「五」
幼い頃からじいさんと二人暮らしだった早妃は、色々と普通ではない。
普段着が着物であること然り、趣味が茶の湯に華、なんてこと然り。
真っ直ぐな黒髪に鬢削ぎ髪が良く似合っていたり、現代に生きる十代の少女にしては、言葉遣いが妙に丁寧過ぎたりするところは――……まあ、嫌いではないが。
そんな分かり易い違い以外にも、例えば炊事に代表されるような家事一般がプロ裸足であったりとか、常に男を立てることを旨としているのか、俺によく尽くしてくれたり、とか。
両親が未だ奥出雲から戻らない現在に至っては、お袋の分担までも全てこなしていることになるし、むしろ、より以上に張り切って俺の世話を焼こうとしているように見える。
……ここだけの話、油断すると、背中を流そうと風呂場まで押しかける勢いである。
――ふと、不安に、思うことがある。
早妃は、自身の境遇に引け目を感じているのではないか、と。
「にいさまにご苦労をおかけしているのは、事実ですから」
そう言って、早妃は笑う。
違う。そうじゃないんだ。俺はただ、自分がそうしたいからそうしているだけだ。けして安くない借金を背負ったのだって、自分の我が侭なのだ。早妃までがそれを背負うことはない。
「――では、これも早妃の我が侭です。早妃がにいさまに尽くしたいから、尽くすだけ。……にいさまと、同じですね?」
そう言って、早妃は屈託なく笑う。
……敵わない。こんな早妃だから、俺はどこまでも甘やかしてやりたくなっちまう。
まったく、とんだ悪循環だ。
……だけど、それを何より心地良いと感じる。
こんな時間がずっと続けばいい。
――そんなことを、思う日々。