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1-2.学園到着

 『次はー、王都正門前ー、王都正門前ー』

 (うぅ、もう王都なのかぁ……もうしばらくしたら学園に着いちゃうなぁ)

 バスのアナウンスを聞きながら、トランクの取っ手をぎゅっと握りしめてひよりは今までの出来事を思い返していた。


 この国では、年に一度、学生の魔力測定が行なわれている。

 測定は、水晶に手をかざし、魔力量に応じた光の強さを機械が計測するというものだった。

 ただし、初めて魔力ありと測定されるのは基本的に小〜中学生前半であることが多い。


 そして高校入学を目前に控えた二月初旬。

 今回もどうせ魔力なしだろうと高を括っていたところ、思いがけず測定に引っかかってしまったのだ。

 一定以上の魔力が確認されると、最低限の魔法の制御方法を学ぶため、王都にある魔法学校へ通うことが義務付けられてしまう。


 ひよりとしては、平凡に生き、平凡に暮らすためそんな魔法が飛び交う危険な学校に通うことはごめんだったのだが、こればかりは仕方ない。

 (ううう……あの水晶、これまでの測定では一度も反応しなかったのに……それに魔法学校って、貴族の人が通うって話だし、私爪弾きにされちゃうんじゃ……)

 シスターの前では強がりでああ言ったものの、不安で両手の指をもにょもにょさせてしまう。


 それに、主な心配事があと二つあった。

 一つは、魔力ありと判定されたにも関わらず自分の魔法が分からないこと。

 基本的に、魔法師は魔力があると自覚した段階で火や水といった自分の使える魔法を自然と自覚する。

 しかし、ひよりは魔力があると突きつけられても自分の魔法がさっぱり分からないのであった。


 そしてもう一つ。

 ひよりには十歳より前の記憶がない。

 気づいた時には孤児院のベッドで目を覚ましていた。

 突然孤児院のベッドで目を覚ましたひよりに対し、テイラー先生は終始優しく接してくれた。

 自分が捨てられた経緯や記憶がない理由についてテイラー先生に何度か尋ねようとしたが、「あなたは雨の中、この建物の前にポツンと立っていたの」と言われるだけであった。


 それにも関わらず、いつのまにか持っていたブローチについては両親の形見かも知れないから大切に持っておくようにと何度も念を押された。

 要するに、孤児院にいたとはいえ、普通の孤児院の子ども達より事情が複雑なのだ。

 孤児院ではひよりもそこまで浮くことはなかったが、貴族の集まりとなると話が変わってくる気がする。


 (うーん、どうしようかなぁ)

と考えながら、バスの外を眺める。

 バスは既に王都の中心部へと差し掛かり、孤児院の周辺とは明らかに違った街並みが流れていた。

 アスファルトで舗装された広い道路の脇には石畳で作られた歩道があり、隅々まで整備されている。

 石畳の上に建ち並ぶ建物には白や茶色の石材が用いられ、レンガ造りの古めかしい屋根が続く中に、現代的なコンクリート造りの建物がちらほらと顔を覗かせていた。


 (この国が車やバスで行きたい所に早く行けたり、壊れにくい建物を建てられるようになったのは移住してきた元日本人達のおかげってテイラー先生が言ってたけど)

 記憶がない上、まだ10代のひよりには実感のない話であった。


 しばらく進んだ通り沿いには、屋台や商店といった昔ながらの店に加え、スーパーや家電量販店といった現代的な店が軒を連ねている。

 (貴族制度がある国で、スーパーや家電量販店なんて。物語の世界じゃ見ない話だよなあ)

