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Pure Pop 俺、アイドルになります  作者: トムトム
アイドル修行編
4/17

俺が契約書にサインをして3日目。昨日から俺の個別レッスンが始まった。

とは言っても、事務所内のジムとボイストレーニングと着付けだ。

なぜ着付け?と思ったら、国営放送での教養講座で男性の着付けをする枠を設けるらしい。

短期集中型で一人で浴衣を着るというテーマなのだそうだ。

自分で和装を着る事が普通の楓太さんが講師と進行役をするそうだ。

で、その生徒役を俺達5人がすることで決定したそうだ。でも、これ最初は女性の浴衣を

着るって企画で始まったらしいのだが、キャスティングに失敗して途方に暮れていたスタッフさんに楓太さんが、男性も一人で着られたら素敵ですよねってその場で交渉したようだ。

この人……やっぱり侮れない。でも俺達より恰幅のいい男性も欲しいからって事務所のスタッフも巻き込んでいる。

それと、休憩時間の時に簡単なマナーも教わる。お辞儀の角度は昨日徹底的にマスターした。今日は、名刺のマナーについて今はナツミちゃんのマネージャーの里美さんが教えてくれる。

この人が元モデルなのは知っていたが、マナー講師ばりに知識があることにはびっくりした。

「いい?貰った名刺は、大事に扱いなさい。トレーディングカードのプレミアもののレアカード位丁重に扱うのよ?そういう所も人によっては見ているから名刺一枚でも馬鹿にはできないのよ」

「はい……プレミアレアなカード……大変だな。お前も」

俺は、練習として楓太さんと里美さんとナツミちゃんの名刺を貰っている。最初の顔合わせでナツミさんと呼んでいたのだが、ほんの少し先にデビューしたけど年齢は私の方が下だからナツミちゃんにして欲しいと本人に言われて今は言われた通りにしている。

ボイストレーニングの時間になると、ナツミちゃんが先生と一緒にやってくる。

ジュニアコンクールで入賞した経験のある彼女はボイストレーニングの先生の助手としてピアノ伴奏をしてくれるのだ。本人に言わせると指ならしの練習だから気にしないでって言ってくれる。

「伊吹、ふうは?」

「楓太さんは、ちょっと出かけて来るって……外出です」

「そう。今日は、伊吹のレッスンの後に二人のレコーディングがあるけど見学したい?」

「できるのであれば、ぜひ」

「そう。分かったわ。で、腹式呼吸は意識的に出来る様になったかしら?」

「少しです」

「いいのよ。CDデビューは夏休みのお盆明けだから。基本は焦らないでじっくりやりましょう」

「ありがとうございます」

僕に優しい事を言ってくれるボイストレーニングの先生は、レッスンで辛くなるとかなりキツイ事を言ってくるが、出来ない俺が出来る為に言ってくれていると思って更にレッスンをくり返す……そんな繰り返しだ。まだ二日だけど、終わると凄く疲れる。


