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第三話 ウルトラマート編③

 商店街にある鹿島の家は僕の家からもさほど遠くない。自転車でも五分あれば充分に着ける。商店街のアーケードの前には鹿島と月島と佐久間、そして鹿島と同じく商店街に住んでいる同じクラスの菅原が既に来ていた。

「こういうことは、警察に任せたほうがいいんじゃない?」

 月島が鹿島に尋ねた。

「うちに、ファックスでこんなのが届いた。」

 鹿島は一枚のコピー用紙をポケットから取り出した。

「カシマ ヒロシ ヲ カンキン シタ。 ケイサツ ニ イッタラ イノチ ハ ナイ。 タスケテ ホシカッタラ ジダンキン サンゼンマンエン ヲ アサッテ ヨル ジュウニジ マデ ニ シハラエ。」

 カシマヒロシ⇒鹿島博。目の前にいる鹿島勇人の父親であり、商店街の町内会長でもある。さしあたり、客を奪われた商店街の代表としてウルトラマートの店長に話をつけにいったのだろう。

「これでさ、母ちゃんは気失うし、弟は泣きだすし大変なんだよ。今は商店街の大人達が父ちゃんを捜索している。人手が足りないから、お前らに電話したんだ。」

「でもさ、連中がお前の親父を監禁しているのが、たとえ市内だとしても探すのは難しいだろ。それにもうこんな時間だし、普通に歩いてても気付かないんじゃないかな。」

 菅原がそう言った。菅原の言っている事は一理ある。

「じゃあ、親には友達の家に泊まるって言っておいて、今晩はお前の家で作戦会議だ。同じクラスの奴とかにも連絡しといた方がいいな。」

 僕達は佐久間の提案に従って、一路鹿島家に向かった。


 鹿島家は商店街で鹿島青果という八百屋を経営していて、一階は店舗、二階は住居という構造になっている。中学は違うが、高校生になってから数回彼の家を訪れたことはある。僕達は鹿島の部屋に案内された。

「狭い部屋だけど寛いでいってくれ。」

 鹿島ではなく菅原が言った。鹿島と菅原は保育園時代からの幼馴染らしい。菅原は鹿島の家の間取りをしっている態だ。

「で、誰か協力してくれそうな奴はいたか?」

「男子は殆ど来れるって。」

「女子にも電話したか?」

「お前がしろよ。」

「なんで俺がするんだよ。お前がやれよ。」

「そうだ。月島がやれ。」

「俺が?」

「そうだ。月島が相応しいと思う人、手挙げて!」

 月島以外の全員が手を挙げた。

「わかったよ、仕方ねーな。」

「じゃあ、クラスの連絡網の一番最初の青木から・・・」

「お前家に電話かけてたのか?携帯にかけるべきだろ、そこは。こんな夜遅くにわざわざ女子の家に電話するなんて、向こうの親に変な疑いかけられるぞ。」

「やべ。気付かなかった。」

 これだから月島は馬鹿なのである。

「しかもそれ俺の携帯じゃん。」

 月島は鹿島の携帯を使っていた。

「でも、女子の携帯番号なんて知らないしー。どうする?」

「そうだ、佐久間がかければいいんじゃねー?佐久間なら親の間では評判が良いだろ。もし親が出ても、文化祭での出し物について聞きたい事があるんですがー、とか言えば問題ないだろ。」

「文化祭って何ヶ月後だと思ってんだよ、お前。」

「でも、月島よりはいいかも。」

 一時間後、クラス全員に電話をかけおわった。手元の時計では十一時を少し過ぎたところだった。

「それで、鹿島の親父を探すことについてなんだが、、、」

 佐久間が話を本題に戻した。

「ニ、三人組で行動するのが一番やりやすいかな。お互いの連絡は携帯でとれるし。」

 佐久間はさっさとパソコンでこの付近の地図を印刷して、ペンで丸やら長方形やらを書き込んでいた。こういう時に頭がいい奴がいてくれるとこちらとしては大変助かる。

 作戦は二時間ほどで定まった。鹿島の部屋では、全員が寝ることはできないので、無駄話でもしながら朝を待つことにした。

「そういえば、なんで佐久間は家出したの?お前の家すげー金持ちだから全然問題とかなさそうじゃん。」

「俺も小学生くらいまでは家が金持ちだってのは少し自慢だったんだ。でも、次第にうちの親は金儲けって私欲の為にしか動いていないってことが分かってきたんだよ。そんで、俺はそういう親を見ていて、あんな風には絶対なりたくないって思ったんだ。」

「金儲けの為か。俺ん家は貧乏だから、お金に関してはすごいうるせーぞ。親父なんていつも金持ちは羨ましいとか言ってるぜ。」

「お前ん家大家族だからな。また新しく赤ちゃん生まれるんだろ。これで確か九人目だよな。」

 菅原の家は今ですら四男四女の大家族なのである。菅原はその上から二番目だったはず。

 無駄話がしているうちに夜があけて、窓から朝日が差し込んできた。

「朝か。。。」

 時計の針は六時少し前を指していた。

 遠くからバイクの音が聞こえる。その音はこちらに向かっているようだった。そして、鹿島家の前で止まった。鹿島がギシギシと軋む窓を開けると、見覚えのある二人がいた。

「澁澤と千代田!よくこんな朝早くに来れたな。」

「家を抜け出すのも慣れだ。それにウルトラマートのヤクザってのは俺を一回連れ込んでいるんだ。あいつらの居場所は知っている。」

 突然の朗報に僕らは我を忘れて喜んだ。

「喜ぶんなら鹿島の親父を助けてから喜べよ。」

 佐久間がこの場の雰囲気に水をさすような発言をした。

「向こうにはヤクザがいるんだぞ。そいつらを出し抜かなきゃいかねーだろ。」

 佐久間の言う通り。これに関しては、昨晩佐久間が立てた作戦さえ実行すればいいだろう、というか実行するしかないだろう。これで七人が揃った。話は変わるが、入学当初、澁澤や千代田には近寄らない方がいい、という印象があったが彼らも拘ってみると、案外いい奴だ。でもなぜ荒れたかということを誰に聞いても、中学時代の二人を知る奴はいない。

 それから、数時間。思ったよりも人数が集まった。

「結構集まったな。」

「日曜は暇な奴が多いんだろ。」

「じゃ、ぼちぼち行く?」

「そうだな。」

 集まったのはなんと、クラス全員。学校外でクラス全員を集められたのはある意味快挙だ。佐久間がそれぞれに指示を出し、残ったのは僕と佐久間の二人だけ。

「お前は俺に着いて来てくれねーか?ちょっとやりたいことがある。」

 全員を見届けた後、僕と佐久間だけがみんなとは逆方向、ウルトラマートの方へ向かった。

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