表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/54

「十六」

 昨日よりも少しだけ賑やかになった、ランチタイムの一コマである。


「早妃ちゃん、お料理上手なんだ……」


 俺と早妃の弁当箱を覗いて、佐保ちゃんは心底意外そうに声を上げた。

 確かに、早妃の料理はちょっとしたものだ。正直、不味いと思ったことなど一度もない。

 むしろ、意外そうなのが意外だが――……まあ、不器用で鈍臭そうに見えると言うのは分かるか。


「にいさま、今夜から突然お料理が不得手になっても宜しいんですよ?」


 にっこり。……恐ろしい笑顔である。

 佐保ちゃんはくすりと笑って、


「そんな風に冗談を言うのも、不思議な感じ……。クラスのみんな、早妃ちゃんは箱入りのお姫様だと思ってるから――……私も、だったけど」


 箸より重い物を持ったことがない、とか?


「そんな感じ……です」


 どこか照れ臭そうな、優しい微笑みだった。

 確かに、早妃の虚弱体質は筋金入りである。僅かな距離を小走りしただけで息が上がるし、体育の授業など以ての外。昏倒して周囲に迷惑を掛けたことも少なくない。

 が、その反面、妙なところでは意外なほどパワフルであったりする。例えば「布団の上げ下ろしは女の務め」などと言って憚らず、俺が自らやろうとすると凄い剣幕で怒るのだ。


「お布団……です、か――えっ?」


 何を思ったのか、ふいに顔を赤くする佐保ちゃん。

 ――って、いやいやいや! 何を想像しているか知らないが、単なる寝床の準備ってだけで、それ以上のことは何もない! 断じてないっ!

 ……なんて、必死で弁解する俺の横で、姫君は優雅に笑っているわけで。


「ええ、お布団を敷いて差し上げて――毎晩、お傍で就寝させて頂いているだけですね?」


 確実に確信犯である。

 念のため言っておくが、単に兄妹が同じ部屋で寝ているってだけだ。それ以外の意味なんてない。


「え? それ以外に何か意味があるのですか?」


 にこにこ、と。

 ……仕舞いには、佐保ちゃんに気を遣わせる始末である。


「あっ、あのっ、大丈夫ですっ! 私っ、わ、分かりましたっ! お二人は従兄妹同士だけど、今は兄妹同然に暮らしていて、それでそれでっ、毎晩一緒に寝るくらい、とってもとっても仲良しなだけなんだって、私っ、分かりましたからっ……!」


 ……いやま、言葉にすればその通りなんですがね。


「ええ、とってもとっても仲良しですから」


 にっこり。

 ……早妃や、お兄ちゃん虐めて楽しいかい?


「いいえ? 早妃、にいさま大好きですよ?」


 にこにこ、にこにこ。

 俺は嘆息して――苦笑した。

 常々思う。……兄貴をやるってのも、けっこー大変なんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