表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/54

「三十九」

 早妃は、俺の「存在」をいつも傍に感じていると言う。

 それは比喩でもなければ惚気でもなくて、早妃にとっては正にその通りの感覚らしい。

 言うなれば、体内に『正士郎探知機』とでも呼ぶべき機能が備わっているのだ。

 俺が今どこにいて、どこに向かっているのか。どのくらいの距離にいて、どの方角にいるのか。それが、手に取るように分かるらしい。

 ……おかげで、こっそり一人で出掛けようとしても絶対に掴まってしまうし、逆に帰りがいつになろうと、必ず玄関先で出迎えてくれる。

 善し悪しではあるが――本人としては、そんな異能を楽しんで暮らしている様子ではある。


 その異能は、俺が言うのも何だが、恐らくは早妃の想い――「執着」の強さが顕現したものなのだろうと思う。俺以外、他の誰に対しても効果がないと言うのは、まあ、そう言うことなのだ。


 もしそれが万能探知機であったのなら、こんなに簡単な話はなかったのに。


 ……そう考えてから、ふと思ったのだ。

 それは、閃きと言うにはあまりに乱暴であったし、提案と言うにはあまりに他力本願であったのだが――不思議と、悪くない賭けのようにも思えた。


 ちゃこには、佐保ちゃんの居所が分からないと言う。

 少なくとも、早妃のような規格外の異能は持ち合わせていないと言うことだ。

 しかしちゃこは、教えてもいない俺達の家を、気配と嗅覚のみで探り当てたと言う実績がある。元が猫であるからかも知れないが、その捜索能力自体は早妃よりも優れているはずだった。

 それに、「執着」と言うことであれば、早妃のそれにけして引けは取らないはずだった。


 おそらく、異能と言うモノには個人差があるのだろう。同じ「異能者」ではあっても、個々によって得手不得手があり、出来ることが変わってくる。

 早妃は、見たり、聞いたり、感じたりと言ったことは得意だが、佐保ちゃんのように霊を憑依させたりは出来ないし、また、ちゃこのように、霊障を能動的に退ける術も持たない。


 ならば――それぞれが協力し合えれば、その応用幅は大きく広がるのではないか。


 ……一見、単純明快で合理的な閃きに見えるかも知れないが、その実、酷い思い付きである。

 異能を持たない俺には理解出来ない世界である以上、具体的な指示など出来ないわけだから――提案などとも呼べない単なる丸投げなのだ、それは。


 早妃の持つ、規格外の感知能力。

 ちゃこの持つ、本能的な捜索能力――何より、佐保ちゃんへの「執着」。


 二人の力を合わせることが出来れば、或いは。

 俺の無責任な提案に、早妃は――


「――やってみます。いえ、やってみせます。……ちゃこちゃんも、「任せるにゃん」って言ってくれてますよ?」


 ……そう言って、戯けるように笑った。

 見慣れているはずの妹の笑顔を、これほど心強く思ったのは初めてだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