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祝!妖しい訪問販売をやっつけろ!!(後編)

 ここは「喫茶 柔」。

 時刻は午後4時、店内にはお客らしいお客は見当たらない。このお店にとって一番ヒマな時間帯である。

 詐欺行為をしていた訪問販売員の正体が、あの悪の秘密結社”デンジャラス”の一員だったことを知った飛威狼は、「喫茶 柔」のマスターに報告するため店を訪れていた。

 一連の話を聞いたマスターは、険しい表情でパイプを咥えていた。

「そうか、ヤツらの仕業だったのか。それにしても、狙いがお金とはな。」

「ええ。ヤツは去っていくとき、商品を仕入れると言っていました。ヤツはこの後も、どこかで訪問販売をする気ですね。このままでは、まだまだ不幸な犠牲者が出ますよ。」

 腕組みしながら、悩ましげに唸り声を上げるマスター。

「う~ん、だが、ヤツがどこで商売をするか特定できない以上、こちらも動くに動けんぞ。心理的に見ても、この付近にいる可能性は低いだろう。隣町かも知れないし、もっと遠くかも知れん。」

「そうなんですよね~。他の街まで調査するなんて、ハッキリ言って面倒ですからね。」

 困惑な表情でミルクセーキをすする飛威狼。彼は奪われた5千円を取り返すために、あの訪問販売員を見つけ出す術を練っている。とは言うものの、購入した電動歯ブラシは彼の母親がちゃっかり使っているため、実際は5千円を奪われたとは言えないのだが・・・。

 クラシック音楽が流れる店内で、しばらく考え込む二人。

「ヤツも商売だから、買ってくれそうな人をターゲットにするだろうなぁ。」

 飛威狼のその一言で、マスターは何かひらめいたように声を上げた。

「なぁ、飛威狼。おまえの言うとおり、その販売員は商品を買ってくれそうなお金持ちを狙っていると思うんだ。ここは一つ、オレがお金持ちになりすまして、ヤツをおびき出す作戦はどうだ?」

「マスター、悪くないアイデアだと思うけど、どうみてもマスターお金持ちに見えないよ。それに、お金持ちになりすましたとしても、それをどうやってヤツに知らせるの?」

「おまえの突っ込み、ちょっとムカつくなぁ。まぁ、まんざらハズレでもないしな。やむを得ん、もう少し考えてみるか・・・。」

 再び黙り込んで考え始めた二人。接客業のノウハウばかり研究しているマスターと、受験勉強と言いながら、ロールプレイングゲームばかりしている飛威狼の頭の中には、販売員の行先を突き止めるいいアイデアなど浮かぶはずもなかった。

 そんな沈黙を破るように、バタバタとお店に駆け込んでくる少年たちがいた。お揃いの黄色い帽子をかぶり、胸には駄菓子屋に売っているようなピンバッジを付けている。見た目からして、どこにでもいるような小学生たちである。

「おいおい、おまえらまた来たのか!言っておくけど、ここはおまえらの遊び場所じゃないんだぞ。」

 マスターに注意された少年たちは、そんなのお構いなしとばかりにテーブル席へと腰掛けた。

「別にいいじゃん、おじさん。どうせお店ヒマなんでしょ?」

「そうそう。ボクらがこうやってお店にいれば、流行ってると勘違いして、お客さんがお店に来てくれるよ。これで、お店つぶれなくて済むじゃん。」

「そうだよ。ボクらは少年探検隊。おじさんのピンチを救いに来たんだ。」

「けっ!ケツの青い小学生のガキに、オレの店を心配されたくないわ!」

 近所の小学生たち有志で構成される少年探検隊。彼らは身近な事件を調査し、解決するため奔走することを目的とした勇気あるチームらしいが、実際はあらゆる遊びを開発するために群がっている、ただの悪ガキたちなのであった。

