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Pure Pop 俺、アイドルになります  作者: トムトム
アイドル修行編
12/17

「周防。朝だぞ」

久しぶりに熟睡した気がする。胸元が少しだけ苦しいゆっくりと目を開けると、俺の目の前には猫が腹這って俺を見ていた。

「雅さん、リンちゃんが」

「リン、こっちにおいで。ご飯だよ」

雅さんが食器を鳴らすと、リンちゃんはぴょんととび下りてニャーンと鳴きながら雅さんの所に向かって行った。

「はい、ご飯どうぞ」

コトンと音がしてから、リンちゃんがご飯を食べ始める音が聞こえる。俺はシャワーを浴びて雅さんの服を借りる事にした。

「悪いけど、それを着ていてくれな。急いで洗濯して家を出る前に浴室乾燥に入れれば帰る時に家に寄れば乾いているから」

「すみません。至れり尽くせりで」

「いいや。たまには誰かと朝ご飯ってのもいいなって思っただけさ」

雅さんなら彼女位いそうだけど……いないのだろうか?

「雅さん、彼女は?」

「俺?いないよ。今は大絶賛片想い中だし?そういうキャラだしね」

曖昧に誤魔化されてしまった。マカロンのCM以来、雅さんはいつも片想い中ですって答えている。一度しつこかったテレビ局に対しては、リンちゃんを片想いの彼女ですってペットを溺愛するキャラを作り上げた。事実、リンちゃんを可愛がっているのは事実だけども、リンちゃんが嫌がる事はしない。いい関係を築けているようだ。

「朝食は、パンでもいいか?」

「手伝いますよ」

「それじゃあ、パンをトースターに入れて。冷蔵庫から卵と牛乳をマーガリンを出しておいて」

「はい」

雅さんに言われるままに俺は言われたものを用意した。

「スクランブルエッグは作れるか?」

「作れます」

「朝食しっかり食べたければ二人で4個。控えめなら3個で作っておいて」

「分かりました」

俺は今日のスケジュールを思い出す。午前中は俺のボイストレーニングのレッスンがあって、午後はマカロンのCM撮影の見学だ。しっかり食べた方がいいだろう。

卵を割りいれてフライパンを温めてから卵を解してからフライパンに流し込んだ。

バターの匂いとふんわりと出来上がる様に手早く調理して皿に盛り付けた。

「それと、冷蔵庫から簡単に生野菜を添えておいて」

「はーい」

雅さんは、ダイニングキッチンで何かをしているけれども、よくは見えない。冷蔵庫からミニトマトとレタスを失敬してスクランブルエッグに添えた。

「出来ましたよ」

「上出来じゃないか。こっちはトーストとフルーツの入ったヨーグルト。コーヒー飲むか?」

「えっと、カフェオレでもいいですか?」

「分かった。ちょっと待ってろ」

コーヒーメーカーをセットしてからコーヒーの香ばしい香りが部屋に広がった。

そんな時、インターフォンが鳴って、鍵が開いた音がする。澤田さんでも来たのだろうか?

「みーくん、おはよう」

「おはよう、夏海」

「あれ?伊吹君もいる」

「俺、昨日雅さんの家に泊まったんだよ」

「ふうん、いいなあ。みー君、リンを預かりに来たよ」

「ああ、すまないな。それじゃあ頼んだぞ」

「はーい。任されました。それじゃあね」

「ああ、またな」

そう言うとナツミちゃんはリンちゃんと入れたバスケットを抱えていなくなった。

「えっと、夏海は俺の上の階に住んでいる。ちなみに上の階は社長の自宅だ」

えっと……このマンションには社長とナツミちゃんと雅さんがいるのか。

「雅さん、リンちゃんはどこに?」

「俺の実家。たまには里帰りさせているんだ。夏海は俺の実家知っているし」

「成程。ナツミちゃんが雅さんの実家に出入りしていても問題はないと」

「そう。俺の不在の時に行かせているから更に弟子である事のイメージは付く」

雅さんって本当に隙のない行動だなと痛感する。

「何か言いたそうだな。周防」

「本当に俺の二歳年上なのかなって思っただけです」

「俺の場合は、実家の影響が強いだけだ。気にするな」

「分かりました。頂きます」

俺達は分担して作った食事を食べてから後片付けをしてレッスンに向かう事にした。


「俺は隣のレッスンルームで練習しているから」

普段は大きめなメッセンジャーバッグの楓太さんが今日はトランペットのケースとファイルを片手に持っている。

「楓太さん、今日の予定は?」

「俺?今日はオフだけど、ピアノとトランペットの練習をしたくてレッスンルームを一日借りているんだ」

成程。そう言う事か。マンションは完全防音とは言ってもやはり気にはなるのだろう。

事務所に来る時に、澤田さんが一緒に乗って来た。澤田さんもこのマンションに住んでいるんだって。マンションの住民のほとんどは事務所のスタッフらしい。そんなマンションにアイドルが住みこんでいても、住んでいても不自然さはない。普通の高めの賃貸マンションならよくある話だろう。

「分かりました。午前のレッスンが終わったら顔を出しますね」

「ああ。頑張れよ」

俺達はレッスンルームの前で別れる。俺は俺のままでいていい……どんなに見栄を張ってもそんなものは見抜かれてしまうだろう。だったら……アイドルの仮面の中まで作る必要性はないんだ。それでも辛かったら個人露出を減らせばいい……そう雅さんは教えてくれた。気追う事なんてどこにもないって気が付いたら一気に周囲の靄が晴れた気がした。


レッスンの方は、昨日の体調不良の事が報告されているのか、いつもより控え目だった。

その代わりに午前も午後もマナーレッスンとか、歩き方とかのレッスンが追加された。

「伊吹、何かあったの?スッキリした顔しているから」

マナーを教えてくれる里美さんが俺に聞いてきた。

「俺……甘くみていました。アイドルになるということに」

「そう。怖くなったの?昨日のCMで」

「そういう事です。情けない事に」

「そうね、最初のCMが企画参加型にしてしまったのは悪かったわ。でも今はあの会社の企画は多少なりとも自分達の意見を求められる様になったからね。でも高山さんも太田さんもダメな時はダメって言うから文化祭の話し合い位の気軽さを彼らも求めているから肩肘を張る事なんてないのよ」

「昨日、楓太さんに言われました」

「ああ、お泊まりしたのよね。あの家に。どうだった?」

「そう言われても。里美さんはあのマンションじゃないんですか?」

「私は……もう少し離れたところの単身者向けの1LDKよ」

「へえ、そうなんだ」

「一人暮らししたいの?」

「俺……何が出来るんだろうって思ったから」

「それは、卒業の時に考えたら?あのマンションだと付属の大学が近いかしら?」

「実家より近いですね。事務所も近いし」

「その時に考えましょう。それには自分が出来る最大限の魅力をその瞬間に出せないとね」

「はい」

俺は学校の様に座学の勉強に集中するのだった。


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