表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4 聖都に旅行します

 関係各位の皆様方。

 いかがお過ごしでしょうか。

 イシュアは大きくなりました。

 といっても、まだまだ十二歳。

 ですがご近所では評判の美少女です。

 バカなの死ぬのって言われるぐらいのレベルとか。

 神の栄光のおかげなのかわかりませんが、人間やめちゃったレベルの可愛らしさらしいです。

 正直、自分で自分のことはわかりませんね。整ってる顔だなということはわかるんですが。

 なんかやたら色素の薄い顔だちと無表情で、ロボットっぽいなと自分では感じているんですがね。

 あ、でも前世記憶からすれば、かなりストライクだったぽい感覚です。

 日本視点で言えば、外国の少女って人間のレベル超えてることがありますから、そうなるのもわかりますけどね。ただ劣化が激しいとも言われてますが……。

 まあそんな下世話なことは正直どうでもいい部類の話です。

 私が女としての幸せをゲットしちゃったり、女子力を五十三万くらいまで高めちゃったりすることも今考えるべきことではありません。

 大事なのは寿命です。

 神の死刑宣告の年齢です。

 某宗教の某宗教家が人類補完計画を始めるのは確か三十歳くらいからだったはずです。

 今の私はまだまだ安全な年頃。

 ひたひたと死の影が歩み寄っているわけですが、この件に対する恐怖心はそもそも持ち合わせていませんし、対策もすでに実行中です。

 対策は簡単です。

 ずばりニートになることです。

 父と母の関心を失わない程度に品行方正にし、ある程度……、そう、ほんのりと救世主っぽいなーと思わせつつ、全力で何もしない。これに尽きます。

 私が観察する限り、この時代、この地域の生活はかなり苦しいと思います。

 ですから、かなり経済的に豊かでないとその生活が成り立たないニートというのは実は修羅の道だったりします。

 できればですね。

 私は暗い部屋でひとりテレビはつけたままパソコンで某動画でも見ながら、適当にコンビニ弁当でも食って生活していきたいんですよ。

――屑でごめんなさい。

 口先だけですが言ってみたり……。

 でもそういう理想が成り立たないことも今のこの脳髄は計算してしまってるわけです。

 一番良いのは、それなりに尊敬されることですね。

 人類救済とか考えない。

 為政者を刺激しないで、先生とか呼ばれちゃって、尊敬されながらそれなりの地位におさまっている。

 これがベストなんじゃないかなと考える次第です。

 で、いまは雌伏の時ってやつですかね。

 大人たちに対して、現代知識チートをちらほら開陳してたら、いつのまにか神童扱いされてました。

 まあ、神童なんですけどやりすぎないことが肝要でした。

 なにしろ偉い人たちはすぐに殺しにきやがりますからね。そこそこに褒められることが大事なわけです。

――出る杭は打たれる。

 は真実なのですよ。


 ところで、今度、聖都エルサレムに行くことになりました。

 エジプトで逃亡してたことやナザレに流れてきたことを除けば、今世ではじめての旅ってやつですね。

 特に観光旅行っていうところが良いです。

 正確には巡礼旅行なんでしょうけど。

 みなさんよく御存じかと思うのですが、某宗教の土台に古い方の宗教があったりするわけで、私たち家族にとっての宗教はその古いほうの宗教だったりするわけです。

 ていうか、この界隈で宗教って言ったら、それぐらいですね。

 あとは宗教未満の慣習法とかがごちゃごちゃと乱立してるぐらいです。

 精神的支柱となっているのは、旧約宗教のほうなんですよ。

 もちろん、旧といっても新約のほうがでていない以上は、現宗教に相違ないところなのですが。


「お母さん。まだですか?」


 私は言葉足らずに不平を述べ伝えます。

 ラクダに引かれたボロボロな車に乗っている状況ですが、ただ揺られているだけなのにかなり体力を使います。

 当然、道なんてものはなく、ただひたすらに悪路を進んでいく感じです。

 まあ、砂漠ですよ。

 一言でいえば、ここらは砂漠の世界なのです。


「あと四日よ。イシュア」


 ああ、そうですか。

 最近は殺意にも慣れてきたので、なにか面白い拷問方法はないかと考えることにしています。

 ですが、虫一匹殺していませんのでご安心を。

 そもそも、SATSUGAI大好き少女だと思われているかもしれませんけど、そんなことはまったくないのですよ。

 快楽殺人者のお仲間とか思われては心外です。

 単にブレーキがないだけです。

 なんといえばいいか……。

 私には快楽原則というものがそれほど働いていないように思うんですよね。

 本当なら気持ちいいという感覚と不快という感覚がもとになって、好きや嫌いや、その他もろもろの感情に派生していくと思うのですが、

 今の私にあるのは、その形代だけのような気がします。

 その形代に流しこんでみたい。

 もしかしたら、何か感じるかもしれないなー的な?

 あ、こんな言い方をすると感情が無いとか快楽原則が無いとか思われるかもしれませんので、念押ししますが、『無い』わけではないのですよ。

 ちょっと痺れてるだけです。

 ポンコツ化してるというか。

 なんか蹴っても叩いても、うんともすんとも言わない壊れかけのラジオ状態というか。

 そんな感じなんです。

 だから、私はラジオでいえばチューニングしたいのかもしれません。

 前世のように、また普通に感動したいのかも?

 殺害はその一例ですね。

 もしかすると、感動するかもしれないから、その極限的なテストとして殺してもいいかなと考えてるだけです。

 別に泥棒でもいいですし、崖からアイキャンフライでもいいわけです。

 でもさすがに自分を殺すのは前世に対する裏切りになりますから選択できません。

 私ってわりとそこらは律儀みたいですね?

 自分のことはよくわからないものです。


 さて時間にして四日後。

 ようやく聖都に到着しました。

 聖都だから栄えてるのかなぁとも思ったんですが、正直そんなことはありません。

 日本の田舎のほうがかわいく見えるレベル。

 マジで土壁の家しかないです。

 あ、でも遠くにある神殿はわりとマシですね。

 相当気合かけて作ったのか、その神殿だけは白いなめらかな光沢をしています。

 アートは好きですよ。

 感動は薄くなってしまったけれど、目が楽しんでるなぁというのが機械的に理解できますから。

 そういう身体的な反射に近いレベルの事柄を数値変動としてとらえることに楽しさを覚えます。


「あそこが主のおわす場所よ」

 マリアさんが感動に胸をふるわせています。

 最近空気気味なヨセフさんも同じように涙を目に浮かべています。

 私はやっと休めるなぁという気持ちで、ほほの筋肉が緩むのを感じていました。


「あなた、イシュアが笑ってるわ」

「おお、なんと神々しい……」


 これじゃあ、単なる親馬鹿ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