「八」
奥出雲から、俺のスマートフォンが送られて来た。
何のことはない。出発直前のごたごたで置いて来てしまったそれを、親父に送って貰ったのだ。
……いや、「送って貰った」なんて殊勝な言い回しはしたくない。何せ、あれから既に一週間以上が過ぎているのだ。携帯電話一つ郵送するくらいのことに時間をかけ過ぎってものじゃないか。
――もっとも、早妃に言わせれば、
「そのようなことを仰ってはいけませんよ、お父様だってお忙しいのですから」
と、言うことらしい。……認めないけどな。
入浴のために部屋を出る直前に、充電ケーブルを挿しておく。さっぱりして戻って来る頃には、電源を入れられるようになっていると言う寸法だ。
飲み物片手に部屋へ上がったら、明日のアラームでもセットして、一週間分のメールでもチェックするか、なんてことを考えていた。
――だけど、部屋へ戻った俺を待っていたのは、そんなつまらない思考など全て吹き飛ばしてしまうような光景だった。
部屋に在ったのは、早妃。寝間着にしている半襦袢を纏った、すらりとしたシルエット。襦袢の白に良く映える緑髪も、いつも通り美しい。
そう、早妃はいつも通り。別に驚くべきことなど何もない。
俺の言葉を奪ったのは、早妃ではなく――彼女の対峙する、モノ。
俺のスマートフォン。
その画面から、身を乗り出すようにして早妃と話す――人形のような、小さな、女の子。