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「十七」

 それは、僅かな時間の僅かなお喋りだったけど、その間に分かったことが二つある。

 佐保ちゃんは、とても優しい子なのだと言うこと。

 ……それと、とても猫が好きな子なのだと言うこと。

 ――あの日、独りで泣いていたのも。

 ずっと臥せっていた飼い猫が亡くなったと、電話で知らされたから。


 物心が付く以前から一緒にいて、まるで双子の姉妹のように思っていた猫。

 それは、友達を作ることが苦手な彼女にとって、肉親以外で唯一心の許せる存在だったのだ。

 あの子を亡くして、これからどう生きて行けばいいのか分からなくなった――と彼女は言った。

 大げさな、とは思ったが、あの時見た涙が嘘だとは思えなかった。


 ――そして。

 事ここに至り、早妃は彼女の手を取って言った。


「――佐保ちゃん! わたくしたち、お友達になりましょう!」


 珍しく、力強い言葉だった。


「わたくしは、今日貴女と話してみて、貴女のことがとても好きになりました! もっと、貴女のことが知りたいと思いました! 佐保ちゃん、貴女はどうですか?」


 早妃の勢いに、面を食らったようにする佐保ちゃん。

 ……けど、しばらくして。


「……うん。私も……早妃ちゃんと、お友達になりたい……です」


 言って、気恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、頬を染めた。


 ……やれやれ、と胸中で息をついた。

 引き合わせておいて何だが、二人が上手くやれるかどうかは正直、自信がなかった。

 だから、ほっとした。肩の荷が一つ下りた気分だったのだ。


 ――だが。

 佐保ちゃんが去った後、俺は早妃から奇妙な話を聞くことになる。


「ちゃこちゃんも、嬉しそうでしたね」


 ふいに紡がれた言葉。……ちゃこ? 何のことだ? 俺には分からない。


「何って……佐保ちゃんの猫ちゃんじゃないですか」


 じゃないですか、じゃない。……俺はそんな名前を、佐保ちゃんから聞いた覚えはない。


「佐保ちゃんは言ってませんでしたけど」


 ……佐保ちゃんから聞かずに、何故分かる?


「自己紹介してくれてたじゃないですか」


 ……お前は何を言っているんだ?

 いや――何を、見ていたんだ?


 不満げに唇を尖らせて、早妃は言った。


「ですから、ちゃこちゃん、ですよ。ずっと、佐保ちゃんの肩の上にいらしたじゃないですか――」



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