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「四十九」

 仙巌園家に連絡を取ると、佐保ちゃんのお父さんは快く迎えの車を出してくれた。

 涙を浮かべて喜ぶお父さんに佐保ちゃんを引き渡し、俺と早妃は単車で帰途に就く――はずだったのだが、ふと思うところがあって、俺は早妃を車に押し込んだ。

 佐保ちゃんには、落ち着いてから改めて状況の説明をする必要があったし――何より、早妃みたいな奴が傍にいた方が、今夜は安心して眠れるだろうと思ったのだ。


「――でも、本当に、にいさま一人で大丈夫なのですか?」


 後部座席の窓から、早妃が心配そうな顔を覗かせる。

 両親が家を空けている現在、早妃がいないとなれば当然独りになるわけではあるが――……子供じゃないんだから、と言う話である。


「一人で眠れますか? お腹冷やしちゃだめですよ? 明日お休みだからって、お寝坊したらだめですからね?」


 ……まあ、何を言ったって聞きやしないんだろうな、このお姫様は。

 嘆息しつつ、俺は苦笑した。お前の方こそ、俺がいなくてもちゃんと寝ろよ? なんて。

 普通の兄妹なら、強がって「大丈夫よっ!」ってなもんなんだろうが、


「はい……寂しいですけど、がんばります」


 なんて言ってしまうところが……何と言うか、早妃らしい。

 悪い気はしないし、そんな妹に安心もするから――がんばれよ、と最後に頭を撫でてやった。


 ――或いは、そんな幸福な兄妹の情景を羨んだのか。



――オニイサマ――



 ……どこかで、そんな呟きが聞こえた気がした。



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