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1-11.報告会、そして

 数日後、王都第三魔法学校生徒会室。

 第一王子が主となっているこの部屋で、報告会が行われていた。


 報告会のメンバーは、第一王子であるルイ、側近のニール、そして棗朝陽と新見誠一郎である。

 以前と同じく、第一魔法学校のメンバーと第三魔法学校のメンバーが向かい合わせになって座っており、全員の前には紅茶が置かれている。


 全員の注目はニールに集まっていた。

 その中で、ニールは鞄からハンカチに包まれたブローチを取り出した。

「依頼されたブローチ、知り合いに検分して頂きました」

 新見誠一郎は前のめりになり、膝の上で手を組みながら話を聞く。

「そうですか。それで結果は?」

「ブローチの裏側の紋章は、星村家のもので間違いないそうです。おそらく、星村家の誰かが依頼した物なのだろうと」

「なるほど。立体魔法陣についてはどうでしたか?」


 ニールはすぐには答えなかった。

 ブローチの縁をゆっくりと指でなぞり、アメジスト色の石の部分を指差す。

「……この立体魔法陣は地脈から魔力を吸い取って動く自律稼働型で、効果は病気や怪我からある程度持ち主を守り、健康に成長させるものだと」

 棗朝陽がブローチを眺めながら手を顎にやり疑問を言葉にする。

「……ということは、結城さんのご家族か誰かが結城さんの健康を願い作ったってことですか?それにしては立体魔法陣まで作るのは過保護な気はしますが……」


 ニールは頷いて、

「私もそう思い、検分して下さった方に本当に間違いがないのか聞いて、追加で時間を割いて再確認して下さいましたが、それでも間違いないと」

 ニールはロゼッタの言葉を思い返す。

 ーー立体魔法陣は地脈から勝手に魔力を吸い取って自律稼働するものと、表面に平面魔法陣を書いて使用者が魔力か生命力を注いで発動させるものがありますけどぉ、これは前者ですねぇ。これを持ち主に渡した方は、持ち主に気づかれないようにしつつも、よっぽど持ち主の身を心配していたんでしょうーー


 そこでルイが紅茶に角砂糖を入れながら口を挟んだ。

「あの平民魔女は変わり者だが仕事には真摯だ。彼女がそう言っているなら間違いはないんだろう」

 生徒会室に沈黙が訪れる。

 ニールは話の続きをしようと渇いた喉を潤すため、紅茶に二、三口手をつけた後、カップをソーサーに戻した。

「そうですね。それと、魔法が使えない理由についても聞いてみたのですが、全く未知の魔法で自分でも想像が出来ていないか、あるいは他人に干渉する魔法で無意識の内に使うのを拒んでいるか。それと記憶が封じられているなら、ついでに魔法も封印されている可能性もある、とのことです」


 新見誠一郎は頷き、

「そうですか。でもそれでは一般魔法も使えない理由にはあまりならないのでは?」

「それについても、魔力回路の構造が特殊であれば可能性はあると。……それ以上詳しい話はありませんでしたが」

 そこで再度沈黙があった。

 部屋にかけてある振り子時計の針の音がやけに大きく響く。

 その時、ルイが紅茶に角砂糖を追加しながら横から口を挟んだ。

「ニール、彼女、その情報はどこで手に入れたんだい?普通に仕事をしていれば知るはずのない情報だと思うけど」

「殿下、その前にお言葉ですが……砂糖を入れすぎです。甘いものを取りすぎるなと陛下に言われているでしょう」

「立ったの3つだ。糖尿病になるほどじゃないさ」

「この角砂糖は大きいので3つは入れ過ぎです。貴方の健康管理も私の役目なんですから節制して下さい」

 ニールは相変わらず困ったように眉を下げており、ルイは肩をすくめた。

 ニールはわずかにため息をつき、少し沈黙した後、意を決したように話す。

「情報の出どころについですが、魔法監査局になります。かつてあの場所では、魔力がありながら魔法を使えない魔法師の研究があったそうです。彼女はその記録を読んで知ったと」


 その瞬間、生徒会室の空気が凍った気がした。

「……何ですって?」

 横槍を入れたのは新見誠一郎だ。その目は驚きに満ちている。

「私が魔法監査局で働いていたのは五年ほどですが、それなりに重要な情報も知っていたつもりです。しかしそのような記録は見たことがありませんよ」

 ニールは新見誠一郎の反応は想定していたようで、ブローチの縁をなぞりながら冷静に言葉を続ける。

「彼女の話によると、立体魔法陣の研究のために地下の図書室に行ったところ、その資料があったそうです。彼女は優秀だったので特別に許可が出たのでしょう。……優秀過ぎて退職(クビ)になるほどに」

 ルイがそこでため息をつき、角砂糖で甘くなった紅茶を飲み干した。

「あの研究所爆破事件か。まあ、機密事項を知ったことがバレていれば口封じに殺されているだろうから、クビになったのはおそらく単なる彼女のミスだろうが」

「殿下、この件、どうなさいますか?下手に動くと……」

 言い淀んだニールの言葉を、ルイが腕組みをし、ため息をついて引き継ぐ。

「そうだな。魔法監査局は反魔法師、反貴族の派閥の力が強いからな……下手に監査局に手を出すと、かつてのアルトレイユ侯爵家の悲劇を招きかねない。王都の空気も揺らぐだろうし、内戦は起こしたくないな」

