎日レッスンになるから、俺は所属している吹奏楽部を辞める事にした。
そして、いつもの様に自転車に乗って学校に向かう。小学校までは電車で通学していたが、中学からは自転車通学にしている。自転車で10分。電車で一駅分だ。たまたま、お受験というのをしたら、受かってしまってそのまま高校までいる学校。タレント活動している人もいるから俺がどうなると言う事はないと思っていた。
学校について、職員室に行くと、担任が俺を引きずって校長室に連れて行く。
「浅葉君、おはよう。連休のテレビを見たよ」
「はい」
「学業との両立を頼むよ」
「はい、それで部活の方は流石に迷惑をかけるので……」
「そちらは籍だけ残すって事でお願いできませんか?文化祭の時の進行役をお願いしたいそうですよ。部の皆は今までずっとやって来た君が辞めるのを認めたくない様です」
「それでいいのでしょうか?」
「では、顧問の先生を呼びましょうか?」
「俺は頷くと、顧問の音楽教師が入って来た」
「浅葉君、聞いた?皆の意見は君がアイドルになっても辞めて欲しくないんだ。君の居場所はいつでも吹奏楽部にあるんだって思って欲しいんだって」
「はい。文化祭は出られそうかい?」
俺の学校の文化祭は6月にあるから、スケジュールを管理したら出る事はできるだろう。俺達は学業優先で活動する方針だそうだから。
「そうしたら、今回はソロではなくて、パート担当で演奏に入るか」
「はい、頑張ります。朝の練習なら入れるかい?」
「はい。でも皆より練習量が減るのでサードにして下さい」
「お前らしいな。分かったよ。今からクラリネットの編成を組み直そう。コンクールはデビュー後だから無理か」
「はい。これからは裏方で頑張る予定です。定期演奏会の時は、PR出来る時はPRしたいです」
「あはは……お前らしいな。ずっと吹奏楽だったからな。お前も楓太君見たくクラリネットの番組アシスタント出来たらいいな」
「そうですね。すぐには無理でしょうけど、頑張ってみますよ」
それから、これからの活動予定を先生達に報告してから僕は校長室を後にした。
教室に入ると、クラスメイトが俺を取り囲む。
「お前、アイドルになるのにここにいていいのかよ?」
「俺達は学業最優先。後2年で高校卒業だろ。俺だって皆と卒業したいさ」
「そっか。それってすげえ嬉しいな。修学旅行は?行けそうか?」
「そういう所は調整してくれそう。凄く楽しみだしさ」
俺がにっこりと微笑むと皆の空気が和らいだ。
「やっぱり周防のその笑顔が無敵だったってことか」
「そこはどうなんだろうね」
「レッスンって大変か?」
「俺……素人な。そんなのが夏休みにデビューするんだから突貫工事に決まっているだろ。決まってからの連休は本当にしんどかったよ」
「メンバーとのレッスンはしてないのか?」
皆の質問が多いのと早いのでペースが掴めない。
「ちょっと。周防が困っているって。もう少しゆっくり話そうよ」
「おお。流石は大原。周防の嫁」
「「嫁じゃない」」
大原は俺と同じ吹奏楽部。小学校からずっと一緒で偶然家も近かったから小学校の頃は一緒に学校にも通っていた。今は俺が自転車通学になったから一緒には通ってはいないが、雨の日とかは一緒になる。
「周防はどの先輩がついたんだ」
「楓太さんと……ナツミちゃん」
俺がそう言うとクラスの皆がどよめいた。
「ふう君、どう?やっぱり落ち着いている?」
「そうだね。でもマルチな才能を持っていると思うよ」
「ナツミちゃんは?やっぱり可愛いのか?」
「本当に中学生だったよ。でもって、本当に楓太さんがお世話している」
ナツミちゃんのブログでは、楓太さんに茶道のお稽古をしている写真があったりしているから楓太さんの彼女と言うよりは、楓太さんの弟子であり、後輩って図式だ。
「でも、凄く純粋な子だった。それでお姫様だった」
「なにそれ?傲慢ってこと?」
「逆。謙虚だから可愛がられている。どっちかというと血統書つきの可愛い子猫?」
俺が思ったイメージを言うと一斉にほおって声が出た。
「楓太君も血統書つきの大人しい猫ってイメージだから……絵になるわ」
「本当。弟子でもカップルになっても文句ないかも」
「で、周防はあの二人どう思う?」
「どうなのかな?今はそんな感じじゃないと思うよ」
やがてHRを知らせるチャイムが鳴って担任が教室に入って来た。
「ほら。連休は終わったぞ。席に着け」
今までと変わらないはずの学校生活が始まった。
けれども、それは激動の生活の始まりでもあったんだ。