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5 信じて送り出した美少女メシアが……

 関係各位の皆様。ごきげんうるわしゅう。


 聖都に入ると、そこは案外にすずしくていい感じです。

 ちょうど谷間にできているのでしょうか。

 谷間の小さなスリットになっているところを、鋭い風が吹き抜けることで砂漠の中にあっても涼しいようです。

 さすがに観光地として一級なためか、人がたくさんいます。

 東京に比べればさすがにまだまだといった感じですが、この世界の人口密度からすればかなり高いと思います。

 数値にして一平方メートルあたり平均で二人から三人程度のスペース。

 それも一つの道へと向かっているためでしょう。

 神殿@聖都は高台に建てられていました。

 そこにいたるまでがとてつもなく長そうです。はっきり言っていきたくないです。まあ信者からしてみれば、行きたくて行きたくてたまらない観光スポットですから、ここで私がごねるとかなり浮いてしまいます。

 植物のように生きるのが目標の私としては、できる限り目立たないことが大切。

 行かないという選択はありませんでした。

 大きく息をついて見上げると、

 蛇がうねうねとのたくったような長い道が天のほとりを目指して突き進んでいるかのようです。

 そこに至るまでに人の波。

 軽くコミケ状態ですね、これ。

 当然ながら道端にもたくさんの人が座りこんでいます。

 神様の住居でそのおこぼれにあずかろうとする物乞いの人たちです。

 私がざっと見る限りでは、物乞いの成功率はだいたい五パーセント前後です。

 低いと思います? 

 いえ、これだけ人がいれば、余裕ですよ。

 おそらく私が住んでたナザレよりもずっと裕福な暮らしができているんではないかと思います。

 ただ、あまり裕福になりすぎますと徴税されちゃいますし、社会的地位は保障されていませんのでおすすめはできません。

 両親の反応を見てみると、多少の憐みをもって見ているようですが、助けようという気はあまり無いようでした。

 敬虔な信徒としては助けないほうが実は正しい行動ということになります。

 なぜなら、彼らが貧しいのは彼らの罪のせいだという考え方があるためです。

 某宗教のひとつのキーワードとして、これは覚えておいたほうがよいのですが、

 人間というのはみんな『原罪』というのを抱えていて、その罪に応じて現世において病気なり貧しさなりが訪れているという考えです。

 人が死ぬのはいわば罪のせい。

 罪というのはその人の魂の成せる業とでもいうべきものですから、換言すれば

――全部お前が悪い。

 という思想です。

 あれれーとここで、某年齢詐称名探偵のような声をあげたいところです。

 神様が人間をそのように作ったのなら、その原因の端緒となったのは神様にあるのではないですか?

 仮に人間が自由な意思で悪や堕落を選んだとしても、それは神様の命じた運命がそうであるからというだけのこと。

 あるいは神様が不完全だっただけということ。

 神様が自分の罪をなすりつけているように思います。

 おそらくそんなことを公言すれば全速力で石つぶてを投げつけられますので、私は黙って神様の棲むお屋敷へと足を進めました。


「イシュア。これだけ人が多いのですから、はぐれないように気をつけなさい」

「……」


 エネルギーの効率化のため、私はうなずくのみにとどめます。

 実際、これだけ人間がいれば、はぐれる子もいるのではないかと思います。

 途中ではぐれても迷子の子を探すアナウンスなんてあるはずもありません。

 その場合は、自力でなんとかするしかないでしょう。

 私の場合は、身長がまだまだちんまいので、なおさらその可能性が高まります。

 美少女属性のせいで、やたらと振り向かれますが、視線を下に向けないと私のことを見れませんから、それほど目立っていないと思いたいところです。

 あー、しかしこれはこれでまずいかもしれませんね。

 普通の人は私を見つけにくく、見ようとするものにとっては見つけやすい状況。

 だって、ほら?