 そんな小童たちを、呆れた顔をしながら諌める飛威狼。

「おいおい、おまえらいい加減にしろよ。小学校の時から真面目に勉強しておいた方がいいぞ。お父さんとお母さんから”将来が不安・・・”って心配されたくなければな。」

「ああ、知ってるよ。勉強しないと、飛威狼みたいになっちゃうからでしょ?」

「大丈夫、大丈夫。ボクら、飛威狼ほど落ちぶれることないから。」

「飛威狼みたいな落ちこぼれに、言われるまでもないよーだ。」

 握り拳を振りかざし、今にも少年探検隊へ襲いかかろうとする飛威狼を、マスターは必死になって制止する。マスターは、ガキの言うことなど気にするなと、怒り狂う彼をなだめていた。

「よーし、さっき買ったこれで遊ぼうぜ!」

「やろうやろう。ボクのが一番すごいぜ。」

「いやいや、ボクのが絶対一番カッコいいよ。」

 少年探検隊の面々は、テーブルの上にミニカーのようなものを並べ始めた。そのミニカーに興味を示したマスター。

「何だ、そのおもちゃ?よくできたミニカーじゃないか。」

 探検隊のメンバーは、誇らしげにそのミニカーを自慢する。

「すごいでしょ。これ、ミニカーじゃなくて、ジェットカーっていうんだ。」

「これね、こうやって車の後輪を後ろに引いてから離すと、ものすごいスピードで走るんだ。」

「ちょっとだけ見せてあげるよ。」

 どれどれと言いながら、軽々しくジェットカーを手にした飛威狼。

「触るなよ!飛威狼が触ると、汚れちゃうじゃないか!」

「汚れが取れなかったらどうしてくれるんだ!」

「そうだ、そうだ!触る前に手を洗うのがジョーシキじゃないか!」

 右足を高々と振り上げ、今にも少年探検隊へ襲いかかろうとする飛威狼を、マスターは必死になって制止する。マスターは、ガキの言うことなど気にするなと、鬼の形相の彼をなだめていた。しかし今回ばかりは、ちょっとだけほくそ笑んでいたマスターだった。

 そんなことなどお構いなく、探検隊一同は、それぞれのマイジェットカーを目一杯引っ張り、合図と共に車体から手を離した。すると、ジェットのごとく走り出すはずのジェットカーが、まるでガソリンがない自動車のようにピクリとも動かなかった。

