第57話: アルゴリズムの実験
「じゃあ、まずはレオンの提案から試してみようか。」アランがそう言って、手元にあるドローンのコントローラーを操作した。ドローンは滑らかに動き、迷宮の入り口に差しかかる。静かな森の奥に広がるダンジョンの迷宮は、入り組んだ通路と数多くの分岐点が特徴だ。
レオンは慎重に地図を見ながら言った。「俺の考えは、目的地までの最短経路を一気に探索するんじゃなくて、どんどん深く進んでいくっていうやり方なんだ。最初に目的地にたどり着けるかもしれないし、ダメなら引き返して別のルートを探す。」
「なるほど、まずはゴールまで行けるルートを見つけて、それが駄目なら戻るってことか。」フィンがうなずきながら理解を示す。
レオンの案は、基本的には迷宮の奥深くまで進んでいき、行き止まりやゴールにたどり着くまで道を探し続ける手法だ。しかし、この方法にはリスクもある。行き止まりが続く場合、時間を無駄にすることになるからだ。
「じゃあ、レオン。君の方法を実行してみるよ。」アランはコントローラーを操作し、ドローンを迷宮の奥へと進ませた。
ドローンは静かに迷宮内を進み始める。最初は順調だったが、数分経ったところで、レオンが気づいた。「あれ?この道…行き止まりだ。」
迷宮内には複数の分岐があり、どちらに進むべきかの判断が求められる。ドローンは行き止まりに直面すると、引き返して別の道を探し始めたが、その作業にかなりの時間がかかっていた。
「レオンの案は、うまく行けば一気にゴールできるけど、行き止まりに当たると戻る時間がかかるのが問題だね。」アランが言うと、レオンは腕を組んで苦笑した。「そうなんだよ。深く潜り込む分、戻るのに時間を取られる。」
「つまり、迷宮がもっとシンプルならいいんだけど、このダンジョンみたいに複雑だと…効率が悪くなっちゃうかもな。」フィンが納得した様子でコメントをした。
レオンの案は行き止まりや無駄な道に引っかかり、短時間での探索は難しいことが明らかになった。次に、フィンの提案を試すことになった。
「さて、今度はフィンの番だ。」アランがドローンをリセットし、再びスタート地点に戻した。
フィンは手を振って準備を整えた。「俺の案は、幅広く進むっていう方法さ。一気に全ての道を探索して、行ける場所を確認してから進む。行き止まりとかに突っ込む前に、安全な道が分かるから、無駄を減らせるんじゃないかな。」
フィンの案は、分岐点が現れるたびにすべての方向に分散して進むというものだ。幅広く情報を収集しながら進めば、行き止まりに突き当たる前に選択肢を把握できるという考え方だ。
「それじゃあ、フィンの案でやってみよう。」アランが再びドローンを操作し、迷宮内のすべての分岐点で情報を収集するように設定する。
ドローンは今度は慎重に、迷宮の複数の道に同時に探索を進めた。しかし、時間が経つと、問題が浮かび上がってきた。探索範囲が広がると、すべての道をチェックするために膨大な時間がかかることが判明したのだ。
「ふむ…。これだと、全ての分岐点での探索に時間がかかりすぎる。」アランが眉をひそめる。
「たしかに…安全に進めるかもしれないけど、時間効率が悪すぎるな。」フィンもその結果に不満そうだった。
「このダンジョンは、見かけよりも広いからね。分岐点が多すぎて、一気に全部を探索してたら、終わりが見えない。」アランは迷宮の全体図を見ながら考え込んだ。
レオンとフィンはお互いの案が持つ長所と短所を確認し合った。レオンの案は早いが、行き止まりに当たると時間を大きくロスする。一方で、フィンの案は安全だが、探索に時間がかかりすぎる。
「つまり、俺たちの案はどっちも完璧じゃないってことだな。」フィンが苦笑しながら言うと、レオンもうなずいた。「そうだな。もう少し何か工夫が必要そうだ。」
「このままだと…どっちの方法も、迷宮の全ての構造を把握する前に時間切れになるかもね。」アランがそう指摘すると、2人は悩んだ表情を見せた。
「俺たちの方法だと、迷宮の複雑さには対応しきれない。もっと最適な道を探す方法がないかな…」レオンは悔しそうに地図を見つめた。
「たしかに…。これじゃ時間がかかりすぎるし、モンスターもいるから余裕がない。」フィンも頭を抱えた。
「実際に冒険者が最短経路を見つけるためには「経験」も必要といわれているよね。」と、今日も元気にダンジョンに挑戦するユウトとマックスを思いながらレオンが言う。
「経験か。データべースにするためにはダンジョンが数千、数万と必要になるし現実的ではないかな。でもそのルートを評価することで経験に代わる要素を加えることができるよ。」アランの言葉に2人は顔を上げた。