 アルトレイユ侯爵家。

 その名を聞いた瞬間、新見誠一郎はわずかに目を伏せた。

「……あの事件も確か、立体魔法陣が関わっていましたね。監査局は自分の領域に手を出されることに敏感です。準備が出来ていない状態で手を付けることではないですね」

 ニールも頷く。

「そうですね……尻尾を出すまでは一旦様子見の方が賢明かと」

「一応、父上に監査局の監視をこっそり強めてもらうよう伝えておこう。それと結城さんについては」


 そこでルイが言葉を切って棗朝陽と新見誠一郎の方を向く。

「記憶がないことに関しては、小さい頃から孤児院にいたことにして、ブローチはその時から持っていたことにしてもらおう。監査局は『あの事件』以降立体魔法陣の所持者に職務質問をするくらい敏感だし、星村家についても同様だ。立体魔法陣に害がないことは元監査局員が証明している訳だし、『あの事件』の時に結城さんは生まれていない。リスクはあるが、先に僕の方から監査局に結城さんの出自を話すことで牽制は出来るだろう」

 棗朝陽も頷き、

「そうですね。僕の生徒会で日中は基本的に結城さんを保護できますし、そうしましょう」

 朝陽がそう言うと、ルイは首肯し、換気のため窓を開けに行った。

 全員の注目がルイに集まっている中、ルイは振り返ると、

「ああ、そうだ。僕らが前回話をした日、僕の妹と一緒に結城さんとアメリア=クロフォード嬢が魔獣に遭遇したらしい。そこで不思議なことがあったそうだ」

「不思議なこと、というと?」

 朝陽が先を促すと、

「妹が言うには、五匹の内四匹は退治できたが、一匹仕留め損なったらしい。それを結城さんが庇ったそうなんだが、結城さんの腕の中で魔獣が消えたと」

「魔獣が、消えた?」

「そうだ。彼女、特に攻撃などはしなかったそうなんだが、これはどういうことだろうね」

 朝陽は人差し指を顎にやってしばらく考えると、

「彼女の固有魔法、でしょうか……」


 ルイはソファに戻り、片手でもたれかかるようにしながら

「ああ、僕もそう思うよ。だから彼女がどんな場面で魔法らしきものを使った形跡があったか、都度確認して欲しい」

「……分かりました。僕の生徒会員にも伝えます」

そうして、報告会は終了した。


◇◇◇

 昼下がりの女子寮。

 魔獣の襲撃があった日から王都に行くのもなんとなく気が引け、ひよりは部屋で過ごしていた。

部屋でテレビを見ながらぼんやりしていたその時、ピンポーンとチャイムの音が鳴った。

 誰だろう、と思いながらドアをあけてみると、アメリアが仁王立ちになっていた。

 思いもかけない人物の来訪にひよりは少し驚きつつ、

「あれ?アメリア様、どうされたんですか?」

 思ったまんまを口にするとアメリアは少し怒ったような拗ねたような口調で、

「……結城さん、今朝の朝食と昼食、貴方を食堂で見かけなかったのですけど、一体どこで食べていらして?」

「あー……」


 ひよりはちょっと目を逸らす。

 貴族の友人が出来たといっても、食堂はまだひよりには行きづらく、朝も昼も部屋で食事を取っていたのだ。

「入学前なのに見ず知らずの私が食堂に行っちゃうと浮くかなーと思って行くに行けなくて……部屋で食べてます」

 アメリアも貴族なので、貴族がいるところばかりだと緊張する、というもう一つの本音は隠して話す。

 すると、アメリアが纏っていた空気が少し緩んだ。

アメリアはほっと息をつきながら、

「そうでしたの……まだ入学していないのに学校のみなさんがいる場所で食べるのは確かに勇気がいりますわね……でもわたくし寂しくて」

 その言葉には冗談といった雰囲気はなく、本気の匂いがあった。

 しかし、少し疑問ではある。

 アメリアがずっと学校に通っているなら、その人柄から友人は多そうだと思ったからだ。

「え?でもアメリア様、ご友人いらっしゃいますよね?その人達とは一緒に食べないんですか?」

「いるにはいますけれど……やはり新しいお友達が出来たのなら、一緒に食卓を囲みたいではないですか」

 しゅんとしながらアメリアが言う。

 平民出身の自分に王都の案内をしてくれたり、躊躇なく食事のお誘いをしてくれたりと、アメリアは想像以上に他人思いのようだ。

 ひよりはその気遣いに胸が温かくなった。

 どちらにしろ入学後に関わる人達だ。

 きっかけがあるなら、勇気を出してみても良いだろう。

「それなら……アメリア様のご友人が良いとおっしゃったら、今日の夕食、ご一緒しても良いですか?」

 そう言った瞬間、アメリアは花が開いたようにパッと顔を明るくさせた。

 アメリアはひよりの手を取り、

「ええ、ええ、もちろんですわ!わたくしの友人たちも、新入りのあなたを邪険にするような方たちではないと約束しますの。それでは他の方々に確認を取ってまいりますわ!」

 アメリアはひよりの手をひとしきりブンブン振った後、それでは失礼します、と挨拶をし、るんるんスキップでひよりの部屋を離れて行った。

 しばらくして、もう一度チャイムが鳴った。

 ドアを開けると、アメリアが息を弾ませて立っている。

「結城さん、許可が取れましたわ!みなさん、是非ご一緒にと仰っていましたの!」

 そう言うアメリアの顔は本当に嬉しそうであった。

 慣れない場所で、知り合いが増えるというのは少し安心できそうだ。

 アメリアが心からひよりを自分の輪に入れてあげたいと思ってくれていることに感謝する。

 ひよりは、ありがとうございますとお礼を言い、食事を初めて食堂で取ることになった。

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