「あれ、動かないぞ。おかしいな。」

「ちゃんと引っ張ったよ。」

「まさか、壊れちゃったのかなぁ。」

 探検隊の面々は、何度も何度もジェットカーの後輪を引っ張ったが、ジェットカーはまったく動作しない。一生懸命に腕を動かす少年たちの表情が紅潮するだけだった。

 これ見よがしに、飛威狼は小学生どもをバカにするように嘲笑する。

「ははは、自走しないジェットカーじゃ、ミニカーと何ら変わりないな。」

「う、うるさいぞ、飛威狼!」

「くそー、何で走らないんだ、これ?買う前に見せてもらった時は、ちゃんと走ったのに!」

「売っていた青いネクタイの男に文句言いに行こうぜ!」

 ”青いネクタイ”・・・!飛威狼はその言葉にすぐさま反応した。

「おい、ちょっと待て。これを売っていた男、青いネクタイをしていたのか?」

「うん、してたよ。ちょっと派手な青いヤツだったな。」

「そうそう。普段は家とか回って商売してるって言ってたね。」

「なんか、最近、電動歯ブラシが売れたって言ってたよ。」

 飛威狼とマスターはお互いに顔を突き合わせた。

「飛威狼、おまえがさっき言っていた訪問販売員のことか?」

「間違いないですね。青いネクタイはヤツの商品、あ、いや武器ですから。それに電動歯ブラシ買ったのボクだし・・・。」

 飛威狼とマスターの二人は、少年探検隊たちから青いネクタイの男の居場所を尋ねた。すると、メンバーの口から意外な答えが飛び出した。

「すぐそこの公園だよ。」

「公園の噴水のそばさ。」

「人がいっぱいいるから、すぐわかるよ。」

 唖然とするあまり、開いた口が塞がらないといった感じの飛威狼。

「めちゃくちゃ近いところで商売していたのか。何てふてぶてしいヤツだ。」

 いざ出陣とばかりに、マスターは気合と共に号令を発する。

「よし、飛威狼、すぐに向かえ!敵は近所の公園の噴水前だ!」

 そんなマスターに、飛威狼は驚きの表情で問い返す。

「えー、ボク一人で?マスターは来てくれないの?」

「あたり前だろ。まだお店営業中なんだから。」

「もう閉店しちゃえばいいじゃないですかぁ。どうせ、ろくにお客さん来ないんだから。」

「大きなお世話だ、バカ野郎!さっさと行けっ!」

「わ、わっかりましたよぉー!」

 ドタバタとお店を飛び出していく飛威狼。彼の背中を後押しするように、少年探検隊たちが応援メッセージを投げかけた。

「飛威狼!あの詐欺師、絶対に捕まえろよー!」

「とっ捕まえたら、ボクらが払ったお金を取り返せよー!」

「取り返せなかったら、おまえからお金払ってもらうからなー!」



 ここは公園である。

 普段は、付近のマンションに住む親子連れが遊んでいるはずが、今日に限っては様相が違っていた。小学生ぐらいのチビッコたちがわんさか集まっていて、噴水のある一角だけを取り囲んでいる。

 息を切らせながら公園までやってきた飛威狼は、その異様な群集へと目を向けた。

「はぁ、はぁ。どうやら、あそこだな。」

 飛威狼は様子を伺いながら、その人ごみの中へ足を踏み込んでいく。

 渦の中心には、いろいろな商品が陳列されたテーブルが設置されており、そのテーブルの側で、一生懸命に商品の説明をしている男性の姿があった。

「さぁ、みんな。今日のとっておきアイテムを紹介するよ。」

 光沢のある青いネクタイをぶら下げた販売員は、プラスチック製の拳銃を手にするなり、銃口を上空に向けて、透明な液体を勢いよく発射した。これはどうやら、おもちゃの水鉄砲のようである。

「どうだい、みんな。これはただの水鉄砲じゃないよ。この鉄砲の中に、水ではなくジュースを入れちゃうと、何と、噴水感覚でジュースが飲めちゃう優れものだよ。」

 販売員の熱心な説明に耳を傾ける少年たち。彼らは感心の眼差しで水鉄砲を見つめている。

 大した特長のない水鉄砲だったが、販売員の神がかり的な売り込みに惑わされて、小学生たちは次々とこの水鉄砲を購入していた。

 このまま詐欺行為を放置するわけにはいかない。飛威狼は悪質な商売を阻止しようと、販売員の目の前までたどり着いた。

「おい!これ以上の悪事は許さないぞ!」

「!!」

 目の前に現れた男の姿に驚愕する販売員。

「みんな、騙されるな!この男は壊れたおもちゃを売る悪いヤツなんだ。嘘をついて、タダ同然のガラクタをみんなに買わせているんだ。」

 飛威狼の呼びかけに、キョトンとした表情の少年たち。それはそうだ。いきなり買ったおもちゃが壊れていると言われても信憑性はないし、売られているおもちゃが壊れている証拠も何もないのである。

「いやぁ、困りますね~。根も葉もないこと言われても。あなた一体何なんですか?商売の邪魔をすると、営業妨害で警察を呼びますよ。」

 居直った販売員はほくそ笑みながら訴えた。飛威狼の周りにいる小学生たちも、販売員の味方となって、飛威狼に冷ややかな視線を送り、そして罵声を浴びせていた。

「ま、待て!ボクの言うことを信用してくれ!コイツはデンジャラスという悪の結社から来た怪人で、みんなから集めたお金で悪いことを企んでいるんだ!だから、コイツは人間の敵であり、みんなの敵でもあるんだ!」

 飛威狼の言葉が理解し難いのか、ますます腫れ物を見るような視線を送る小学生たち。おもちゃを売る販売員が、悪の結社からきた怪人であることなど、そう易々と信じられるわけがないだろう。

