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【交界記外伝1】愛すべき彼と不器用な恋の日々  作者: なぎゃなぎ


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4/4

その4~初めての共同生活~

私、真城綾菜(20歳)は、現在彼氏――水口優人の通い妻をしています。


朝、7時に起きて朝ご飯を食べて仕事の準備。

9時から16時まで、彼氏のいる工場でバイト。

その後、工場から徒歩15分のところにある優人君のアパートに行って――

掃除、洗濯を済ませたら近所のスーパーでお買い物♪

自分と優人君の晩御飯を作る傍ら、優人君の次の日の朝ご飯を作っておく。


優人君の帰りは深夜0時を過ぎることが多いから、夕ご飯は一人で食べて、最後に食器を洗っておく。


その後は、自分の一人暮らししているアパートに帰るんだけど、優人君を側に感じていたいと思ったときは、すぐに帰らずTVや動画をここで少し見たり――

どうしても優人君の顔を見たくなったら、そのままお泊まりしちゃう日もある。


お泊まりしちゃう日は、優人君が帰ってくるまで起きて待ってるんだけど、優人君は翌朝5時に起きるから、ゆっくりお話をするというより、すぐ寝られるように手伝うことの方が多い。


世話が焼けて困る彼氏だと友達にはよく話すんだけど――

実は、“彼氏に尽くしてる瞬間”にすごく幸福感を感じています。


こんなに彼氏中心の毎日は私の人生でも初めてで、私らしくない気もするけど、楽しくて仕方ないから我慢ができない。


優人君は疲れていても、私がアパートで待ってるといつも嬉しそうにしてくれる。

すぐに寝たいだろうに一生懸命起きて話をしようとしてくれるから、それを寝かしつけようと頑張ってる自分も、なぜか好きだ。


早くプロポーズしてくれないかな――。


* * *


そんな私は今日も、優人君のアパートで一通りの家事をこなし、TVを見る。

今日はなぜか寂しい気分だったので、優人君の布団を持ち出してソファーでくるまる。


今日は泊まろうかな……。


プルルルルルッ!


そう考えていたら、優人君から電話がかかってきた。


ドキッとしながら、私は電話を取る。


「もしもし、あや?」


「う……うん。どうしたの?」

私はどきどきしながら答える。


「今日、徹夜になりそうだったから伝えておこうと思って。さっきおにぎりが金属探知機に引っかかったんだよ。

おにぎりにネジが入ってたんだ。これから、どの機械のネジが取れたのか確認と対策会議になる――」


あーーー……

そんなの生産部と機械課の問題じゃん……。


喉まで出かかったが、そういうのも毎回巻き込まれるのが私の彼氏である……。


「うん……分かった……」

私の声はどうしても沈んでしまう。


「ん? 今日は寂しかったかな?」


優人君は、こういう私のちょっとした気分の浮き沈みにも気を使ってくれる。


大事にしてくれてるのは充分なほどに伝わる。

愛情が満たされると、自分の愛情を返したくなる。


「ううん! 大丈夫!! 晩御飯大丈夫? まだ優人君の家にいるから、帰りがてらお弁当持っていこうか?」

私は元気に見えるように答えると、優人君は安心した声で「――あやの弁当が食べたい」と答えてくれた。


* * *


私はすぐに用意しておいた晩御飯をタッパーに詰めて工場へ行くと、優人君は工場の前で私を待っていてくれた。


「あや、ありがとう!!」


私に気付くと、小走りで私のところに来てくれる。


「はい。お弁当」

言って差し出すと、優人君は両手で受け取る。


だけど、そのまますぐには工場内に戻らず、なんかもじもじしてる――。


(優人君も今日は私といちゃいちゃしたかったんだね?)


そう思うと、なおさら愛しくなる。


私は優人君の胸に頭を付ける。


「ちゅーしたい」


言うと、優人君はすぐに私を抱きしめてキスをしてくれた。

その後、少し頬ずりや髪を撫でてくれた――。


「じゃあ、行ってくる」


「うん。無理しすぎないでね」


「ああ。あや……超エッチしたい!」


「馬鹿!」


言って、私は自分のアパートへの帰路についた。


* * *


私が自分のアパートに着いたのは21時を少し過ぎていた。


本来、一人では絶対に出歩かない時間帯。

ってか、季節が季節だけにちょっと寒い。


私は玄関まで小走りを始めるが――玄関前にうずくまる人影に気付き、遠目で足を止めた。


(だ……誰!? 警察呼ぶ……べきだよね!?)