「ごめん。ちょっと外出していました」

「あらっ?ふう、随分と余裕ね」

「伊吹のレッスンとレコーディングって事は僕らもレッスンだろうと思ってちょっとだけ外出していただけです。実際に伊吹のレッスンが終わる前に戻って来たし」

「で、楓太さんはどこに言っていたの?」

「アレを買いに行ったのさ。なっちゃんにだって、最初にあげただろう?」

そう言うと、ナツミちゃんは分かったよって答えて私も持っているし、アレって社会人って気になるから凄いよねって言っている。

「まあ、レッスンが終わったら伊吹にあげるから、頑張って」

楓太さんはそう言うと、スプリングコートを脱いで履いていたスニーカーも脱いでストレッチを始めた。楓太さんはちょっとでも時間があるとストレッチをしている事が多い。

俺は体が硬いからこうやって解しておかないとね。なんて笑っている。

ストレッチをしている楓太さんに先生は乗って遊んでいる。

「先生、いい加減に俺を椅子にするのは辞めてくれません?もう、体は固くないんですよ」

「あら?残念。これからは伊吹を椅子にしようかしら?」

今、何気なく凄い事を言ったぞ、この人。

「さあ、伊吹。今日のおさらいをしましょう」

と言われて、再び俺は厳しいレッスンを受ける事になった。


俺のレッスンが終わった時に、楓太さんは俺に小さな箱を渡してくれた。

「お前の分だけすぐに用意して貰ったんだ。他のメンバーは明日事務所に届けて貰う様にしたんだ。開けてみろよ」

言われて恐る恐る箱を開けると、そこにはプルシアンブルーの皮素材の名刺入れが入っていた。俺の芸名である伊吹もローマ字で彫られていた。

「ありがとうございます」

「社会で仕事するんだ。こういう所を見る人もいるから。お前の名刺は……明日には出来上がるから楽しみにしておけよ」

ストレッチを終わらせた楓太さんは、ナツミちゃんの伴奏に合わせて発声練習を始めた。

楓太さんの発声練習で気がついた。レッスンだけど……楽しんでいる。ビビッドでは歌っていない音域の方が楽そうに見えた。

「ふうは、歌を歌いたい子なの。君は知ったんでしょう?ふうの実家の事」

先生に問いかけられて僕は頷く。

「だから、あの子は歌以外に、声の仕事もできる様になりたいんだって。あの子らしいでしょう?」

「でも、演技だって今期のドラマだって」

「そうね。でも家元を襲名してもできるかしら?」

少なくても拘束時間が長そうだからそれは無理だろう。声優も忙しそうだが、家元襲名後でも辛うじて出来なくもない様に思えた。

「他のメンバーも学校はあるけれども、ふうと同じように自分の進みたい方向に進み始めているの。樹は舞台俳優に、昌喜はマルチ方向に、双子はタレントとして。ビビッドだけども自分達を持ち始めたの。これであの子達はもっと大きくなれる」

「だったら……俺達は?」

「あなた達は……最初から伸ばせたらいいと思う分野を伸ばす事に決まったわ。書類審査の時点でその方針だったわ。歌唱力テストで君が一番だった。確実に音を聞き分けて間違えずに歌えたのがね。あのオーディションではほとんどが事務所でレッスンを受けている子が多くて、その中で見つけた貴重な原石なの。まだ何も染まっていない。だったらシンガーとしての能力を最大限で伸ばしたいのよ。他の子達はレッスンでこんな程度かなってスタンスで受けているけど、君はハングリーに受けている。その姿で私達の火がついたの」

「えっ?俺そんなつもりは」

「見た目はおっとりさんだけど、元々は負けず嫌いさんね。そういう子は伸びるわ。知らない事は恥じゃない。知らないと言えない事が恥だわ。今日のレコーディングでまたいい刺激になるといいんだけど」

俺の頭をポンと軽く叩いてから、先生は楓太さんの所に向かって行った。簡単にレコーディング曲を合わせるらしい。夏海ちゃんが取り出したのは、音楽室でよく見かけるメトロノーム。歌いたい曲のピッチに合わせた用で、ゆったり目に3カウントをしてから楓太さんはいきなり歌い出した。『愛する事』かなり高音な曲を、楓太さんの想い人に気持ちを伝えるかのように歌っていく。それはとても切なくて、胸が締め付けられる思いがした。

あのCMを女の子が支持をする理由がどことなく見えた。

楓太さんの持っている片想いのイメージを曲からCMから全力で伝えているんだ。

こんなに想っているのなら、どうして伝えないんだろうって位に。

「いいんじゃない?ナツミ合わせる部分覚えている?」

「はーい」

「じゃあ、ナツミも合わせて」

ナツミちゃんは再びメトロノームでリズムを取ると冒頭から二人で歌い始めた。

ナツミちゃんの声が入ることで更に切なさが増して聞く事にしか集中できなくなった。

ナツミちゃんは逆にストレートに相手に好意をぶつけるイメージだ。

そんな歌声にピアノが加わることで更に切なさが増幅された。

natsuのイメージが今まであったせいか、楓太さんと一緒に歌っている。

最期に先生が伴奏をするわと言ってピアノに座る。

今までは二人が主旋律をどちらかがメインで歌っていただけだ。でも最後は二人の魅力を最大限に生かせるようにハモらせている。しかもどちらもぶつけ合う訳ではなくて絶妙なバランスだ。どうしてこんな風に歌えるのだろう?

俺と二人の間には何があるのだろう?その答えはレコーディング収録でも見つけることはできなかった。


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