 小学生たちは声を揃えて、飛威狼に向かって”帰れコール”を連呼している。

「はっはっは。どうやらこの男は頭がおかしいらしいね。さぁ、みんな。この変人を早くこの公園から追い出してやろう!」

 小学生たちは販売員に指示されるがまま、飛威狼の周りを取り囲んだ。

飛威狼は、その十数人の小学生たちの勢いに押されるように、少しずつ公園の外へと追い出されていく。

「おい、キミたち目を覚ませ!ボクは変人じゃない!ボクは切手収集が趣味のごく普通の青年だ!」

「はっはっは!往生際が悪いぞ、若造。このわたしの営業を妨害した報いだよ。」

「な、何が営業妨害だ!お、おまえ、この公園で商売するための許可証を持っているのか!?」

 その思ってもみない指摘に、販売員の目が丸くなった。

「きょ、許可証!?」

「そうだ。販売許可証がなければ、公共施設や道路で店頭販売ができるわけないだろう!それが日本の法律だ。」

 飛威狼に問い詰められて、販売員はしどろもどろな受け答えを始めた。

「きょ、許可証はあるに決まっているだろう。えーと、その、何というか・・・。そ、そうだ!わたしの場合、顔が許可証なのだ!これがホントの”顔パス”!なんちゃって。」

「何くだらないことを言っているんだ!もう、ごまかされないぞ、クチ・ジョーズ。さぁ正体を現せ!」

 動揺を隠しきれず、額から滝のような汗を流す販売員。

 周りの小学生たちは、この異様な雰囲気に右往左往し始めた。本当に怪しいのがどちらなのかわからないといった表情だ。

 販売員はこの期に及んでもまだ抵抗しようと試みる。

「わたしは決してガラクタを売りつける詐欺師ではない!そうだ、あの嘘つき野郎に向かって水鉄砲を発射するんだ!」

 飛威狼も正義を貫こうと必死になって訴えかける。

「みんな、嘘つきはアイツの方だ!アイツ目掛けて水鉄砲を撃つんだ!」

 小学生たちは輪を囲んで相談し合っている。どちらが嘘つきなのか、どちらが変人なのかを、チラチラ見やりながら話し合っていた。

 小学生たちはついに意を決したのか、嘘つきの男目掛けて水鉄砲を一斉に発射した。

 放たれた水柱が勢いよく飛んでいく。そして、嘘つきと思われた男の顔を水で濡らした。

「・・・お、おのれぇ。やりやがったな、べらぼうめぇぃ!」

 顔にかかった水を拭う販売員の姿に、小学生たちは恐怖のあまり悲鳴をあげた。それもそのはずで、顔を拭ったせいで特殊メイクが洗い落とされて、彼はこの世の者とは思えない怪人面をさらけ出してしまったのだ。

