「四」
妹がいる。
名は、『須勢理 早妃』。
だが、厳密に言うと、早妃は俺の「妹」ではない。
彼女は、叔父夫婦の娘――つまり、本来は従妹に当たるのだ。
何故その従妹を妹と呼ぶのか。……経緯は色々とあるのだが、端的に言うならば、それは彼女の両親が既に他界しているからに他ならない。
両親を早くに亡くし、祖父にも頼れなくなった早妃が、俺達一家の家族となったのはごくごく自然な成り行きだったろう。
早妃がうちにやって来たのは、じいさんが入院することになった二年前。
しかし、実のところはそれ以前から、早妃は俺にとって本当の妹と変わらない存在だった。
幼い頃から奥出雲の山の中で暮らしていた早妃は、同年代の友人にも恵まれず、生まれ付きの虚弱体質ゆえ外を駆け回ることもままならず、ほとんど家に籠もりきりの生活を送っていた。
たまに訪れる祖父の家。そこで独り寂しそうにしている女の子。それに対し、稚拙な保護欲を抱いてしまったところで、それを誰が責められよう。
幼き日、早妃を護るべき妹と認識するようになって、それから幾らかの年月が過ぎた。
俺は相変わらずの――両親すらも呆れるほどの甘やかしっぷりで早妃と接している。
どのくらい甘いのかと言えば――……早妃の足代わりとなるために、親父に借金してまで単車の免許を取るくらいには。
手前味噌だが、早妃もまた、そんな俺のことを慕ってくれている。
どのくらいかと言えば、
「――お帰りなさいませ、正士郎にいさま」
……そんな風に、玄関先で三つ指突いて、バイト帰りの俺を出迎えてくれる程度には。