第49話: ダンジョン開発プロジェクトの要件定義
ギルドマスターの部屋は、冒険者ギルドの雰囲気を象徴するかのように豪華で力強さを感じさせる内装が施されていた。壁には過去に討伐されたモンスターの頭蓋骨が飾られ、燻んだ木製の家具が並ぶ。アランとカルロスが部屋に入ると、ギルドマスターはすでに大きなデスクの後ろに座り、彼らを待っていた。
「さぁ、話を聞こうか」とギルドマスターは重々しい声で言った。「ダンジョン開発において、私の要望を聞きたいと言っていたな。」
アランは深く頷き、メモ帳を取り出して準備を整えた。「はい、冒険者ギルドが求めるダンジョンの仕様について、詳しくお聞かせいただきたいと思います。特に、どのような要件が必要か、どのような機能があれば良いかをお伺いしたいです。」
ギルドマスターは少し考え込むように顎に手をやり、そして鋭い目でアランとカルロスを見つめた。「まず第一に、我々が求めるのは経験値が効率的に得られる環境だ。冒険者たちが早く成長できるよう、モンスターは大量に出現するべきだ。それも、手加減なしでな。」
「モンスターの大量出現ですね」とアランがメモを取りながら確認する。「モンスターの種類や出現場所についても指定があるのでしょうか?」
「種類については特に限定しないが、冒険者たちのレベルに応じて強さが変わるようにしてほしい。簡単に倒せるモンスターでは意味がない。戦いが厳しいほど、冒険者たちは早く強くなるからな。さらに、やられるような軟弱者に冒険者など務まらん。訓練の一環だと思ってくれ。」
カルロスは少し眉をひそめた。「しかし、あまりにも過酷な環境を作ると、冒険者の命に関わる危険性が高くなります。国としてもそれは避けたいところです。」
ギルドマスターはふんっと鼻で笑った。「自らの意思で望んで挑んでいるのだから、それが運命だ。主体的に取り組むとはそういうことではないのか? 失敗を恐れていては何も得られん。冒険者ギルドとしては、リスクを承知の上で、あえて挑戦する者たちを育てたいのだ。」
アランはカルロスに目をやり、彼の不安げな表情を見て、うなずいた。彼は慎重に言葉を選びながら、要件を再確認した。「モンスターの強さと出現頻度を調整しつつ、冒険者の成長を促すダンジョンということですね。ですが、命の危険性を最小限に抑えるための仕組みも考慮する必要があります。」
「例えば、危険な区域には避難ポイントや回復エリアを設置し、冒険者が無理をせず撤退できるようにすることが考えられます」とカルロスが提案した。
「ふむ、それならばよかろう」とギルドマスターは納得したように頷いた。「だが、私たちは冒険者の実力を引き出すようなダンジョンを求めている。適度な緊張感がなければ意味がない。」
アランは再びメモを見直し、ギルドマスターに確認を求めた。「では、モンスターの強さや出現頻度は高めに設定しつつ、安全対策も講じるという形でよろしいでしょうか?」
ギルドマスターは深くうなずいた。「そうだ。それで頼む。冒険者たちがこのダンジョンで真の力を引き出せるように、最高の訓練場を作ってくれ。」
「承知しました。具体的な設計については、後日またお伺いさせていただきます。」アランはギルドマスターに礼を言い、カルロスと共にギルドを後にした。
ギルドを出た後、アランとカルロスは街のカフェに立ち寄り、今日の打ち合わせを振り返りながら要件定義について話し合った。テーブルに広げられたメモや設計図を見ながら、2人は議論を重ねる。
アランは「もう一つ、安全性を確保するために導入できる方法があるかもしれない」と口を開いた。
「例えば、冒険者に『回復お守り』を持たせるというのはどうだろう?お守りを使うことで、冒険者はダンジョン内で回復できるが、回復回数には限りがある。そして、そのお守りは有料で提供することにするんだ。」
カルロスは興味深そうにアランを見た。「つまり、回復お守りを使い切ってしまうと、冒険者のギルドポイントから支払われる仕組みか。これは、冒険者にとって、回復の使用に対する慎重な判断を求めることになるな。」
「そうなんだ。回復を必要とする場面では、冒険者は緊張感を持って戦わなければならない。お守りが残っているからといって無駄遣いすることなく、慎重にダンジョンを進むことを促す効果が期待できる。」
カルロスは深く頷いた。「それなら、ギルドとしても冒険者の安全を確保しつつ、彼らに緊張感を持ってダンジョンに挑戦させることができる。回復お守りがあることで、難易度の高いダンジョンでも冒険者が挑戦しやすくなるだろう。」
「そして、回復お守りが有料であることで、冒険者にとっても経済的なリスクが生じる。ギルドポイントが減ることを避けたいと思うからこそ、冒険者たちは慎重に行動するだろう」とアランが付け加えた。
「これなら、ギルドマスターが求める緊張感を持続させつつ、安全性を確保するバランスが取れる」とカルロスは満足そうに言った。
「しかし、ギルドマスターの要望はかなり高い水準ですね」とカルロスが言った。「でも、彼らの要望に応えるには、まずはシステム全体の設計をしっかりと固める必要があります。」
アランは頷き、「そうだね。まずは冒険者の安全を確保するために、どのようなシステムを組み込むかを明確にしないといけない。それに、モンスターの出現頻度や強さをリアルタイムで調整できる仕組みも必要だ。」
カルロスは深く考え込みながら続けた。「それに加えて、システムが予期せぬ状況に対して柔軟に対応できるように設計する必要がある。例えば、モンスターの出現場所や数を動的に変更できる機能を持たせるとか。」
「そうだね、それに対応するためのセンサーやデータ収集システムも必要だ」とアランが付け加えた。「センサーがダンジョン内の状況をリアルタイムで監視し、冒険者の状態やモンスターの動きをデータとして収集する。そして、そのデータをもとに、システムが自動的にダンジョンの設定を調整する。」
カルロスはそのアイデアにうなずきながら、「それなら、モンスターの出現や強さのパラメータを、冒険者のレベルや体力、装備に基づいて動的に変化させることができる。ギルドマスターの要望に応えつつ、安全性も確保できる。」
「同時に、システムがデータを基に自己学習していくことで、どんどん最適化されていくのが理想だね」とアランは笑みを浮かべた。
「それにしても、システム全体の設計と実装にはかなりの時間がかかりそうだ」とカルロスが言った。
アランは真剣な表情で答えた。「だからこそ、最初の要件定義が重要なんだ。ここでしっかりとユーザーのニーズを反映し、全体のフレームを固めておかないと、後で修正が必要になる。」
2人はさらに細かい部分について話し合い、システムの要件定義を進めていった。冒険者の成長を促しつつ、安全性を確保するためのシステム設計は、今後のプロジェクトの成否を左右する重要な要素となる。