「みんな、これがコイツの本当の正体だ。悪の結社からの怪人なんだ!」

 何が起こっているのか把握できていない販売員。彼は、スーツケースにある商品”曇るかも知れない鏡”に顔を覗かせると、自らの変貌した姿に慌てふためいた。

「うわ、しまったぁ!今日のメイク、帰ってから簡単に洗浄できるよう”すっきりメイク”にしてたんだぁ。」

「皮肉なもんだな。水鉄砲を商品としたことが、かえってキサマの正体を知らしめる結果となるとは。」

「やかましい!こうなったら、キサマら全員食い殺してやるまでだ。」

 ついに正体を明かしたクチ・ジョーズ。サメのような強面で鋭い牙を光らせている。しかも全身を覆っている鮫肌は、鬼おろし並みか、それ以上のザラザラな質感を持っていた。

 クチ・ジョーズは後方に合図を送り、控えていた戦闘員たちを呼び出した。そして、黒い覆面にタイツ姿の戦闘員たちは、身構える飛威狼と怯える少年たちを取り囲んだ。

「よし、みんな!もう一度水鉄砲を発射して、あの戦闘員を追い返すんだ。」

 飛威狼の掛け声と共に、小学生たちは一致団結して水鉄砲を一斉に発射した。先ほどより勢いはなかったが、たくさんの水柱は確実に戦闘員たちの足を止めていた。

 戦闘員たちは、あまりの冷たさと惨めさで、泣きわめきながら後ずさりしていった。

「お、おまえら、だらしないぞ!水ごときに何を恐れているんだ。」

 飛威狼は調子付いて、クチ・ジョーズ相手に水鉄砲を繰り返し発射するよう、小学生たちに指示した。

 小学生たちは威勢よく、水鉄砲から水柱を発射させようとしたが、なぜか、水鉄砲からは水柱どころか水滴一つすら落ちてはこなかった。

「あ、あら?」

 さすがは不良品である。小学生たちが購入した水鉄砲は、すでに商品価値のないガラクタと化していたのだ。

「ハッハッハ!言っておくが、わたしの売る商品は、使ってしまったら返品は受け付けないぞ。まぁ、少しでも水鉄砲を楽しめたんだ。それだけでもありがたいと思うんだな。」

「おのれ~!こんな子供たちにまで、あこぎな商売をするとは、何という卑劣なヤツだ。」

「卑劣に卑怯、何とでも言うがいい。その言葉こそ、我がデンジャラス一員にとって、最高の褒め言葉だよ。さぁーて、次はわたしがキサマたちにお返しをする番だ。」

 クチ・ジョーズは鋭利な眼光で、ジワリジワリと小学生たちに向かって歩み始めた。

 牙を剥き出し、鬼の形相で近づいてくる怪人を前に、小学生たちは悲鳴にも似た叫び声を上げて、公園内をただ逃げ惑う。

 飛威狼は小学生たちを守るため、クチ・ジョーズに向かって果敢と立ち向かう・・・と思いきや、小学生たちと一緒になって逃げ惑っていた。

「ハッハッハ!逃げろ、逃げろ。捕まえたヤツから食ってしまうぞぉ。」

 鬼ごっこのような展開となった公園内。そんな中、内心穏やかではなかった「喫茶 柔」のマスターが公園へと駆けつけた。

予想通り(!?)の光景を目の当たりにしたマスターは、慌てて公園内へと突入した。

「おい、みんな!早く、公園から出るんだ。早く早く、こっちだ。」

 マスターの冷静な誘導により、逃げ惑う小学生たちを見事に公園内から脱出させた。

 飛威狼も、小学生と一緒になって公園から逃げ出そうとした。そんな彼の首根っこを捕まえたマスター。

「飛威狼、おまえは残れ。逃げてばかりで恥ずかしくないのか?」

「だ、だってぇ。見てよ、アイツの顔!メチャメチャ恐いよぉ。」

「そんなことで泣くなよ。ここからおまえの出番なんだから。」

 公園内に残る二人の前に、怪人クチ・ジョーズが一歩、また一歩と近づいてきた。

「逃げずに残るとはいい度胸だな。いいだろう。キサマたち二人は、このわたしの手で闇に葬ってやろう。」

「待て、怪人!おまえの相手は、ここのいる正義のヒーローだ。言っておくが、オレは一般人だ。弱い者いじめはよくないぞ。」

 マスターは飛威狼を盾にしながら叫んだ。盾にされた飛威狼も黙ってはいない。

「マ、マスター、それはないよ。ここまできたら、一緒に戦いましょうよぉ。」

「オレはもういい年齢なんだから、激しいアクションはできないんだよ。それに、怪人と戦うのは変身ヒーローという世間一般の常識があるだろうが。」

