「六」
その日、学校の中庭に俺が在ったのは、昼食をとるためだった。
と言っても、もちろん、そんなところに学食や購買があるわけはない。眼に付く物と言えば、薄汚れたベンチに日当たりの悪い広場。申し訳程度の緑くらいのものだ。
……分かって貰えるとは思うが、とてもじゃないが校内の人気スポットとは言い難い。事実、昼休みだと言うのに賑わっている様子はない。
こんな場所へ足を運ぶのは、余程の物好きか訳ありかのどちらかだ。
俺は――……まあ、訳ありの方に分類されるのか。
昼食をとりに来たと言っても、俺の手には弁当などない。何故なら弁当は、これからやって来るからだ。それを拵えた人物――つまり、早妃と共に。
別にやましい気持ちがあるわけではないが、こと学校生活に於いて、妹と二人きりで昼食をとると言うのもあまり見栄えの良いものじゃない。
それに、知らぬ者にしてみれば、男女が仲睦まじく昼食をとっている図にも見える。俺はともかく、早妃にとっては好ましい状況ではないだろう。
ただでさえ、こうして俺なんかと二人で昼食をとらなければならない状況だと言うのに、良からぬ噂でも立てられれば、さらに孤立を助長させてしまう。
出来ることなら、人眼は避けた方が良い。
そう判断しての場所選びだったわけだ。
しかし――誰もいないと踏んでやって来たその場所には、思いがけない先客があった。