と、ひよりは孤児院で読んだ小説の内容を思い出す。


 バスの窓を少し開けてみると香ばしい焼き菓子の匂いや、見慣れない香辛料の香りが風に乗って流れてきた。

 ひよりはお腹を押さえながら上を見上げ、

 「はぁ……お腹空いてきたなぁ」

と呟く。

 お昼ご飯を食べたばかりだというのに、こんなに美味しそうな香りを流されては食欲が刺激されるというものであった。


 そして、

『次はー、王都第一魔法学校前ー、王都第一魔法学校前ー』

と、ひよりが通う学校の名前のアナウンスが響き、ひよりは降車ボタンを押した。


◇◇◇


 バスを降り、ひよりが顔を上げると石造りの建物が目の前に広がっていた。

 外壁は淡い灰色でありながら、どこか温かみがある。

 窓枠や手すりには小さな装飾がいくつも施されており、見る者を立ち止まらせるほどの美麗さがあった。

 無駄に派手というわけではないが、それがかえって製作者の高い技術を示しているようであり、この建物の格式高さを表しているような気がする。


 左手には寮と思わしき、小さな窓が並んだレンガ造りの建物があった。

 ただ、右の方へ目をやると、古風で高級な雰囲気に似合わないコンクリート製の細長い建物がポツンと立っていた。どこか寒々しさや孤立感を感じさせるが、別棟なのだろうか。


 「入学がまだなのに学園に入るなんて緊張するけど…でも鍵を取りに行かないと……」

 入学式は4月に入ってからだが、心配性なひよりは学園の雰囲気に慣れるため、早めに寮に入っておくことにしたのだ。


 学校の入り口から少し距離を置いて立ち止まり、ひよりは学園から送られてきた寮についての資料を大きめの封筒から取り出し内容を読んでいく。

 「ええと、寮に入るためには事務所で名前を名乗って生徒手帳を見せること、か……」


 封筒から生徒手帳も取り出し、自分の名前と生年月日に間違いがないことを確認すると、真正面のドアを開けた。

 ……と言っても生年月日は孤児院の先生の推測なのだが。

 玄関に入ると、孤児院とは比べものにならないほどの高級感に包まれ足元がふわふわした。

 その感覚に戸惑いながら周りを見回すと、すぐ左手に『事務所』と書かれた表示が見つかったため、声をかける。


 「あ、あのー、すみません。今度入学する結城ひよりで、寮の鍵をもらいにきたんですけど、今大丈夫ですか?」

 すると茶髪で体格の良い、騎士でもやっていそうな男性がニコニコしながらひよりの方にやってきた。

 「ああ、今度入学する学生さんだね。生徒手帳も見せてもらえるかな」

 「あ、はい、どうぞ」


 警備員と思われる男性は生徒手帳から学生証を出し、学生証に嵌め込まれている小さな石に青い石を近づける。

 (あ、学生証……あんな石が嵌め込まれていたんだ)

とひよりが思っている間に、お互いの石が淡く光り、そして消えた。それを確認し、男性は学生証とひよりの顔を見比べてうんうんと頷き、

 「うん、結城ひよりさんで間違いないね。それじゃあ鍵を渡すよ。寮は東側の建物だ」

と、ひよりの手に鍵を乗せてくれた。

 鍵には丸いプラスチックの形をしたキーホルダーがついており、部屋番号が書かれている。

 よく見ると、鍵の取っ手部分には学生証と同じように赤い石が嵌め込まれていた。


 その様子を見て男性が続ける。

 「それにしても高校一年生でこの学校に入学するなんて珍しいねえ。高校からの入学生は今年は君一人だけみたいだし」

 「え、そうなんですか……」

 ひよりが少したじろぐと、男性はガハハと笑い言葉を続ける。

 「でも授業内容の半分は一般の学校とほぼ変わらないし、やっていけると思うよ。今までの編入生や入学生も乗り越えてきた道だ」

 「は、はぁ……」


 一抹の不安が残りながらも、寮の鍵を手にしひよりは事務所を去ろうとしたが、そこで男性に呼び止められた。

 「おっと、しまった。君に伝言があるんだ。君が学園にきたら、荷物を置いてすぐに教員室にきて欲しいらしい」

 (……?何だろう、入学にあたっての連絡事項とかかな)

 そう思いながら男性に分かりましたと答え、ひよりは事務所を後にした。

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