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「四十四」

 あっと言う間に手のひらを返して申し訳ないが、俺は自身の視力に感謝する。

 「それ」に気が付けたのは、正に俺のこの眼のおかげだったからだ。

 先ほどまで佐保ちゃんが腰掛けていたベンチ。そこに、何かが放置されている。

 雑誌だった。何の雑誌かまでは分からない。だが、そんなことはどうだっていい。重要なのはそれが――「二次元画像」が主体を成す物体である、と言うことだけだ。


 いつだって間抜けなほど脳天気で、存在意義すら定かでない半人前の『付喪神』が、ここへ来て希望の光になろうとは誰が考えたろうか。


「――ふえ? 何のことでしょお……?」


 なんて本人はきょとん顔だが、それもまた良し。間抜け面も今は愛嬌だ。


 俺の考える作戦はこうだ。

 まず、俺がさっきの要領で佐保ちゃん――『犬神』の注意を引く。

 その間、サキ子はスマートフォンから霊体を切り離し、死角から『犬神』の背後に回り込む。

 その後、ベンチ上の雑誌を『依り代』として『写し身』を作ったサキ子が、『犬神』を拘束する。

 佐保ちゃんの身の安全を確保した上で、素早く俺が肉薄すれば――

 ……すれば。


 そこまで言って黙り込んでしまった俺に、ちゃこは何かを訴えかけるように大きく両手を振った。

 じっと耳を傾けていた早妃が代弁する。


「――にいさまが近くまで連れて行ってくれるなら、後は何とかするって言ってます」


 但し、幾ら俺でも近付き過ぎれば危険があるかも知れないから、少し手前で自分を放り投げてくれ――と言うことらしい。

 ともかく、近付きさえすれば、後はちゃこが何とかしてくれる。身振り手振りで必至に俺へ意志を伝えようとする様はあまりにも愛らしいが、不思議なほどの心強さを感じた。

 早妃からちゃこを受け取ると、手の上の彼女に、よろしくな、と声を掛ける。

 愛らしくも頼りになる小さな『猫又』は、気合いを込めるように両手の拳を握りながら、こくこく、こくこく――と。何度も何度も、力強く頷いていた。



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