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【改稿版】家出したとある辺境夫人の話  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
辺境伯夫人の詭計

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12/20


 ゴルドが屋敷を出て行くのを見届けると、ヒューはそっとそのあとをつけた。


(さぁて、金の在処まで案内してもらおうか。くくっ)


 ヒューの口元に、黒い笑みが広がった。


 トリシアから届いた手紙には、今後の動きに関する指示が事細かく記してあった。

 ゴルドがアーゴットたちにも隠している金の在処を見つけ出すことも、そのひとつだった。


 ここ数年ゴルドが税金を横領しているのは、帳簿からも明らかだった。


 トリシアが嫁に行ったあと、領地の見回りも帳簿付けもすべてヒューが引き継いだ。ゴルドがすることと言えば、都度かかった領収書などを手渡してくるくらい。


 そのいくつかは明らかに手を加えた形跡があったし、架空のものと思しきものもいくつもある。おそらくはゴルドがない頭を必死に使って経費をごまかし、浮いた金を懐に入れているのだろう。その上国に納める税金も、農作物の不作による税収が少ないと虚偽の報告をしているのだ。


 もしもこんな悪事が国にばれれば、間違いなく領主の地位も貴族位も剥奪され、取り潰しになるか別の領主にすげ替えることになるだろう。まさかトリシアもヒューもその悪事にとっくに気がついているとは知らず、のうのうと悪事を続けているようだが。


(お前が大きな顔をしていられるのも、あとひと月ってとこかな。いや、これは皆トリシアの計画だ。もっと早くにお前の苦しむ顔を拝めるかもしれないな)


 ヒューにとってゴルドは雇い主には違いない。けれど一度だって信用したこともなければ、忠誠を抱いたこともなかった。


 家令だった父とともにトリシアの亡母とトリシアへ深い情を抱いていたからこそ、今もこうしてこの屋敷に留まっているに過ぎない。

 そして今では、トリシアへの思いは情をはるかに超える深い思いへと変化していた。


 だからこそ、ゴルドとアーゴット、リリアたちのトリシアへの態度は我慢ならないものだった。けれどそれももう終わる。何もかも――。


 ゴルドは警戒するようにきょろきょろと辺りを見渡しながら、町をどんどん進んでいく。


(この先は……、劇場か? こんな小汚い裏町に貴族が出入りしているとはな。ま、あいつにはお似合いだが)


 表通りからさらに奥へと進んだ裏通りを、ゴルドはひとり歩いていく。昼間でも道端に酔っ払いが転がっているような、いかがわしい店も多い通りだった。

 その一角にある、比較的大きな建物。その中へと、ゴルドは慣れた様子で入っていった。


(なぜ劇場なんかに? まさかこんなところに金を隠しているとでもいうのか?)


 首を傾げ様子をうかがっていると、ふと背中に人の気配を感じ振り向いた。


「……うわっ、親父⁉ まさかあとをつけてきたのか?」


 思わず大きな声を上げそうになり、慌てて声をひそめた。 


「ふふっ。私のところにもトリシア様からの手紙は届いていたからね。しかし、思った通りだな」

「思った通り? どういうことだ」


 涼しげでどこか飄々とした父親の顔を見やり、ヒューが問いかけた。


「アーゴットたちには死んでも知られたくない金を隠すには、屋敷の外しかない。しかも旦那様は、昔からこうしたいかがわしい店の女が好みなんだ。おそらくは踊り子を愛人として囲っているんだろうさ」

「あの腹の突き出た狸に愛人っ⁉ じゃあその踊り子に金を預けているとでも?」


 どうにも信じがたい。アーゴットがゴルドと再婚したのは、間違いなく金目当てだ。当時アーゴットは夫から激しい散財を理由に離縁されたばかりで、新たな金づるを探していたと聞いたことがある。が、まさか愛人までいたとは――。


 げんなりとした顔で、ヒューはゴルドが消えていった劇場を見やった。


 ここで夜な夜な催されているのは、裸同然のあられもない姿で腰をくねらせ踊り狂う踊り子のショーだった。どうやらゴルドは、昔からここの常連であるらしい。


「おそらくな。踊り子は大体劇場の隣にある下宿で暮らしている。ゴルドの金もきっとそこにあるはずだ」

「やれやれ……。なら押しかけて、金を奪い取るとするか」


 そうとなればさっそく金の在処を突き止め、ゴルドの息の根を止めてやろうと意気込んだヒューを、父が押しとどめた。


「それは私がやる。もちろん旦那様には気づかれないようにこっそりとな。今我々が動いていると知られては、トリシア様の計画が台無しだ」

「まぁ……それもそうか」


 トリシアへの思いがあふれるあまり、つい肝心の計画を忘れるところだった。ヒューがふぅ、と大きく息を吐き出し気持ちを落ち着かせた。


「もうすぐここにアーゴット様とリリア様がやってくる」

「は? なんで」


 父の思いもよらない言葉に、ヒューの口があんぐりと開いた。


「私が匿名の手紙で呼び出したんだよ。お前の夫が、愛人とともに大金を持って逃げるつもりだと嘘を吹き込んでね」

「……」

「あぁ、ほら。おいでになったらしい」


 いつもの一見穏やかな笑みの下に、黒いものがよぎる。

 そんな父の顔を顔を引きつらせ見やったヒューは、自分のすべきことを理解した。


「……わかった。ゴルドとアーゴットが騒ぎを起こしている間、親父がこっそり金を持ちだす算段だな。なら俺は適当にあいつらの注意を引きつけておくよ」

「あぁ。しっかりやれよ。ヒュー」


 息子の言葉に満足げにうなずくと、どこか楽しげな足取りで去っていった。その後ろ姿を見送り、ヒューは口元を歪めた。


 実の父とは言えいつまでたっても子ども扱いされているようで、どうにもおもしろくない。

 が、今はトリシアが練りに練った計画を成功させることが先決だ。


 口元をぎゅっと引き締め、ヒューは次の行動にかかったのだった。


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