第七話 澁澤の家出編①
高校生にとって、連休が明けると、夏休みまでこれといった休暇はない。夏休みまであと64日。数えるほうがおこがましいか。
今日の昼も鹿島と弁当を食べている。
「佐久間の家、凄かったよな。」
今日の話題は佐久間の家の話。我々庶民の金銭感覚とは懸け離れた彼の思いきった買い物には、我々庶民は大変驚いている。
「今日も佐久間の家で時間を潰すか。」
帰宅部の僕と鹿島にとって、放課後は結構有意義な時間。勉強に時間を費やすような真似は決してこれからもしないだろう。佐久間の家を訪れるのは最近の僕達にとっての日課である。
昼休み終了まであと五分。教室に帰ろうとする僕達を、B組から出てきた千代田が止めた。
「お前ら、澁澤知らねーか?」
そういえば、ここ最近澁澤を見かけない。澁澤は連休明けから一回も学校へ登校していない。
「メールしても電話しても全く反応なし。お前らも知らねーか。」
澁澤の親友の千代田ですら、彼の行方は知らないらしい。
「お前ら、今日どうせ暇だろ。澁澤ん家一緒に来いよ。」
千代田の誘いに、僕達は断る理由がないので快諾した。
ホームルームの後、みんなにその話をした。
僕と鹿島以外にも、佐久間、菅原、月島、天野という何時もの面子が揃った。森野は野球部なので、部活があって今日は来れないらしい。
「菅原、またお前の兄弟連れてくれば?」
鹿島は澪さん狙いか。こいつ邪な感情しか抱いていないな。
「そうだな、家に電話しよ。」
森野は携帯電話を取り出すと、家に電話した。
「もしもし。亮?兄弟全員連れて河川敷公園に来い。」
これは、鹿島にとっては予想外。
「多ければ多いほど役に立つだろ。」
菅原はそう言う。
「でもさ。小さい子とかってあんまり連れてこないほうがいいんじゃない。ほら、この前のウルトラマートの時みたいになるかもしれないしさ。」
鹿島が必死でフォローする。
「じゃあ、姉ちゃんに留守番と子守まかせて亮と崇だけでいいか?」
菅原よ。それは鹿島に対する仕打ちなのか。
「やっぱり多い方が賑やかでいいんじゃない。今回は多分ウルトラマートみたいなことにはならないと思うぜ。」
佐久間が鹿島の意思を受け継いだ。この瞬間、鹿島は佐久間に対してジュース一本奢る事を心に誓った。だが、鹿島の邪な感情は菅原にバレていた。
「鹿島。姉ちゃんはフリーだから大丈夫。ただ、お前が義兄っていうのだけは勘弁して欲しい。」
菅原の何気ない一言だが、このとき鹿島の心は相当混乱していただろう。
「あ、ああ。」
鹿島の苦し紛れの返事。
僕達一行はとりあえず澁澤の家が近い河川敷公園に行った。先日、菅原家にはまた赤ちゃんが生まれた。然し希ちゃん(赤ちゃん)は生まれたばっかりなので当然来ていない。菅原を入れて九人。何ともいえない大家族である。ここで、前にも紹介したかもしれないが、菅原家の兄弟を混乱しないように覚えよう。
菅原澪。先程からの話の通り、鹿島のアレだ。そう、アレ。それ以上は聞かないでくれ。
菅原光。我らがクラスメイト。今更説明する必要もない。
菅原葵。中学二年生。外見は澪さんに似ているが、性格はいたって凶暴。
菅原亮。磯野カ●オブラザーズの兄。
菅原崇。磯野カ●オブラザーズの弟。因みに磯野カ●オブラザーズについては、第四話を参照のこと。
菅原愛。小学二年生。小学二年生ながら某塾に通っているので百点とれるもん。月島より頭がいい。
菅原翔。幼稚園年中組。仮面ラ●ダーが大好きである。よく日曜の朝早起き出来るものだ。
菅原希。ベビーカーに乗っている。まだ首が座っていない。
ここまででお気づきいただけただろうか。菅原家は全員名前が一文字。因みに父親は誠で母親は恵。十一人これは珍しい。
紹介している間に、澁澤家の前に到着。案内は千代田でした。どうでもいいか。
チャイムを押したら母親が出てきた。澁澤の母親はいってて四十。とても高校生の息子がいるとは思えないほど若々しい。
「ごめんなさい。実は匠…」
ここにも一文字の名前。しかし、澁澤母の表情からして何かあるのだろう。
「置手紙残して家出したの。」
「えーーーー。
当然、僕達は唖然とした。
「俺の家に来い。」
佐久間がそう提案した。
佐久間の家は広いので僕達全員が入りきれる広さだった。
佐久間は早速パソコンを起動した。
「澁澤の携帯番号からあいつの居場所を特定する。」
そんなことできんのか、佐久間。相変わらずお前は天才だな。
「北緯三十五度、東経百四十度…」
「どこだよ。」
「東京だな。」
本日再びのえーーーー、だった。