「ずるいや、マスター!こういうときだけ年寄りぶってさ。いつもお客の前で、若さだけが自慢とか言ってるくせに。」

 言い争いを延々と続ける二人。痺れを切らしたクチ・ジョーズは、二人に向かって怒号を轟かせる。

「やかましい!どちらが戦おうが、どっちみち二人ともあの世に送ってやるから安心しろ。」

「安心できるか!」

 飛威狼は散々駄々をこねた挙句、ようやく変身用ライトを取り出した。マスターからクリームソーダ5杯無料サービスを提案されて、渋々OKサインを出したのだった。

「よし、やるからには徹底的にやるぞ。へーんしーん!!」

「今日はちゃんと電池切れてないよな?わたしは、今日は乾電池持ってないぞ。」

「へん、余計なお世話だよ。今日の朝、パワー長持ちのアルカリ乾電池と交換したんだ。おまえから買った安物の乾電池とはわけが違うんだよ。」

 変身ライトから放たれたまばゆい光線に包まれて、飛威狼の全身が光輝く。光線の束から、正義の鎧を身にまとった不滅のヒーロー”ハイパーヒーロー”が颯爽と登場した。

「どうだ、驚いたか。このハイパーヒーローが、世界の平和を守るため、おまえのような悪を叩きのめす!」

「改造手術を受けておきながら、人間なんぞの味方になった裏切り者め。キサマの方こそ地獄へ突き落としてくれる!」

 クチ・ジョーズは、商品兼武器でもある青いネクタイを手にすると、ハイパーヒーローの前で大きく振り回し始めた。

「いくぞ、わたしのムチネクタイ攻撃を食らえぇ!」

 クチ・ジョーズはネクタイを鋭い凶器に変えると、ハイパーヒーロー目掛けて先制攻撃を仕掛ける。ハイパーヒーローは後ろへ倒れながら、間一髪のところでムチ攻撃をかわした。

「あ、あぶないじゃないか!最初から、顔面を狙うなよ。」

「やかましい!相手を倒すのに顔面だろうが、足元だろうが、お尻だろうが関係ない。股間じゃないだけありがたいと思え。さぁ、もう一発いくぞ!」

「わっ、ま、待て。せめて立たせてくれ!」

 地面をのた打ち回るハイパーヒーロー。必死になってクチ・ジョーズのムチ攻撃をかわしている。その情けない姿を哀れんだマスターが大声を張り上げた。

「ヒーロー、何をしてるんだっ!ヒーローなら、もっと積極的に立ち向かえ!」

 ハイパーヒーローは拒否するかの如く、頭を大きく振り乱した。

「無茶言わないでくださいよぉ!相手は武器持ってるんですから。せめて、こっちも武器がないと。」

「武器か。う~ん・・・。」

 マスターは公園内を見渡した。ブランコやジャングルジム、そしてシーソーにすべり台といった遊具ばかりで、ハイパーヒーローに最適な武器などどこにもない。

 頭を悩ますマスターの視界に、投げ捨てられたある物体の姿が飛び込んだ。それは、ハイパーヒーローの前に立ちはだかるクチ・ジョーズが、子供たちに売りつけていたあの水鉄砲であった。

「おい、ヒーロー、これで応戦するんだっ!」

 クチ・ジョーズの止め処ない攻撃を、逃げるように避けたハイパーヒーロー。彼は、マスターから投げ渡された水鉄砲をすかさず拾った。

「え!?こ、これ、アイツが売っていた不良品の水鉄砲じゃないですか。こ、これじゃあ、まともに戦えませんよぉ。」

「仕方がないだろ。この辺じゃ、そんな物しかないんだ。その水鉄砲で、アイツを叩くなり切るなりして戦え!」

「叩くって、近づくことすらできないのに!?それに切るって、水鉄砲でどうやって切りつけるんですか!?」

「だったら投げつけちまえ。もう、後は自分で考えろ!」

「むちゃくちゃだよなぁ、もう。」

 マスターとハイパーヒーローの作戦会議(!?)が続く中、クチ・ジョーズはゆっくりと、ハイパーヒーローの射程距離まで近づいていた。

「フッフッフ、もう逃がさんぞ。」

「くそ、逃げ場がない・・・。」

 ハイパーヒーローは、公園内の遊具に挟まれてしまい完全に逃げ場を失った。まさに絶体絶命のピンチである。

「これでくたばれぇ!」

 クチ・ジョーズは渾身の力でムチを振り下ろす。ハイパーヒーローは顔面直撃を避けるため、反射的に右手で顔をガードした。

 クチ・ジョーズのしなるムチは、彼の右手に蛇のように巻きついた。そして、そのムチを思いっきり引っ張ると、その勢いで、ハイパーヒーローはクチ・ジョーズのもとへと引き寄せられた。