 いつのまにか、手を強引に掴まれて……。


 連れ去られているじゃありませんか。

 抵抗する気も失せるほど必死すぎて、恐怖も怒りも湧きませんが、ともかく盛大な溜息ばかりです。

 私が言えるのは一言だけ。



――このロリコンどもめ。



 思考が爆速でも身体能力は普通の少女レベル。

 いつのまにやら脇の道へと抜け出て、小さな小屋に連れこまれていました。

 犯人と思しき人たちはどうやら三人組。

 全員男です。

 逃げられるわけもありません。

 ここで、下手に逃げてもつかまるだけでしょうし、別に殺される恐れもないでしょうからたいしたことではありません。

 極端な話、ここで私自身が犯されようが、別にどうでもいいといえます。

 真実、どうでもいいのですよ。

 男たちは血走った眼を私の太ももやら未成熟な躰のラインやらに向けています。

 完全に性欲もてあましてます。


「へへ、上玉だなこいつ」

「しかし、こんなちんちくりんを連れこんでも楽しめませんぜ」

「バカ野郎。こんだけ綺麗な顔してりゃ。関係ねぇよ」


 うわーなんてテンプレートなんだろう。

 逆に嬉しいです。

 それにしてもこんな美少女を連れこんでいかがわしいことをしようだなんて悪魔的所業ですよね。

 というか悪魔そのものですよね。

 いまだ悪魔とか天使とかそういった類のものを見たことはないんですが、もしかしてこれって殺っちゃっても罪に問われないんじゃないでしょうか?

 某宗教って厳格なように見えて、案外命のとらえ方は雑です。

 いえ、そうではないですね。

 厳格だからこそ、ルール違反をした魂はゴミにも劣ると考えるのでしょう。

 神様の子どもであるはずの私をかどわかしたのですから、その罪は極限。

 つまり、極刑へと至って当然のはず。


「少しお話しませんか?」


 気づくと私は口を開いていました。


「あん? どうした今から何が起こるかわかりませんってか?」

「いえ。だいたいわかりますが……。しかし、私が興味があるのは私自身のことについてだけです」

「かわいいお顔がぐちゃぐちゃになっちゃうのが怖いとかか? 優しくするぜぇ。俺は紳士だからよ」


 当然ながらこの時代に紳士なんて概念があるはずもなく、

 おそらくは誠実なというような概念がそのまま翻案化されたものでしょうが、

 その視線の意味するところは問うまでもありません。


「短答直入に問いますが、自分がやってることが悪いという自覚はありますか?」

「あるぜ。おおありだ。姦淫は罪だろ」

「こんな年端もいかない女の子を姦淫するなんて外道ですね」

「ああ、外道だよ。だがな俺たちにとっちゃそれが正義なんだ」

「正義ですか?」

「ああ、可愛いは正義だ」

 どこかで聞いたような教義ですが……。

 それもまた一つの宗教といえなくもないかもしれません。

 変態宗教ですが。

「こちらの神様はわりと厳しいですよ。ルール違反は拷問にかけられても文句もいえません」

「知ってるよ。だがばれなきゃいい」

「まあそれもそうですね」


 私は素直にうなずきます。

 にっこりとほほえみもサービスです。

 神様を殺すいい機会が訪れて、私は喜びで胸いっぱいです。

 もしもここで私が犯されれば、少なくともその神様とやらは自らのルールすらも制御できないできそこないということになりませんでしょうか?

 私は神様の子どもらしいですし。

 その神様の子どもがルール違反によって、預言も成就することなく蹂躙される。

 これは神様自身のルール違反。

 つまり、神の自殺。

 ある程度論理の破綻があることは重々承知していますが、しかし、私の貞操程度で

――神の不在

 が証明されるのでしたら、こんなに簡単なことはありません。

 四文字さんがもしも本当に実在したとしたら、こう嘆くでしょう。

 信じて送り出した美少女メシアがロリコンお兄さんの変態宗教にどハマリして、どや顔ダブルピース聖書を送ってくるなんて……。

 いや、ないんですけどね。

 どハマリというところがありえそうにないんですが、それでも期待しちゃいます。


「なんだこいつ。初めて星を眺めた幼子のように目をキラキラさせてやがる」


 あ、いけません。ちょっとだけ私に対して恐怖しています。

 奇異なものに対する理解できなさにたじろいでます。

 どうしましょうか。

 これでは私の神殺しの計画が達成できなくなってしまいます。


「蒸し暑いですね。ここ……」


 半月のような白い肩を露出させ、ぱたぱたと手で団扇を作ります。

 ごくりと男たちの喉の鳴る音が聞こえました。

 もう一息ですね。

 神様を殺すために、ひと肌でもふた肌でも脱いでみせましょう。

 イシュア@がんばります。

 傍から見ると、ただの淫乱美少女かもしれませんが、神様を殺して残りの寿命を憂いなく過ごせるなら何も問題はないのです。

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