14 少女を調教しちゃった件について
関係各位の皆様。
いま、私たちは聖都エルサレムからナザレに帰る途中です。
ヨハネさんの預言によれば、どうやら私の寿命というか布教しないでよい期限は二年間のようですが、逆に言えば二年間は何にもしないでも生きていけます。
ニート万歳。
しかし、そうも言ってられません。
私の家は実は大工をやっているのですが、大工という職業は決して金持ちでもなければ、社会的地位が高いわけでもありません。
しかも、我が家には使徒っ娘がふたりも増えました。
この子たちを食べさせていくのは私の責務です。
とすれば、現代知識を開陳していくのがいいでしょうね。
いまさら、現代知識チートを制限する理由も見つかりませんし。
なにしろ、私は布教しなければ死ぬか、少なくとも大変よろしくないことが待っているわけです。
白紙の未来がバッドエンドに染まるのを防ぐために、私としても躊躇するわけにはまいりません。
ただやりすぎるとよくないのは、これまた常識。
私はあくまでも宗教家の卵ですから、いきなり資産家になってもそれはそれで四文字さんのフラグをへしおることになって、バッドエンド行きかもしれないのです。
「どうしたものか……」
「どうしたんです?」
話しかけてきたのは、人懐っこさナンバーワンのシモンちゃん。
「いえ、あなたのことを、ペトロちゃんとどのタイミングで呼ぼうかと思いまして」
「べつになんでもいいよ。要はあだ名でしょ? イシュアちゃんが呼びたいならそう呼んでいいよ」
天使の笑顔でした。
「では、あなたのことはこれからペトロちゃんと呼びますね」
「はーい」
そのうち、熱心なほうのシモンちゃんがあらわれるでしょうから、
ペトロちゃんと区別するために今のうちって感じでした。
ちなみに、名前かぶっている人はほかにもいまして、
まだ見ぬ使徒ヨハネと預言者ヨハネさん。
妹ヤコブちゃんと同じ名前の方。
私の母親マリアさんと、マグダラのマリアさん。
などなど、わかりにくいことこのうえない状況になっています。
区別する呼称を決めておかないと混乱します。
ですから、
――シモンちゃんはペトロちゃんに進化しました。
「それにしても、お姉ちゃんさ」
次に話しかけてきたのは妹ちゃんでした。
「なんでしょう?」
「いつのまにか雰囲気変わってない?」
「どういうふうにですか?」
「なんというか話しかけやすくなったというか、人当りがよくなったよね」
「そうです?」
私としてはそんなつもりは毛頭ありませんでした。
四文字さんのコントロールなんでしょうか。
いまさらながらのことなんですが、私の言葉と行動は四文字さんによる制御のもとにあるような気がしています。
とくに言葉。
――はじめに言葉があった、言葉は神と共にあった、言葉は神であった。
と言われているぐらいで、神様の能力の大部分は言葉を操ることと関係がありそうです。
私の言葉も『私』の意思を離れて、どこか重たいような、もたつく感じを受けるのも、四文字さんがコントロールしているせいかもしれません。
四文字さんの意に沿わない言葉は、メモリの足りないパソコンのように動作がもたついてしまう、とか。
そういう感覚ですね。
で、もちろん、今の私の行動は使徒っ娘と仲よくなるという、まさに四文字さんの筋書き通りですから、四文字さんの制御を比較的受けていない領域なのかもしれません。
正直なところ『かもしれない』と推測に推測を重ねるのも馬鹿らしいのですが、感覚的にはかなり言葉が軽いのは確かなのです。
「なんかかわいくなったなあって」
「……ありがとうございます」
「身長差では完全に姉妹逆転だね」
「慎重さではあなたはまだまだ妹ちゃんです」
「ん?」
「余計なことを言ってると身を亡ぼしますよ」
「いざとなったら、お姉ちゃんが守ってくれるんでしょ?」
この子はなにかと私のことを頼りにしていますね。
まあ、もともとは光源氏計画の一端として、かなりのリソースを割いて育ててきた経緯があります。
言葉のチャージによる心のコントロールを研究するためなんですがね。
結果的に、依存心を少し高めて、私のことを頼るように仕向けたところはあると思います。
本来的な性格が私のコントロールではどうしようもないところまできちゃったので、この子が十歳になるころには、放置プレイにうつったんですけどね。
いまでもまだ私のことを完全に姉だと認識しているようです。
「お姉ちゃんはわりと外道なので、あなたはご自身で自分の身を守ってくださいね」
「無理だよ。お姉ちゃんみたいに頭よくないし」
熱い日差しを避けるように手をかざし、なんの気負いもない言葉をつぶやいています。
素直な子なんですよね。
基本的には。
おそらく使徒っ娘なので、妹ちゃんにも不思議パワーが隠されていると思うのですが、
いまのところスペック的に高そうなのは現代風の洋服を作り出す能力でしょうか。
それだけですと、あくまで普通の範疇におさまりそうな予感がします。
ペトロちゃんみたいに物理法則を無視した怪力持ちだったり、
アンデレちゃんみたいに文具限定で殺傷能力を高めたりといった
この世界の一般法則を逸脱することはなさそうです。
ちなみに不思議パワーでいったら、私の能力だって、思考する能力しかないともいえます。
テンソルとかマトリクスとかの思考を併用していますけど、わりと普通ですよね?