「ハッハッハ!このまま、おまえを食ってやる。」

 クチ・ジョーズはよだれまみれの大きな口を開ける。獲物を待ち構えているサメのように、尖った牙が鈍色に輝いていた。

「うわぁ、このままでは頭をかじられてしまう!これはまずい!」

「ハッハッハ、覚悟しろぉ!」

 ハイパーヒーローはどんどん口の中へと引きずられていく。そして、今まさにハイパーヒーローの頭部が鋭い牙に挟まれる瞬間だった。

「こうなったら最後のあがきだ!」

 ハイパーヒーローは、クチ・ジョーズの口の中で両手を大きく振り回し、だだをこねる子供のように暴れまくった。

 その時、ハイパーヒーローの右手にあった水鉄砲の銃口が、クチ・ジョーズの自慢の牙にぶつかって、”ボキッ”という鈍い音と共に、折れた牙が1本口の中から吹っ飛んでいった。

「い!痛いぃぃ!!」

 クチ・ジョーズは悲鳴をあげながら悶絶した。

ハイパーヒーローはその隙に口から逃れると、地面に落ちている牙を拾い上げた。

「おまえのこの牙、根本が腐ってるぞ。こうなる前に歯医者行けよ。」

「か、怪人が虫歯直してって、歯医者なんぞに行けるか!!」

「それもそうだね。」

 クチ・ジョーズは苦痛の表情でしゃがみこんでいる。抜けた牙の根本を手で押さえ、痛い痛いと涙ながらにつぶやいていた。

 そんな泣き顔の怪人を見ていたマスターが、ハイパーヒーローに向かって声を張り上げた。

「おいヒーロー、チャンスだ!ヤツの動きが止まっている間に攻撃するんだ。」

「了解です。いくぞ、クチ・ジョーズ!」

 ハイパーヒーローは両手両足をリズミカルに動かし、一丁前のヒーローのようなポーズを決めた。いよいよ、必殺技の登場を告げるポーズである。ところが何を思ったのか、彼はいきなり足に装着していたブーツを脱ぎだしていた。

「おい、ヒーロー。何のマネだ、それは?」

「いや、実はこのブーツ重たくて、履いているとボクの必殺技のトルネードキーックが繰り出せないんですよ。いやはや、お恥ずかしい限りで。」

 クチ・ジョーズは小刻みに震えながら、ゆっくりと起き上がる。彼の顔色は、牙を折られた痛さと怒りに満ち溢れていた。

「お、おのれぇ・・・。キ、キサマァ、絶対に生かしてはおかん。」

 敵より優位に立ったせいか、ハイパーヒーローはここぞとばかりに、軽やかな動きで戦闘ポーズを決めた。

「行くぞ、クチ・ジョーズ!ボクの必殺技を食らえ。」

 ハイパーヒーローはダッシュで走り出すと、クチ・ジョーズの顔面目掛けて、必殺技トルネードキーックを繰り出した。

ちなみにトルネードキーックとは、別に竜巻のように体や足を回転させるわけではなく、ネーミングが格好よいだけで命名した必殺技で、見た目はよくある飛び横蹴りと同じである。

