アイドル修行始めます 1
シリーズ前作「君想いショコラ」等で登場した人物もいますがサラッとスル―でお願いします。
全てのイベントが終わって、僕らは控室に戻って来た。
改めてメンバーを見る。偶然なのだろうか、ほぼ全員身長が変わらない感じだ。
そして、全員高校2年生だと言う事。事務所からほど近い所に全員住んでいると言う事だ。
改めて挨拶という事で、全員でもう一度挨拶をした。始めて知ったけど、楓太さんだけは芸名で活動しているのだそうだ。けど、本名は教えて貰えなかった。
これからのスケジュールを教えて貰う。通常の学校が終わったら事務所でレッスン。土日は朝からレッスンで午後は先輩達の見学って日もあるという。
「そうそう、お前達は全員芸名で活動して貰うからな」
そう言って、社長がどんどん名前を付けていく。昴・奏音・彩人・陸。そして俺は伊吹になった。
既に決定しているのは、7月末からのコンビニスイーツのCMキャラクターが決定しているそうだ。
「ごめんね、君達が決まる前に、僕のCMの担当者と大まかな設定を決めてしまったんだ」
楓太さんが、そう言うと僕らに資料を一部ずつ渡してくれた。
そこに書いてあるのは、キラキラな眩しい光を閉じ込めた様なスイーツと書いてある。
でもそれ以外何も書かれていない。
「今見せてあげられるのはこれだけなだけど、本当はもう少しだけ決まっている。けど見せる事が出来ないのは、完全に社外秘だからね。この企画に関しては僕も手伝ってあげるから、皆も思った事を言って欲しい」
「あの……君想いマカロンって楓太さんのプロデュースって本当なのですか?」
「うん、そうだけど。それは打ち合わせの現場に同伴して貰うからその時に自分達もやるんだと思って見ていて欲しい。それと、相手役は事務所の女の子の誰かがやってくれるから」
「どうして誰かなんですか?」
「相性ってあるでしょう?仕事上でもフィーリングが合う相手の方がいいと思うからね」
「楓太さんとナツミさんはそういう事なのですか?」
「ナツミは……なんて言えばいいのかな」
「なっちゃんは、ふうの実家のお弟子さんであるから、自動的にふうが面倒を見ているんだ」
答えに詰まってしまった楓太さんを、昌喜さんがフォローする。確かに説明はしにくいな。
そんな中、控室のドアをノックする音がした。
「噂をすれば……か?」
「だな。」
瑞貴さんと優貴さんがニヤリと笑う。ドアが開くとそこには白いコットンワンピースを着ているナツミさんがいた。
「お兄ちゃん達お疲れ様です。おじ様、お姉ちゃんが書類欲しいってメール来たけど?」
「ああ、悪い。後で送っておくから。ありがとう。夏海は俺の親戚だ。ふうは、さっき昌喜が言った通りで、ふうの稽古で茶道を習っている。お前たちも弟子になるからな」
「ああ……はい」
ナツミさんは社長の親戚で、楓太さんの弟子……かなりガードされているとみた。
それにビビッドのメンバーをお兄ちゃんって呼んでいるし、メンバーもなっちゃんと呼んでいる。
「ナツミ、もう時間か?」
「いいえ。私の仕事が早かったので里美さんにここで合流したいってお願いしたの」
「本当にお前はいい子だな。後でおやつをやるからな」
「樹さん、私モデルですけど?おやつ食べたら……」
「大丈夫。夕飯減らせばいいだろう?俺、ちょっと席外すから」
足取り軽く樹さんが控室からいなくなった。その事にメンバーは動じることもない。
「楓太さん。今度の高山さんの打ち合わせって結局どうなったの?私っていなくてもいい?」
「どうかしたのかい?」
「うん……学校の小テストがあるみたいで」
「いいよ。学校を優先にして。高山さんには時間の変更を頼むよ」
「ありがとう。ちゃんと満点取るね」
「ああ、分からなかったら聞きに来いよ」
ナツミさんは、控室のテーブルに教科書を置いて勉強を始めた。
「なっちゃん、もう平気みたいだな」
「ああ。もう大丈夫だろう」
昌喜さんと楓太さんが勉強をしているナツミさんを見ている。その目は妹を見ている兄の様にも見えた。
「なんだい?目新しいかい?あの子はうちの事務所の末っ子だから俺達も含めて、先輩達は皆同じように可愛がっているぞ」
「ナツミ、終わったら対戦やるか?」
「嫌だ。瑞貴君は本気になりすぎるから嫌」
「なんだ、つまんない」
「ざまあ。瑞貴」
「うっせえな」
ナツミさんとゲームでもやろうとしていた瑞貴さんは断られて不満げだ。ダンスに定評がある人だけど、どうもインドアな人の様だ。
そんな時に俺のスマホの着信音が聞こえた。
「あっ、すみません」
「いいよ。出たら?」
先輩方に言われたので、着信ボタンを押した。
「周防、テレビ見ていたら……あんたがいたんだけど?どういうこと!!」
俺に電話をかけてきたのは母親だった。オーディション落ちると思って話していないことを思い出した。
「ああ、受かると思わなかったからさ。まあ、そう言う事でよろしく」
「よろしくじゃないでしょう?学校はどうなるの?」
「学校?うちの学校は芸能活動は禁止されていないよ。だから大丈夫。とりあえず今は忙しいから悪いけど切るから」
だらだら会話をしていても無意味なので俺は通話を一方的に断ち切った。
「伊吹……今のちょっと良くないよ。親の説得はこれからか……。社長、俺も説得工作員になりましょうか?」
楓太さんがいきなり切り出した。
「えっ、そんなこと……」
「大丈夫。絶対にイエスって言わせてみせるからね。僕もこの仕事を始める時に相当揉めたんだよ」
不安げに眉根を寄せる俺に対して、大丈夫だよって笑いながら方をポンと叩く楓太君の存在は大きいなあ。そして少しだけ冷静になる。ひょっとして……俺以外のメンバーって既にリストアップされていたって事にならないか?他のメンバーも子役タレントの経験があるって聞いたし、止めたけど事務所の養成所に入っていた人もいる。
完全に素人ってもしかして俺だけですか?ひょっとして俺……相当ピンチじゃないのか?
さっきまでのん気にアイドルか……なんて思っていた自分をぶん殴りたくなってきた。
でも、今の時点で決まっている事はただ一つ。夏休み前にデビューしてCMのメインキャラクターになるってことに。親に反対されながらアイドル修行をする事になりそうです。