1-3.初めての寮
「学校の東側って……ここか」
『女子寮』という看板が掲げられた建物をひよりは見上げる。
レンガで出来た外壁は学園とはまた違った重厚感があり、窓枠や手すりには学園と同じような装飾が施されていた。
学園といい寮といい、孤児院にはない種類の上品さや高級感は、ひよりにとってはどこか近寄りがたい空気を感じるものであった。
(うう……やっぱりお金持ちの匂いがする建物だなぁ)
そう逡巡するが、入り口にずっと立っている訳にもいかず、金色の装飾が施された取っ手を持ち入り口を開ける。
玄関に入ると、右手には小さな受付台があり、そこに座っていた管理人さんと思わしき黒色の髪をした若い女性が声をかけてきた。
「あら、新入りさん?」
穏やかな声に少し安心しながら、ひよりはぺこりと頭を下げる。
「あ、そうです。今日からよろしくお願いします」
ひよりがぺこりと頭を下げると、黒髪の女性はニコニコと笑いこう続ける。
「はい、よろしくね。念のためなんだけど、鍵を見せてもらえるかしら」
「あ、はい、どうぞ」
そう言われて鍵を渡すと、女性は青い石を鍵に嵌め込まれた赤い石にかざした。お互いの石がフワッと光を放ち、そして消える。
異常はなかったのか、女性はすぐに鍵をこちらへ返してくれた。
「ごめんなさいね。たまに寮に侵入しようとして鍵を偽造する不審者がいるから、見慣れない人の鍵は確認するようにしているの。でもこれは大丈夫そうね」
物騒な話ではあるが、ここは貴族が通う場所だ。そういうこともあるのだろう。
ただそれより、ひよりは今女性が行ったことが気になっていた。
「あの、それ……さっきの事務の人も学生証でやっていたんですけど、何をしたか聞いても良いですか?」
「ああ、これね。私が持っているこの青い魔石とこの鍵に嵌め込まれている魔石同士、お互いの波長が合うか確かめていて、それで鍵が本物かどうか確認するの。偽物を作られた時に分かるようにね」
と言われても、ひよりは首をひねってしまう。
「魔石……そういえば名前だけは聞いたことあるような」
「あら、魔石を使っている所を見るのは初めて?珍しいわね。あなたどこで育ってきたの?」
「……ええと、バール地方の孤児院です」
この国で魔石を知っていることは常識なのか。
知らないことで何か不審に思われたりしないか、不安で唇を結び無意識にスカートの端を握りそう答える。
「なるほど。あの辺りの……しかも孤児院にいたなら魔石に触れる機会は少ないでしょうね」
女性は納得したようで、ひよりは少しほっとした。
そして自分の持っている青い石を指差しながら言葉を続ける。
「魔石というのはこの国で取れる石なんだけど、加工して魔法陣を刻み、魔力を流せば魔法師が普段使えない種類の魔法を使えるの。コンバーターみたいなものね」
「へえ…...便利ですねぇ」
目をキラキラさせるひよりとは対照的に女性はため息を吐き、
「魔法師といっても一般魔法しか使えないか、固有魔法を含めても使える魔法が二、三種類に限られている人がほとんどだから。魔力変換に少し時間がかかるから実戦向きではないけど、こういう道具は貴重なのよ」
と締めくくった。
そんな会話を終え、ひよりは階段へと向かった。
◇◇◇
「ええと、502号室、502号室、と……」
春休みで帰省中の学生も多いのか、人の気配はほとんどない。特に誰とも鉢合わせず自分の部屋まで辿り着いた。
事務の人にもらった鍵を差し、ドアを開ける。
「うわぁ、広い……」
部屋に入ると、縦四メートル、横五メートルほどの空間が広がっていた。
正面の奥には一人用ベッドがあり、そのすぐ隣には小さなランプが台に乗っている。
部屋の中央にはおそらく食事用と思われる白い大理石のテーブルがあり、椅子が二つ置いてある。
そして右側の壁には勉強机とテレビボード、そしてその上にはテレビがあった。
(ノヴァルのお貴族様って……テレビとか見るのかな?)
孤児院には一つテレビがあり、あのチャンネルが見たいこのチャンネルが見たいとよくケンカになったものだが、上流階級の貴族様がテレビをご覧になる想像はなかなかつかない。
(あ、そうだ、早く教員室に行かなきゃ)
事務のおじさんに言われていたことを思い出し、ひよりは荷物を降ろして学園へ戻った。