私は緊張しながら後ずさりする。

しかし、うずくまる人影に気付かれた!?


「あ、あや!!」


それは聞き覚えのある男の声だった――。


* * *


「はぁ~……生き返る~……つか、あや、こんな時間までどこ行ってたんだよ?」


私は男をアパートに入れると、暖かいお茶を出してあげた。


「彼氏の家だよ。つか、お兄ちゃんこそ何の用?」


「いや……愛子にさ……」


バツが悪そうにする兄の姿を、私は冷ややかな目で見る。


私の兄――真城弘樹(26)は気が弱くて他力本願なところが鼻に突くダメ男だ。

3年前に愛子さんという、なんでもずけずけ言う女性とおめでた婚をしている。

こんな二人なので、半年に1度は兄が愛子さんに家を追い出されているのだ。


「私、明日仕事だから泊めてあげないよ? ワンルームだから寝るところ無いし……っていうか、いきなり来ないでよ」


「そう言わないでよ。俺も仕事だし……っていうか、今回愛子やばいんだ……少しここに住ませてくれないかな?」


「はぁ!? 私どうするのよ? っていうか、お兄ちゃんがアパートなりマンスリーマンションなり借りればいいじゃん!」


「そんな金どこにあるんだよ! 敷金も礼金も出す余裕なんてねぇよ!!」


「知らないわよ! あなたとあなたの奥さんの問題でしょ!?」


「……いや、絶対におかしいって……だいたいうちの子どもも本当に俺の子なのか……」


私がこの兄を嫌う理由がこれ!

実を言うと、この兄は愛子さんのことも、自分の子どものことも最初からあまり好きではないらしい。

そのくせ結婚をして、毎回こうやって妹である私相手にグチグチ言って、結局少し家出した後、愛子さんに連れ戻されるのだ。


別れるなら別れればいい。

……というか、はなから結婚しなければ良かったのに……。


私はスマホを取り出し、優人に電話をする。


まだ会議中かな……。


ガチャ。


しかし、優人はすぐに電話に出てくれた。


「はいはい。どうした、あや?」


「あ……優人君、ごめんね。まだ仕事中……だよね?」


「ん……うん。あれからネジが1個足りないことが分かってね……今、大問題中だよ。

もう1個あるはずのネジ入りおにぎりが見つかってない」


「えっ!? それやばくない!?」


「うん。今、配達中のトラック30台のドライバーに連絡を入れて戻ってきてもらおうかとか言ってる。

金属探知機通しなおして確認した後、もう一度出荷。

当然納期間に合わないから、社員総出で配達するって話になってる」


「えええ……私の個人的な問題話してる場合じゃないね……」


「いいや? あやのトラブルの方が、俺からしたら大事だよ。

こっちのネジ入りおにぎりの問題は、馬鹿が話を大きくしてるだけで、ドライバーに“鮭おにぎりだけ抜いて納品してくれ”って指示出し。

あと、全加盟店に鮭おにぎり欠品の連絡をすればいいだけだし」


「あ……え? じゃあなんでそれを言わないの?」


「工場長が製造部の部長にブチ切れタイムとネジの機械の確認をしに行って、話が止まってるの。

探してもネジが見つからなかったら、さっさと次の手を打つのが先なんだけどね」


「……」


この工場は相変わらずだ……。

もういっそ優人君を工場長にしてしまった方が良いのではと思うときがある。


って、ダメダメ!! そうしたら尚更、私と優人君の時間が無くなる!!


「で、どうしたの?」


「ん……うん……それがね――」


私は、兄が家を追い出され、当分私のアパートに住みつくつもりであることを優人君に伝えた。


「なるほど! したら、あやは俺のアパートに住みなよ」


優人君の即断――。


「じゃあ、馬鹿におにぎり抜き納品と営業に詫び電話させろって言った後、あやを迎えに行くね。荷物まとめといてな」

優人君がそう言って電話を切った。


トラブルが重なってもこの感じで処理してしまう……。

こういうところが頼られる所以なんだろうなぁ~……。


「あやの彼氏、頼もしいね?」


全く頼もしくない、みっともない兄が何か言っている。


こうして私は、“通い妻”から“同棲者”に昇格したのだった。

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