12 神殿の中は小説投稿サイトのようでした
関係各位の皆様。
神殿の中はいわば、どこぞの大型小説投稿サイトと同じです。
いわばパブリックスペースでして、自由な討論とかをする場所らしいです。
野合やら馴れ合いやらも常道らしいです。
もちろん真面目な方もたくさんいます。
神様の教えを関係各位の皆様に啓蒙しようとしている方たちです。
まずは聞いてもらわなければ始まりませんから、みなさん目立とうと必死です。
そのため、思い思いに、バラバラに、最良と思われるパフォーマンスをされています。
最近のトレンドは、
転生ないしは異世界トリップチート乙女系無職ニート主人公最強の聖女猫耳奴隷ハーレムライフらしく……。
多くの人が『私は数万年後の未来から主のお力によって転生してきたものだ。私には運命の輪によって定められた五人の美少女ハーレムを築く使命があり……』うんぬんと、
素敵すぎる妄想をのたまっております。
あ、でもよく考えたら私も神様逆行TS転生者のはしくれ。
なんとなく、そんなこともあるのかなと考えたり。
おそらくは……ですけど、私の前世ってたぶん男でしょうし。
どちらかといえばむさい男よりはシモンちゃんやアンデレちゃんみたいな美少女を侍らしたいと考えています。
仮に私がこのまま使徒っ娘たちを次々と堕としていき、
――恋する使徒っ娘はせつなくて、メシア様を想うとすぐH(HAIL TO YOU)しちゃうの。
となった場合。
果たしてハーレムなんでしょうか。
それとも逆ハーレムなんでしょうか。
それともそれとも、なにものでもない新属性だったりするんでしょうか。
興味深いところです。
ちなみにですが。
神様転生は案外使い古されているらしく、みなさん一種の遊びとして聞いてるようです。
狂人を見る目ではないのですが、生あたたかい視線がほとんど。
実際、その人も言ってることが破綻していて、話半分にしか聞かれてません。
VRMMORPGがうんぬんやら、チートハーレムがうんぬんやらの言葉も聞こえてきた気がしますが、おそらく気のせいでしょう。
ああ、でもVRMMO最強チートハーレムは魅力的。
私もメシアらしく、わかりやすい戦闘実行能力が欲しかったです。
「イシュアちゃん」シモンちゃんが口を開きました。「これからどうするの?」
「そうですね。まあ適当に……」
見渡せば、自分アピールに余念のない先生方ばかりでした。
ここで適当に時間を潰していれば、マリアさんたちが私を見つけてくれるはずです。
「ここに3ログと5ログの器がある。この器のみを使ってぴったり4ログの水を入れるにはどうすればよいか。わかるものがいるか」
律法学者崩れのひとりがそんなことを述べています。
完全に私に向けての言葉でしたね。
まあこんな子どもなんてだますのはちょろいと思われたんでしょうし、サクラの代わりにとでも考えたのかもしれません。
私の感想は一言だけ。
――なんというゲーム脳。
これでは教えでもなんでもありません。
ですが、小学校のときのなぞなぞを解くようで、少し懐かしさを感じました。
ちなみにログというのはリットルとかと同じようなものだと考えてください。
「簡単ですよ」とサービス精神旺盛な私。
「ほう」その男は私のほうをマジマジと見つめ「では解いてみせろ」
簡単すぎるので省略してもいいんですが、
いちおう説明しますと、下記のようになります。
3ログの器満タン→5ログの器へ。
再び3ログの器満タン→5ログの器へ。
このとき3ログのほうに1ログあまります。
5ログの水を捨て3ログの中の1ログの水を移します。
3ログ満タン→1+3で4ログになります。
ドヤァ……。
って、なるわけありません。
この問題、使い古されまくっていて、もはや驚きもなにもありません。
もちろん、初見のひとにとってはいつだって驚きの解答なのでしょうから、まだ人類の知恵が積み重ねられていないこの時代にとっては
柔軟剤を入れたセーターのように柔らかな思考ということになるのです。
律法学者崩れは驚いた顔をしていました。
「なんということだ! この娘は神の知恵を身に着けている」
「……」
神の知恵とはいったい……うごごご。
「まて、では私がこの子の知恵を試そう」
今度はインテリ風の男の方でした。
「ここに一斤のパンがあるとする、そのパンをふたりの兄弟が争いなく分け合うにはどうすればよい?」
「兄でも弟でもかまいませんが、どちらか一方がパンを均等に分けるようにし、もう片方が分けられたパンのいずれかを選択できるようにすれば争いはおこりません」
これもどこかで聞いたような問題です。
主題としては『争いなく』ということです。
均等に分けることが目的ではないので、相手が主張してくる不公平感に対して、常に抗弁を持たせるようにすればよいわけです。
「では三人兄弟だった場合はどうする?」
「クジなりジャンケンなりで、一番はじめに勝った方に分けさせ、二番目に勝った方が最初に選び、負けた方が二番目に選び、最後に一番はじめに勝った方が残りをとるというのがバランスとしてはいいでしょうね」
人の心なんてものは微塵もわからなくても、秤にかけることは可能なのです。
「では、次は私が問おう」
今度はご老体のようでした。
みなさんが注目していることから、さぞかしご高名な先生なのでしょう。
「ここに小鳥がおる」
おそらく平均的感受性からすれば、かわいいと表現すると思われる小さな小鳥が手のひらの中に一羽。
アンデレちゃんが「きゃわわ」と小さく反応していました。
人が多すぎると常にシモンちゃんの後ろに背後霊状態のようですが、要所要所では主張が激しいですね。
さすがヤンデレ。
「さて、私はこの小鳥を、手のひらの中に隠した。そなたに問おう。今、小鳥は生きているか、それとも死んでいるのか」
それもどこかで聞いたことがあるような気がします。
私が小鳥が生きていると答えれば、彼は小鳥を握りつぶす。
そして、私が死んでいると答えれば、彼は小鳥を生きたまま解放する。
この問いに対する模範解答としては、
――答えはあなたの手のひらの中にある
とだけ答え、あとは沈黙してしまうことでしょう。
手のひらの小鳥の問いが成り立つには、あくまでの小鳥が現時点で生きていることが前提だからです。
そうでなければ、小鳥がこの砂漠の世界の高い澄空を飛翔する姿を見せることはかなわない。
だからこそ――。
「小鳥は死んでいます」
私は答えました。
小鳥は預言されたかのように、青く高い空へと羽ばたいていきます。
みなさんが少しガッカリしているようでした。
私の答えが稚拙であったからでしょうか。
しかし、私に問いを投げかけた人は、再度私に尋ねました。
「なぜ答えを知っているのに、死んでいると答えたのですか?」
「私は小鳥を憐れんだわけではないのです」
そういう共感や、憐みや、慈悲といった感情を、私はことごとく失っています。
ティッシュペーパーで作られた地面を歩いているようなもの。
人間らしくあろうとするのは、それなりのリソースをさかなければなりません。
「ただ――、はっきりと言います。生きているということは自由であるということです」
ですから、あなたに命を握られていた小鳥は、その瞬間、生きてはいなかった。
と、私の定義からすればなるわけです。
四文字さんの魔の手から私も逃れたいものです。
「これこそ主の知恵だ」
なんか、熱い視線で見られているような気がします。
適当に言いたいこと言っただけなんですけどね。




