8/54
「七」
女の子だ。もちろん、うちの生徒。制服姿だし、不審なところは何もない。
ただ、その制服は真新しくて、着慣れていないのが遠眼にも分かった。
けど、本当に眼を引いたのはそんなことじゃない。
――彼女は泣いていた。眼元を小さな両手で覆って、声を殺すように泣いていたのだ。
こんな状況に出会した時の正しい選択肢を、俺は知っている。
――気にしないことだ。或いは、そっとその場を離れる、とか。
当たり前だろう? 泣いている見知らぬ女の子にほいほい声を掛けるなんて、よっぽどの猛者にしか許されぬ所行だ。
俺のような男がやろうものなら、不審者として通報されかねない。泣いている女の子に声を掛ける事案が発生、である。
……そんなことは、分かっていたんだけどな。
でも、だめだ。
だって、独り声を殺して泣いているその姿が、重なって見えてしまったんだ。
――昼休みを過ごす友人も見付けられない、不器用な妹の姿に。