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第65話: アランの狙い

試験会場の控室には熱気が充満していた。モニターには挑戦者たちの姿が映し出され、それを真剣に見つめる観客たちの声が控室にまで響いてくる。その一角では、アランとギルド長が試験の進行状況について話し合っていた。

「アラン先生、試験は大盛況だな。同時視聴数も過去最高を記録しているらしいぞ。」

ギルド長は嬉しそうに笑いながら言った。

アランは控えめに微笑みを返す。「おかげさまで。企画した時は、ここまで大規模なものになるとは思いませんでしたよ。陛下と財務官殿には感謝しています。」

ギルド長は頷いた。「冒険者ライセンスをクラス分けして発行するなど、ギルドとしては長年の課題だった。こうして試験という形で行われるのは、祭りごとのようで盛り上がるし、やりがいがあるな。」

アランは一瞬躊躇したが、意を決して話し出した。「でも、本当の狙いはエンタメとは別のところにあるんですよ。」

「ほう、それは興味深いな。教えてくれ。」

ギルド長は疑問を隠さず素直に問いかけた。その真摯な態度に、アランは少し言葉を選びながら続けた。


「考えたことがありますか、数人で学ぶことの意味を。」アランは窓の外を見ながら言った。「一人ひとりの成果を上げるだけなら、それぞれに合った教材を用意して、個別授業を行えば十分です。黒板しかなかった時代ならともかく、アーティファクトの揃ったこの時代、一斉授業をする必要性は薄いように思えます。」

ギルド長は腕を組み、考え込んだ。「確かに、個別授業なら効率的かもしれん。」

アランは頷きつつも続けた。「ただ、個別授業には大きな問題があります。それは学習意欲の維持が難しいということです。努力した分だけ成果が伸びるのは当然のことですが、それが当たり前になると、多くの人は飽きてしまうのです。」

「成果が上がるのはいいことだが、努力と結果が一直線だとつまらん、ということか。」

「そうです。」アランは微笑んだ。「だからこそ、同じ時間と空間を共有し、競争や試験を行うのです。そうすることで、他人との優劣が生まれます。そして、他人との比較があるからこそ、学習に順位や目標が加わり、意欲が生まれるのです。」


ギルド長は自分の過去を思い出したように頷いた。「確かに、俺にもライバルがいた。そいつと競い合うことで、自然と腕を磨くことができたものだ。そう考えると、ライバルの存在は大事だな。」

アランはギルド長の反応を見て、内心ほっとした。だが、本当に伝えたい核心にはまだ触れられないでいた。彼は一度口を閉じ、数秒間考えた後、少し話題を変えるように切り出した。

「競争の意義は、切磋琢磨することにあります。そして、ライバルの存在が学びを深め、成長を促すのです。」

「そうだな、まったくその通りだ。」

ギルド長の賛同を得て、アランは会話を終わらせるように微笑みを浮かべた。


アランはギルド長に伝えなかったが、心の中にはさらに深い考えがあった。

ランモードの力は、すべての人に等しく与えられている。

しかし、その運用や成果には個人差が生じる。この差が重要なのだ。

個人差とは、単なる能力の違いではなく、取り組み方や工夫の結果として現れるものだ。他人と異なる方法で成果を上げる成功体験は、自分自身の可能性を広げる。それと同時に、相対的に劣る部分にも気づくことができる。

同じ環境で同じ条件下で試験を行うことの意義は、そこにある。

「身体的特徴や能力には差があるが、それが長所にも短所にもなり得る。重要なのは自分を理解し、目標達成のために正しい行動を選択することだ。そしてその行動が正しかったかどうかは、他者との比較から評価されるべきだ。」

アランはそう結論づけていた。

彼が求めたのは、試験という形で成長の場を提供することだった。競い合い、学び合う環境を創出することで、ランモードという新しい力が正しく使われ、この世界を変える原動力になることを願っていた。


ギルド長と別れ、アランは再び試験会場のモニターに目を向けた。挑戦者たちが必死に試験に挑む姿を見ながら、彼の心は静かに燃えていた。

「この試験が、皆の未来を照らすきっかけになることを願っています。」

アランは心の中でそう呟きながら、挑戦者たちの行動を見守った。


アランには少し先の未来が予測できていた。アーティファクト通信にはセキュリティの概念が足りていないこと。通信技術の発展に伴い悪用の危険性が生まれること。平和に過ごしている日々に競争が生まれ、ランモードの商品価値が認められ、商戦や時に軍事的利用が行われること。大規模データベースをランダムに走り回り近似をとることでAIが生まれることなど。

これらは転生前の世界の知識からくるきっと起こる未来。

アランは自身が転生した理由をいつからか意識するようになっていた。その時が来た時のために準備をすること。

具維持的利用試験の先に待つ未来を、アランだけが正確に想像していた。


「この世界を守りましょう。異世界のプログラミングで。」


ここまでで完とさせていただきます。

読んでいただきありがとうございました。物語を考えたのは初めてでしたが楽しかったです。夏休みほど時間が取れず後半は勢いがなくなってしまいました。また機会があればチャレンジしてみたいと思います。数百、数千と閲覧数が増えていく度に味わったことのない喜びを感じていました。本当にありがとうございました。

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