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居場所は君  作者: 鳴月
序章
3/4

伯爵令嬢×侍女

 ふうむ。どうしましょう?

 アル様の近辺調査とあの娘さんの情報収集とは何から始めてよいのでしょうか?

 まずは、知りたい項目を整理してみましょう。

 まずはアル様の私が今まで知り得なかった行動。

 次に、娘さんが今までいたという療養場所または、彼女の公爵家での位置的立場。

 最後に彼女、アル様、ディアン様の企み。

 以上でしょうか?手札は多い方が優位だとどこかで聞いたことがございますし。ですから正直今回のことに関する情報であればどんな些細なことでも構わないのですが。

 しかし、そんな悠長なこと考えている暇はありませんわ。あの日から二日が経過していますが、未だにあちらから何の音沙汰もないところを考えるにアル様とあの娘の婚約を彼の父、グットレーベン伯爵が許していらっしゃらないご様子。「伯爵兄弟」様からもなんの御達しもないので今は安心してもいいでしょう。

 しかし、期間が長くなればなるほど取り返しのつかないこととなってしまうゆえ早く行動に移さなくてはなりません。

 しかしどうしたらよいか……。


「どうしたのですか?お嬢様。難しいお顔ですよ」


 そう言うとその人物はコトリ、と私の前に紅茶を差し出す。

 入れたてのせいか湯気が立っている。

 声がした方を見ると、そこには侍女(メイド)服を着る少女が一人立っていた。

 彼女はティミシカ。私直属の侍女です。ぱっちりと大きな瞳に繊麗(せんれい)な顔立ち、栗毛の髪を後ろでお団子状に纏めている。動物に例えるならばリスの侍女のようなあどけなさがたまらないわ。歳は私と同じですが。

 飾り立てたらどんなに可愛いんだろうと日々妄想しています。

 でも、飾り気のない装飾(メイド服)からでも十分に可愛いを連呼する自信があるわ。

 また、ティミーとは主従という堅苦しい関係を前に乳兄弟という繋がりがございます。

 幼い頃から一心同体の仲です。

「どうなさいましたか。おかしな視線を感じるのですが……」

 とてもたおやかで慎み深い完璧な侍女の鏡なのです。しかしそれはあくまで外面なだけで、実は……。


「もしかして、死期が近い前兆ですか?お嬢様、そんな変なお顔をしていてはこちらまで害が及んでしまいますから。鏡をご覧になるか、他所でおねがいします」


 ……辛辣を除けば私の心が癒されるのですが。

 これは詐欺です。容姿はとても可愛いのに、容赦のない毒を吐く。また相当のお金好きです。そんな彼女は特に親しい者にしか本性は出しません。その特別の中に入っているのだと(よろこ)ばしく感じます。それと同時に悲しくもなります。

 本性を知らないほうが良かったと何度心で涙ぐんだことか。

 これは勘ですが、絶対に容姿を使って男に貢がせているはずです。

「もう少し、マシな言い方があるのでは……」

「マシとはなんですか?私はあるがままに申し上げているのですよ。気持ちを偽るなど……っ。酷過ぎます」

「ちょっと!いつも皮被って偽り続けている人に言われたくないわ」

「あら?その『皮』とはお嬢様も着けていらっしゃるでしょう?おあいこですね」

「いや、違うから。貴方と私とでは『皮』の意味が違うから」

「必死ですねー、ガーネスト様」

「当たり前でしょうが!しかも何?死ぬ予定って、勝手に殺さないで頂戴!貴方には私がどう認識されているのか不安になってきたわ。……さっきは、ちょっと悩んでいただけよ」

