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2 私、ひきこもりになります

 拝啓。関係各位の皆様。

 幸福ですか?

 幸福は義務です。


「噂によるとヘロデ王は二歳児以下を皆殺しにしたらしい」

 

 ご老体ズの一人がそんな物騒なことを言い出しました。

 そういやそんなことがありましたね。

 どことなく他人事なのは、世界のほかの国で起こった戦争とかをテレビで見てても、特に何か行動を起こそうともしない日本人気質が成せる業でした。

 ていうか、この赤ん坊の状態で何かをしようとしても無理です。絶対無理。

 首も座ってないのに。「あー」とか「うー」とかしか言えないのに。

 自分が神様の子?っていう感覚なんて微塵も感じませんし、天使っぽいのが見えたりとかそういうこともなし。

 ちょっと言葉がわかったり、ちょっと思考が速かったり、妙に冷静すぎたりと、いろいろと変なところはありますが、さすがに今のこの状態で何かできるようには思えません。

 もしかすると、そういうことを思ってしまうのも、なんとなく運命めいたものを感じてるせいでしょうか。


 ほら、ヘロデ王が二歳児以下の子どもを皆殺しにするって、

――預言

 に書かれていることなんですよ。

 神様は中二病だったとかいうつもりはありませんが、どうも黒歴史ノートらしいものがあるらしくて、その予定の通りに事が運ばないと済まない気質の持ち主らしいんです。

 で、預言に書かれちゃってるイコール、デスノートに書かれちゃった状態ですから、どうしようもない。

 少なくとも、神様の力を借りてのチートでは、預言を覆すのは無理っていうことになります。

 だって、チートをくれた神様のやる気がないのだから。

 単純な論理ですね。

 運命って残酷ですよね。

 私も哀しいんですよ。

 二歳以下全滅ってヘロデ王マジ鬼畜すぎ。見殺しにする四文字さん(かみさま)超クール。

 覆水盆に返らずじゃないですけど、起こったことをなかったことにするほうがいろいろとまずい気もしますし、この点についてはもはや私の責任はないような気がします。

 責任感?

 まあ、ちょっと罪悪感のようなものはあるんですが。

 ほら、例のふわふわ感覚のせいで、『そんなことはどうでもいい』んですよね。

 この子、というかこの器というべきなのかもしれませんが、他人に共感する感覚が非常に薄いみたいです。

 どうしてでしょう?

 ここにいる『私』はそんなにも薄情な人間だったんでしょうか?

 魂というものがあるかどうかわからないですが、この器に現在おさまっているこの思考の主についてはそうではなかったと思うんですけど。


 うーん、この感覚に不快の感情は特に無いのですが、わからないということに命の危機のようなものは覚えます。

 ですから、この感覚をうまく例えてみましょうか?


 普通の人間が持っている倫理とか道徳とかを一つの柵に見立てましょう。

 その柵の中に聖なる仔羊さんがたくさんいます。

 その仔羊さんをみなさんは心と呼んでるわけです。

 この器、その柵が無いみたいです。

 だから、仔羊さんはあっちへふらふらこっちへふらふら。

 どこへでも行ける。

 でも、そこに『私』だったころの記憶がある。

 たぶん、横軸のない、看板のような柵だけが、スカスカだけど周りを覆ってるような状況だと思います。

 再び中二病ですが、今の私、なんだか人を殺せそうなんですよね。

 なんの気構えもなく、お食事をするように殺せそうな。

 でも、なんとなくやっちゃダメなことも記憶としてるというか。

 だから結果的に殺さないと思います。

 ていうか、今の状況ってさりげなく人類の危機じゃないですか?

 おそらく世界の三分の一ぐらいの人間の精神の土台になってる某宗教家のヒヨコがここにいるわけですが、

 本人のやる気なんて微塵もないですよ。

 だって、ほら、このまま行けば死亡フラグ満載じゃないですか。

 四文字さんの黒歴史ノートによれば、私、三十歳くらいで死んじゃいますし。

 さすがに童貞のまま死にたくないです。

 あれ?

 なんだか、今のセリフ。男っぽいですね。男だったのかなぁ。

 自分の思考がなんだか中性っぽいんで、女だったのかなとも思ってたんですが、正直よくわかりません。

 うーん……。

 ともかく、このイシュア君は神様から『君、三十歳で死亡ね』と宣言されちゃってるわけです。

 正直ないわって感じです。

 他人に共感できなくても、前世の記憶から参照する限り、この状況はないです。

 怖いという感覚や不安という感覚も薄まっていて、どこか麻酔のようにしびれているんですが、それでも数学的に考えてないわって思えました。

 他人の命を大事に思わないやつなんてぶっ殺してやるって感じです。

 いや、まあ神様だし、偉いんでしょうし、

 神様から見たら『この屑虫が、おまえは黙ってイエスって言ってろよ。救世主だけにwww』とか、そんな感じなんでしょうけど。

 ちょっと独りよがりすぎませんかね。

 あ、草生やしたのは私の勝手な妄想ですんで、おかまいなく。

 天におわすお方にとっては屑虫ほどの価値もない私が勝手に妄想しているだけとお思いください。

 それでも思っちゃうんですよ。

――なぜ私が他人のために死ななければならないのか

 という疑問に答えられるほど私は成熟していないみたいなんです。

 それに神様にとってもこの私の存在ってかなりイレギュラーじゃないんでしょうか。

 某宗教って、メシア=神様の子でありながら、神様そのものだったりしませんでしたか?

 確か、三位一体とかいって。

 そうすると、ここに『私』がいるのってヤバくないですか。

 どう考えても自分のことが神様っぽいわー、超神様っぽいわーという感覚なんてないんです。

 あるとすれば、どこぞの動画サイトにちょいちょいと作った動画が賞賛されたときに言われたくらいですかね。神キター的な。

 実際の私は、ただひたすらに凡人の予感しかしません。

 いまのこの器がいくらハイスペックだとしても、世紀末救世主伝説とか絶対に無理です。

 せめて青狸のポケットをください。


 まあ、そんなわけで今後のことなんですが

 私、引きこもりになります。

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