第60話: 筆記試験(前半)
筆記試験が始まった。静まり返った会場に響くのは、問題用紙をめくる音とペンを走らせる音だけだった。アランの声がまだ耳に残っているが、今は自分の力を信じて挑むしかない。前に座るユウトは緊張した様子で、手にした問題用紙を見つめていた。
「2進数か…」
ユウトの額にはじっとりと汗が滲んでいた。彼は普段、戦いにおいてはフィーリングで動くことが多く、即断即決のスタイルを得意としていたが、今回はそうはいかない。頭をフル回転させなければならない。
「2進数は基本の計算方法の一つ…確か、0と1だけで表される数値だよな。普段使っている10進数とは違って…」
彼はなんとか思い出そうとする。目の前の問題には、2進数を使った複雑な計算が出題されていた。ユウトは一瞬ため息をつき、ペンを握り直す。
「…やるしかない。」
計算式を見つめ、頭の中で次々と組み立てていく。数字を並べ替え、問題の構造を理解していく過程は、彼にとっては戦闘のアルゴリズムを組むのと似たような感覚だった。
「まず、2進数同士の足し算と引き算から…」
頭の中で問題を分解し、一つずつ処理していく。時間が経つにつれて少しずつ答えが見えてきた。
リナもまた、目の前の問題と格闘していた。彼女に課せられたのは、詠唱魔法の最適化に関するアルゴリズムの問題だ。
「データベースの活用…詠唱の効率化か…」
リナは普段から詠唱のデータベースを使って魔法を使ってきたが、今回の問題はその応用が求められていた。制限時間内に、いかに効率的に魔法を発動させるか。それが今回の試験の鍵だった。
「詠唱をどう最適化するか…詠唱のスタックが重要だってことはわかるけど、もっと早く発動させる方法は…?」
彼女はペンを握り、詠唱の順序やタイミングを考えながら、何度もデータベースの構造を頭の中でシミュレーションした。SQLの文法を駆使して、効率の良いデータベースクエリを構築することが必要だった。
「どこかに無駄なプロセスがあるはず…スタックの順番を見直すとか、条件分岐を削減できないか…」
リナの目は真剣そのものだった。彼女は過去の戦いで得た経験を生かし、効率的に詠唱を最適化するためのアルゴリズムを試行錯誤していった。
レオンもまた、自分の課題と向き合っていた。目の前の問題は、複数のルートを探索し、最も効率的なルートを導き出すというものだった。彼にとっては、迷宮探索のようなものであり、実際に過去に取り組んできた内容と似ていた。
「深く探索するか、それとも幅広く探索するか…」
レオンは悩んでいた。目の前に広がるグラフ構造は複雑で、どこから手をつけるべきかが重要だった。もし、間違ったルートを選べば無駄な時間を浪費することになる。
「この迷宮みたいなグラフ構造をどう解くか…」
彼はまず深く探索する方法を考えた。迷宮のように、一つの道を突き進んでいく方法だ。しかし、それでは広いフィールドを見逃してしまう危険があった。
「いや…幅広く探索するべきか?」
幅広く探索する方法は、時間がかかるが、すべての選択肢を網羅できる。しかし、迷宮のような複雑な構造では、無駄なルートに惑わされてしまう可能性があった。
「ここで判断を誤るとタイムロスだ…」
レオンは迷いながらも、手元の紙にいくつかのルートを描き、次々に検討していく。戦場での冷静さを保ちながら、彼は最適な解を見つけ出すためのアルゴリズムを考え続けていた。
そして、会場の片隅にはブレイク王子の姿があった。彼は無限ループに関する問題に取り組んでいた。あの忌まわしい記憶が脳裏をよぎる。無限ループに囚われていたあの日々、自分の身体が自分の意思に反して動き続ける恐怖。今回の試験で彼に課せられた問題は、そのトラウマをまさに克服しなければならないものだった。
「また…無限ループか…」
彼は問題をじっと見つめる。自分のループから抜け出すための方法を見つけなければならない。手元のペンが震え、紙に描いた図形が一瞬ぼやける。
「今度こそ…ループを断ち切らなければ…」
ブレイク王子は、冷静に頭の中で条件分岐やループの構造を分析する。そして、自分自身に向き合い、過去のトラウマを乗り越えるための一手を考え出していく。
会場内の緊張感は高まる。試験はただの知識だけではない、個々の成長と戦いだった。アランは静かに、彼ら一人一人の姿を見守っていた。