「お嬢様でも悩むことなどあるのですね。てっきり年がら年中能天気な馬鹿と思っておりました」

「ストレートな悪口が来たわね。……なんだかティミーの暴言に慣れつつある自分が恐ろしいわ」

「はい、私も恐ろしく思います」

「ちょっ……なんなの?いきなり。それって私の精神(メンタル)について?」

「いいえ違います。お嬢様のそれとはそんなの屁でもありません」

「……貴方恥じらいを覚えなさい」

 私はティミーとの会話はグダグダ過ぎて会話の終止符を打つことができません。時たまいつまでやるのかと脱力することもあります。

 付き合いの長いというのは本当に恐ろしいもので、そのような時間がとても愛しく楽しくてしかたがありません。


「ガーネスト様」

「どうしたの。急に改まってしまうなんて。珍しいわね」

「そうですね。私は給料日にしか俊改(しゅんかい)する気も改める気持ちもないんで」

「(最悪だわ)……それでその駿改する要因は?今日は給料日だったかしら?」

「残念ながら、来週の頭です。ですが、今は有力な"口"があるのでお嬢様から前払いしてもらおうとは思っておりませんからご安心を」

「……」

 私は「呆れて物も言えない」という言葉を咄嗟に思い出しました。まさしく今の私の気持ちを表す言葉だと心の中で頷きます。まさか本当に貢ぐ男が存在していたなんて。

 いつか本性が明るみにされないかとひやひやしてしまいます。

  一応貴方は「お嬢様」に仕える侍女(メイド)なのですが……先程の言葉のせいで今までの思い出がセピア色に変わりつつあります。


「そんな悲しいお顔をされてどうしたのですか?」

 反応がないせいかティミーは私の顔を覗き込むようにして尋ねる。

「え、ええ。大丈夫よ」

「嘘おっしゃい。私の目を見てないではないですか」

「さっきの言葉のせいで心に傷ができてしまい、それがまだ癒えていないから目が合わせ辛い」とは言い返せず、無言のままおもむろに視線を外す。正直に言ったら言ったでなんらかのとネタにされて罵られるに決まっている。

 絶対に気づかれてなるものか。


「あははは、ティミーの気のせいじゃないのかなー?私は大丈夫よ。うん。すこぶる元気」

「はぁ。貴方様のことは、幼い頃から馬鹿な子だ、馬鹿なお嬢様だと思っておりましたが、……そのあからさま過ぎる態度がなんというか……もうなにも言えない。ここまでの大馬鹿だったとは。お嬢様、よく社交界を生きてこれましたね。尊敬します」


 名誉毀損と思い真実を口に出さないことをいいことに……。逆にしみじみとした口調で哀れんだ目で見られるとことがこんなにも腹立だしいとは思ってもみなかったわ。

 こんのぉ、どうしてくれようかしら。

 ヒールの高い靴で踏みつけようかしら?


「辞めてください。私の唯一の商売道具はこの駿足なのですから。お嬢様の体重では足を踏まれると破損してしまいます。そんなの嫌です」

「おーい。私そんなこと言ってないわよー。被害妄想反対ですわー。……しかも先程さらりと私の体重のこと言ったわね。私はそんなに重くないわよ!!」


「何年もの間顔を合わせていれば考えていることも手に取るようにわかります。真実から目を背け、自身のことを美化なさっているのではないですか?ああそれとも(しょく)した物が勝手に消費されていると勘違いしているのですか。自然の原理ではそんなに上手くできていないのですよ。そんなことが可能ならば、ふくよかで手足の短いおっさんやお腹まわりを気にするおやじ貴族などいません。この世はダンディ一色です。そんな単純なことも分からないのですか。……おいたわしや」


「もうヤメテクダサイ。……何故か傷付く」

「心の奥底ではちゃんと自覚している証拠ですよ。良かったですね。まだ取り返せるチャンスはあって」

 なんだろう……。時々、ティミーから嫌われてるのかなって思えてならない。

 辛辣じゃなくて、嫌味にしか聞こえない。

 私はティミーが煎れてくれた紅茶に手を伸ばし、少し冷めてしまったそれを口にする。

 まだ少し残っていた温かさを感じ、ほっと少し安心した。




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