「お姉ちゃんさ」
「なんでしょうか」
やたらからんできますね、今日は。
「ペトロちゃんと、アンデレちゃんってお姉ちゃんの妹になったんだよね?」
「そうですね」
「だったら、私にとっても妹だよね?」
「そうですね」
「妹かぁ……」
「いやですか?」
「嫌じゃないよ。むしろお姉ちゃんになりたかったかな」
「私のようになりたかった?」
「うーん。お姉ちゃんのように誰かを甘やかしたかったというか」
と、そこで――。
「愛ですなッ!」
ペトロちゃんがいきなり言葉を発します。
目がお星様のように輝いています。
「シモンちゃん……じゃなかった。ペトロちゃんは甘やかされてもいいですよ」
自分で自分のことをあだ名で呼ぶあたり、ペトロちゃんは純粋な娘さんでした。
「ではあまやかします」
妹ちゃんが、なぜか棒読みでふわふわの髪の毛が鎮座する頭に手を乗せて。
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。
ぽっ。
ペトロちゃんの顔つきがとろけるチーズのように溶かされていきました。
なんという恐ろしい能力でしょうか。
なでなでしたら、ぽっとなることから、この能力をナデポと名づけたい。
「うにゃー。なんという気持ちよさ」とペトロちゃん。
「イシュアお姉ちゃん。ペトロちゃんを籠絡したよ」
「そんなに嬉しそうに報告しないでください。ほら、そっちにいるアンデレちゃんも撫でてあげたらどうです」
アンデレちゃん。
私の言葉にビクっとなって、ものすごい勢いでブンブンと首を振っています。
誰かに触られるのが嫌いな子なんでしょうか。
もともと人見知り激しそうですしね。
だが、それがイイ。
妹ちゃんのナデポ能力が本物かどうか見極めるいいチャンスです。
「さあ、妹ちゃん。アンデレちゃんのいたいけな躰を撫でまわしてください」
「いや……、やめて」
「ふふっ。よいではないかよいではないか」
「やめてください。死んでしまいますっ!」
私が出した指示は簡単です。
怪力属性持ちのペトロちゃんに羽交い絞めにさせ、手をわきわきさせた妹ちゃんが近づく。
そんな幼児でも出せるような提案をするだけで、アンデレちゃんは無力化されました。
「やらぁ。らめぇぇぇぇぇ」
最初の触りは、あくまでもソフトです。
ツボを探るように、人差し指を当てて、どこが一番気持ちよいか探っています。
目に涙をいっぱいためるアンデレちゃん。
もちろん、すでにナデポをおこなう気まんまんの妹ちゃんが止まるわけもなく――。
幼く未成熟な触覚が朔開されていきます。
頭をさらって、おでこを露出。
そこをピンポイントになでなで。
「ふぁぁぁん」
十歳の女の子が桃色の吐息をだしますが、まだ屈服したわけではありません。
眉をV字にして、睨みつけるようにして、抵抗の意を表示します。
しかし、それが逆に妹ちゃんの嗜虐性を刺激したらしく、今度は耳たぶあたりをクニクニとまわすようにもてあそんでいます。
「あっ。あっ。本当にもう……だめだって、ばぁ」
マッサージ程度で何がそんなにダメなんでしょうか。
妹ちゃんは無言のまま、細い指先を髪の毛の隙間にいれるようにし、微妙な刺激を加えていきます。
もう、アンデレちゃんのほうは言葉になっていません。
ペトロちゃんが羽交い絞めにしなくても抵抗らしい抵抗はできないでしょうが、今度は自力で立っていられないらしく、無理やり立たせている状況です。
ツーっと、美少女の顔に涙。
さわさわと触っていたかと思うと、今度は多少強引に、手の動きが激しくなっていきます。
前後前後。
なんだかおもしろい動きですね。
妹ちゃんの手の動きにあわせて、アンデレちゃんの肢体が跳ねまわり、口は半開き。
ですが、アンデレちゃんが意識を外に飛ばそうとするのを、妹ちゃんは無理やり覚醒させます。
――ズプ。
音にすると、そんな感じでしょうか。
目尻の部分に中指と親指をすべりこませたのです。
もちろん、中に入れるほど強烈ではなく、あくまでマッサージ的に接触させているだけなのですが、
人体構造上、目尻の部分はちょうど谷間のようになっていますので、
アンデレちゃんにしてみれば、まるで指先が侵入してくるような感覚を受けたことでしょう。
「……あ、くっ」
少々苦悶の表情になりますが、いままでのマッサージで心地よい快感に支配されている状態ですので、その痛みもまた微妙な心地よさを伴っているようでした。
最後は、妹ちゃんが胸のあたりでアンデレちゃんを固定しつつ、抱きしめるような恰好で、
――いわゆる風池
うなじのあたりにある首筋のツボを刺激しています。
傍目にはうらわかき美少女たちが抱き合ってるようにしか見えないんですが、気にしたら負けです。
ていうか、これってナデポっていえるんでしょうか。
レーティング的にそろそろヤバいので切り上げましょう。
最後には躰中の筋肉を弛緩させ、くたっとなったアンデレちゃん。
その後、なにかヤバそうな気配がしたので、私は頬をぺしぺしと軽くたたいて彼女を起こしました。
アンデレちゃんは何かに目覚めたような様子で、妹ちゃんに熱い視線を送っていました。
ナデポの力は世界一といったところでしょうか。




