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「二十」

 文献に見る、妖怪として語られる『猫又』と言うモノは、単純に人食いの化け物であることが多い。

 対して『付喪神』として語られる『猫又』の場合は、人の姿に化けたり、人の姿で誰かを化かしたり、誰かを呪ったり――より、超常的な存在であったりする。


 早妃が佐保ちゃんの肩上に見たそれ――「ちゃこ」は、人型であったと言う。

 サイズとしては手のひらサイズ。サキ子とはどっこいの大きさ。

 白い服を着た少女で――頭上に獣の耳を備え、二股に分かれた尻尾があった。


 ――だが、疑念がある。

 果たして、早妃の話を鵜呑みにして良いものなのか。


「にいさま……疑ってらっしゃるんですか……?」


 悲しそうな眼をする早妃。

 だけど、当たり前だろう?

 その『猫又』は、確かに「ちゃこ」だと名乗ったのかも知れない。

 けど、それが本当だとは限らないじゃないか。

 伝承に見る妖怪って奴は、どんな見た目であろうと善良だとは限らない。

 もし、早妃が騙されているのだとしたら――佐保ちゃんはもちろん、早妃にまで危険が及ぶかも知れない。

 ……早妃は純粋な子だから、俺が誰かを疑う、と言うことを悲しむかも知れない。

 けど、早妃のためならば、譲れない。


 ――「ちゃこ」を疑うのが、俺の役目なのだ。


 ……そう言うと。

 何故か早妃は、一転して嬉しそうに笑った。眼の端にうっすらと涙まで浮かべて、何故か、そっと俺の腕を取って寄り添ってくる。

 狼狽していると、サキ子がこれまた嬉しそうに微笑んで言った。


「……正士郎さまって、早妃さんが「見たこと」は、決してお疑いにならないのですね」


 思わずきょとんとしてしまう。

 サキ子は何を言っているのだろう。早妃を疑う? ――意味が分からない。早妃以上に信用出来る人間など、俺は知らない。

 ……今更それを疑うなんて。

 俺がどれだけの時間、早妃と共に過ごして来たと思っているのか。


 ――そう。

 俺は長いこと、早妃の傍にいた。

 だから、早妃の「世界」を疑うつもりはない。余地もなければ、意味もない。


 ……しかし、思うのだ。

 一時的にでもいい。早妃と同じ「世界」を見る術があれば。


 そうすれば――きっとこの世の全てから、早妃を護ってやれるのに。



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