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第五話 ウルトラマート編⑤

 午後九時の閉店から一時間。午後十時を向かえると、見回りの店員の姿も見かけなくなり、あとは佐久間の連絡を待つのみ。しかし、佐久間からの連絡は一向に来ない。もしかして、佐久間が捕まったのではないか、と危惧していたその矢先。

 佐久間が僕の目の前にいた。暗がりの中なので気付かなかったのだろうが、佐久間は僕の前に暫くはいたようだ。

「おい、北野。」

 佐久間が呟いた。

「そろそろか?」

「今から連絡をする。お前は先に、食料品売場まで行ってろ。」

 佐久間にそう言われたので、僕は真っ暗な中、止まったエスカレーターを下って行った。いくらショッピングセンターとは言え、真夜中に真っ暗で自分一人が歩いていると薄気味悪い。食料品売場は一階のエスカレーター降り口すぐそばにあったので、辿り着くまでにそれほど時間は掛からなかった。

 食料品売場には澪さんと崇がいた。

「北野くん?」

 澪さんの声だ。生憎今日は新月の夜なので、至近距離まで近づかないと敵味方の判別がつかない。

「僕ですけど。」

「佐久間くんから連絡があったの?」

「はい。」

「あそこでしょ、店員ですら一部の人間でしか入れないって所は。」

 澪さんは両開きの扉を指差してそう言った。そういえば、崇が先ほどから黙っている。

「実はね、崇ったら怖がってるの。」

 澪さんが僕の耳元で言った。澪さんの吐息が耳に当たっているのには少し興奮する。こんな所を鹿島に見られたら殺される。

 程なくして、全員が集まってきた。

「ここからは、全員で行動した方がいいな。」

 佐久間はそう言って、一人一人に懐中電灯を渡した。準備の良い奴である。

 両開きの扉を開くと、細い廊下が続いていた。

「ただのショッピングモールにこんな空間があるわけないだろ。」

 佐久間は到って冷静だ。細い廊下を暫く歩くと、地下に降りる階段があった。売場の階段とは違って急なので、懐中電灯がなかったら到底降りる事は不可能だった。

 階段は螺旋状に、そして相当地下深くまで続いていた。最後の段まで辿り着くと、すぐ目の前にはドアがあった。もはや、崇だけでなく天野までも泣きだしそうな始末。澁澤は泣くくらいならなんで来るんだと文句をつけていた。

 ドアは以外と重く、二人掛でないと開かなかった。ドアの向こうには再び細長い廊下。しかし今度はさほど長くなく、すぐに少し開けたところに出た。

「親父!」

 沈黙を破る鹿島の声。

 部屋の片隅に鹿島の父親が横たわっていた。

「大丈夫だ。眠っているだけだ。」

 佐久間が脈を確認する。

「運び出すの手伝ってくれ。」

 佐久間がそう言ったので、僕は鹿島の父親を負ぶって、ドアを再び開いた。その時、僕は違和感に気付いた。

 懐中電灯は一人一つのはずだ。僕の分を含めても懐中電灯は十二個しかないはず。なのに十三個見える。でも、数え間違いかもしれない。しかし、懐中電灯は全部同じタイプの製品だから全て同じ色のはずだ。だが、みんなは黄色い光なのに、一つだけ青白い光が見えた。青白い光の懐中電灯の主に恐る恐る自分の懐中電灯の光を当てて見ると、見慣れない男が立っていた。

「おい、てめーら。こんなとこでなにしとるんじゃ。」

 「厳つい」という言葉はこいつの為にあるんじゃないかというほど厳つい巨漢の男が立っていた。その途端、電気が点いた。周りには巨漢男以外にも五、六人の男が立っていた。とてもカタギの人間とは思えない。ウルトラマートのヤクザってこいつらのことか。この状況でも物怖じしないのが澁澤と千代田。こういうタイマン勝負も慣れているのだろう。

「俺のダチの親父に何してくれとるんや。」

 澁澤の語気が強まった。澁澤と千代田はこういう時に頼りになる。しかし、相手も去るもの。所詮相手は高校生なのだから、向こうは全然おびえる素振りを見せなかった。そして、巨漢男が澁澤の頬をグーで殴った。あまりの威力に澁澤は卒倒した。澁澤を一発で卒倒させる程の力を持つ相手に澁澤の横にいた千代田も思わず怯んだ。

 その刹那、天野が巨漢男の鳩尾に一発パンチを入れた。巨漢男の動きが一瞬止まった。その隙を突いて、千代田が蹴りを入れた。その状況を見て亮と崇が参戦しようとするのを澪さんが止めた。

 それでも、天野の攻撃は留まるところを知らなかった。

「あいつ、中学校の時空手部の主将で県大会で準優勝した実績があるらしいぞ。」

 ここで、意識を取り戻した澁澤のマメ知識。

 巨漢男の後にいた男たちも続々参戦。一人の男が森野に殴りかかった。森野は辛うじてそれを防いだものの、バランスを崩し転倒。しかし、転倒した森野にとどめを刺そうとした男が森野の膝に引っ掛かって転倒した。そこにすっかり元気になった澁澤が背中に踵落しを決めて、相手を一人ノックアウトさせた。

 亮と崇を守っていた澪さん以外は全員が参戦するという混戦状態に陥った。こちらの方が数的にも有利なので、戦局もこちら側が優位に立っていた。佐久間が、螺旋階段の上に登って言った。

「お前だけ逃げるつもりか!」

 流石にこれには腹が立った。佐久間への怒りを拳にぶつけてヤクザたちを振り払う。が、ヤクザの一人が佐久間の方へ迫りよった。佐久間は待ってましたとでも言わんばかりに、右足を振り上げ、男を階段の上から突き落とした。

「みんな上に来い!」

 佐久間は僕達にそう指示を送った。佐久間は階段の一番上の段にいるので、実際、迫り来るヤクザを全員蹴落としている。地の利を活かした巧みな戦法だと感心する。

 そうこうしている間にも、敵はあと巨漢男一人を残すのみ。巨漢男は階段を登るような真似はせず、亮と崇に向かって突進していった。それを見た澪さんが巨漢男の顔面に回し蹴りを入れた。

 皆、澪さんのファインプレーに感服した。


 一時間後には僕達は商店街に戻っていた。

「明日から学校か。」

 少し僕はいつもの日常に戻る事が嫌だった。みんなを見送って、残ったのは鹿島と僕。鹿島が嬉しそうな表情で、僕に、

「実はさっきの澪さんの回し蹴りの時、見えたんだ。」

「何を?」

「澪さんの…」

 この卑猥な男の発言は書き記すまでもないだろう。因みに柄モノではなかったらしい。

 商店街を後にした僕は、家へと帰っていった。

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