血婚式〜Bloody wedding〜
目を開けると、見慣れない暗い空間が横たわっていた。今見ているのが現実なのか、それともまだ夢の中なのか、それすら分からないような陰鬱な空気が流れる。
あぁ、地下牢だ。
再び目を閉じる。私に残された時間はあまりにも短いから。同じ悪魔にそそのかされた身なら、今一度夢魔の誘いにのって、甘美な夢の世界に包まれていたほうが楽でいい。二十年経たないうちに閉じる人生に未練がないかといえば嘘になる。けれど、私に何ができる? できないからこうしてただ時を待っているんだから。
まぶたを閉じ横たわると、今までの出来事が脳裏を駆け巡った。走馬灯、とは少し違うような気がする。
私は、あの日のことを忘れたことは一度もない。
初めて抱いた感情だったから。家族や木々に止まる小鳥たちに向けるそれとは全く違うけれど、近い感情だった。
何が私たちを引き合わせたのかは分からない。神様? それとも――
「もしかしたら、悪魔……なのかもね」
私が小声でそうささやくと、彼は苦笑した。悪魔が引き合わせたなんてとんでもない。そうは思っても、私と彼との関係を表すには適切な表現のように感じた。
「おいおい、俺のことが嫌いなのか?」
彼の問いには返事を返さなかった。むしろ真逆の感情を抱いている。でも、今更そんなことを口にするのが気恥ずかしくて、笑ってごまかした。それでも彼はわかってくれるはずだから。
彼の横に座り、体を預ける。少し驚いた様子だった。無理も無い、めったにこんなことしないし。ただなんとなくこうしていたかった。……彼は優しく受け止めてくれた。
「ユニ」
心地よい声が降りかかる。時が止まればいいのに、なんて願ってしまうような優しい声が。どこか寂しげだったけど、気づかないふりをした。
「あのさ、言いにくいんだけど……お前は良いのか」
思わず体を竦めた。なんとなく言いたいことは分かったから。続きを言われると、それが本当になりそうで怖かった。彼にすりより、とぼけて返す。
「……何が?」
声が震えたのが自分でも分かった。彼も言いにくそうだった。
「こんなの……いつまでも続けられるわけがないだろ。お前には、もっといい相手がいるはずだよ」
そう。私と彼とは相容れぬ家に生まれた。本来なら言葉を交わすことも許されないような、そんな関係。あの時、野犬に襲われなければ二人はお互いの存在すら知らなかったかもしれない。いけないことなんだというのは私も彼も分かっていた。
――バレた時にはどうなるかも。
「ギル、そんなこと言わないで」
未来がどうなろうと、私たちはこの関係を続けてきた。
「でも、俺はお前とは絶対にっ……」
彼につられて私も声を荒げてしまった。
「私は、ギルのことが好きなの! それじゃ、ダメ?」
彼がなんと言ったか覚えていない。いや、何かを言いかけて驚いたように口をつぐんだのだから、覚えがなくて当然なのだ。
彼は目を丸くして、ただ一点を見つめていた。あまり表情を出さない彼ではあったけれど、そのときは確かに、青ざめているのがはっきりとわかった。唇がかすかに震えていた。
背後でカサッという音がして、すべてを悟った。体中の血が凍ってしまったような寒気を覚えた。
「ユニ、お前……」