モンシロチョウ
桜咲く4月僕は新しい学年の教室に向かった。
今日から2年生となった僕は新しい風を感じながら自分の席に座った。
気分は新鮮だが机も椅子も年季が入っている。
この机と椅子はもう何回生徒を受け入れたのだろう。
自分もその何回目かの生徒になった。
朝、クラス替えの張り紙を見た時、そわそわした。
仲のいい友人とまた同じクラスになれたかな、あの嫌な奴とは別のクラスになっていてほしい、あの娘は隣の席にならないかなと思いめぐらしていた。
この落ち着きのない心を鎮めるため急いで張り紙を確認した。
仲のいい友人とは同じクラスになれた。
喜びが湧いてきた。
これでこの一年ボッチにならずに済む。
もう、2年生ともなるとグループが出来ていて、新しく作るのは難しい。
友人がいないクラスになったら、一から友人作りを始めないといけない。
その労力と言うのは計り知れないものである。
ルンルン気分で教室に入ると、友人の崇志がいた。
いつも僕のつまらない話を聞いてくれる大切な友人だ。
「おう、崇志。また同じクラスだな。」
「いやぁ、もうやんなっちゃうよ。またお前と同じクラスなんてうんざりだ。」
「まぁ、そう言うなって、また一年仲良くしようぜ。」
「まぁ、そうだな。よろしく。」
「よろしく。」
始業式の時間まで崇志と他愛もない話で盛り上がり、先生が来たので着席した。
先生の有難い話が終わって、始業式へと行った。
始業式では校長のこれまた有難い話が長く続き、うんざりしてきた時に終わった。
その後、授業はなく解散となった。
僕は部活行こうかと考えた。
美術部に所属している。
今日は活動日ではないが、彼がたぶん絵を描いている。
彼は何かと目立つ人だった。
描いた絵は人々の心を打ち、話すことは作品論にしろ、日常的なことにしろ、人々の関心を引いた。
それでいて本人は他人に執着しない自由奔放な性格をしていた。
派手な羽で飛んでいるような奴だった。
僕は彼の絵に惹かれていた。
僕も彼に魅了される大勢のうちの一人なのだ。
けど、近づきたいとは思わなかった。
誰もが彼を捕まえようとするが、僕の場合、彼を眺めて観察しているだけでよかった。
多分僕には眩しすぎたのだと思う。
僕は彼と比べたら虫けらだろう。
大勢の中の虫一匹。
アリがいて、ハチがいて、カブトムシがいて、トンボがいて、バッタがいて、僕がいる。
そんな存在なのだと思う。
彼からしてみたら。
僕は彼に憧れの念を抱いているのだろう。
彼と取って代われたらと思うとどす黒い感情が湧く。
そういう憧れである。
そして、彼が成功していくの遠くで眺めているだけ。
そんな彼がいる美術室に行こうかと思っていた。
彼はいつもの定位置である美術室の右奥、準備室の入り口近くで描いているだろう。
僕はその反対側で絵を描く。
彼に見られないように。
それに多分他の部員も何人か顔を出すだろう。
そいつらと雑談するのも一興だ。
行ってみるか。
崇志と別れた僕は西棟の1階の美術室へと向かった。
教室はもちろん廊下にも生徒たちが集まってそれぞれ無駄話に花を咲かせていた。
僕は彼らに気にかけれることなく、問題なく、真っすぐに美術室へ着いた。
少しくらい何かイベントがないかと思ったが、そんな愉快な世界ではない。
美術室に入るとやっぱり彼はいた。
また、他の生徒もちらほらいる。
その中に懇意にしている原君がいた。
「おーい、原君。」
「おう、お前も来てたのか。」
「ちょっと描いてから帰ろうかと思って。」
「だよな。一日でも描かないとうずうずしちゃうよ。」
絵が大好きな人同士の会話。
でも、僕は別に大好きというわけではなかった。
みんなが好きそうにしているから自分も好きな人間をしている。
そこに本心はなかった。
確かに絵を描くのは好きだった。
でも、それは絵が様になっているのが、気持ちよいからで、描きたくて仕方がないというわけではなかった。
むしろ、部活で絵を描く日が続くと全く描く気がしなくなる時期があったりした。
そいう時でも僕は周りに合わせて絵が好きであろうとした。
原君と少し雑談した後、僕は絵を描き始めた。
とはいっても、絵の具を出すのは面倒だから、準備室から置物を持ってきてデッサンした。
準備室に入るとき彼の横を通った。
彼は気の抜けた顔で、でも真剣に絵を描いていた。
その様子はまるで天才の所作のように見えた。
デッサンをしばらくした後、僕は帰ることにした。
原君らに挨拶して美術室を出るときに彼の方も見た。
彼は変わらずに絵に集中していた。
家に帰る道すがらコンビニに寄った。
少し何かしたかったのだ。
チキンを買って食べながら歩いて帰った。
何か特別な気がした。
家ではスマホをいじりながら勉強でもしようかと思った。
生物でもやるか。
勉強しながらふと、将来について考えた。
悩み始めていた。