「ぎゃぁー!!」

 ハイパーヒーローは一応変身ヒーローではあるが、キック力は人並みなので、トルネードキーック一発では相手に致命傷を与えることはできない。

 ところが今回は、クチ・ジョーズは折れた牙の根本をもろに攻撃されてしまったため、のた打ち回るように苦しみだし、断末魔のような叫び声でわめき続けていた。

「マスター、見てください!クチ・ジョーズが・・・。」

 身も心も傷ついたクチ・ジョーズに異変が現れた。頭や腕、足などがバラバラになり、焦げたような臭いと灰色の煙を立ち昇らせたのだ。

「コイツ、おまえと同じ改造人間だと思ったが、これはアンドロイドってヤツだな。おまえより性能が高い部類だぞ。」

「うーん、デンジャラスめ。日々進化しているな。」

「まぁ、何はともあれ、悪は滅んだ。万事解決ってヤツだな。」

 ハイパーヒーローの肩を軽く叩き、マスターは彼の功績を称えた。そんなハイパーヒーローも、本来の姿である噂野飛威狼へと戻っていた。

「地球の平和を乱す悪いヤツは、このボクが許さない!命の代えても・・・いや、ボクのコレクションのプレミア切手に代えても、ボクは戦い続けるぞ!」

 怪人クチ・ジョーズはこの世から姿を消した。しかし、悪の秘密結社デンジャラスは滅びてはいない。デンジャラスはこれからも、あらゆる手段で地球征服を目論み、あらゆる悪事で我々を苦しめるであろう。

 飛威狼は、正義のヒーローであるハイパーヒーローとなって、これからもデンジャラスの野望に果敢と立ち向かうことを・・・とりあえず誓うのであった。



 ここは「喫茶 柔」。店内はコーヒーの優雅な香りが充満している。

 カウンターにあるコーヒーメーカーを操作するマスターが、にこやかな表情でパイプをふかしていた。カウンターに腰掛けている飛威狼は、穏やかな顔を浮かべながら、大好物のクリームソーダを口にしている。

 ここにいる二人は、大きな仕事を無事にやり遂げた後の、心地よい余韻に浸っているようだった。

「そうそう、マスター聞きました?あの販売員がせしめたお金だけど、アイツが持っていたスーツケースから見つかったそうですよ。」

「おお、そうか。それじゃあ、被害にあった人のところへ返金されたわけだな?」

「いや、それが。見つかった金額と被害者の被害額の合計が合わないらしくて、警察の方も大変みたいですね。おまけに、被害者を偽った人まで警察に来たもんだから大混乱らしいですよ。」

「まったく・・・。一難去ってまた一難だな。」

 マスターは、パイプから煙を噴出しながら呆れた顔をしていた。

「でも、今回の事件をきっかけに、訪問販売自体が見直されるかも知れないですね。」

「もしかすると、法律や条例で禁止、なんてこともありえるかもな。」

 そんな会話をする中、飛威狼が座るカウンターのすぐ側に腰掛けているご婦人・・・というか、ごく普通のおばちゃん二人が、彼の耳にまで届くような図太い声で話をしていた。

「・・・ほんとに困ったもんよ。ついつい言葉の誘いに乗っちゃってね~。」

「気持ちわかるわぁ。でもでも、やっぱり意思の弱いあなたが悪いわよぉ~。ほほほ。」

「そうは言ってもね~。やっぱり欲しいものだとついつい買っちゃうのよね~。ほーんと困っちゃう。」

「特に若くてたくましい男性の販売員だと、ついつい話聞いちゃうしね~。ほほほ。」

 おばちゃんたちはコーヒーを飲み干すと、ゲラゲラと笑いながらお店を出て行く。飛威狼とマスターは苦笑しながら、そんな二人の後ろ姿を見つめていた。

「事件が解決したと思ったら、また同じ事件が起こらなきゃいいけど・・・。」

「ははは、そうだな。しかし、訪問販売というシステムはこれからも続くだろうな。買う人がいるから売る者がいる。需要と供給のバランスがあるからこそ、日本の経済は成り立っているんだからね。」

 飛威狼とマスターは、互いに顔を合わせてクスクスと微笑んでいた。

この番組は、明日のあなたに快適をお届けする「訪問販売事業振興会」と、

安眠打破スーパーでお馴染みの「ダマサレルナー株式会社」の提供でお送りしました。

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