第48話: ダンジョン開発プロジェクトの始動
王宮の広間でアランは国王と向かい合っていた。豪華な装飾が施された部屋に、緊張感が漂っている。アランがこの場にいる理由は、以前王子を無限ループから救ったことによる感謝の意を示すためだった。アランにとって、王との謁見は初めての経験であり、少なからず不安を抱えていた。
「アランよ、まずは礼を言わねばならん。息子を救ってくれてありがとう。」
国王の力強い声が広間に響く。アランは深く頭を下げ、言葉を返した。
「お言葉、恐れ入ります。ただ、私がしたのは当然のことです。」
「それでも、この国にとっては非常に大きな出来事だった。そこで、何かお前が望むものがあれば報酬として与えたいのだが、どうだ?」
国王の言葉にアランは一瞬戸惑った。欲しいものと問われても、アランは特に思い浮かばなかったのだ。彼はすでに異世界での生活に馴染んでおり、日々の教会での仕事に満足していた。しかし、何も望まないと言えば、王に対して失礼に当たるかもしれない。アランは少しの間考えた末、以前から思い描いていた計画を口にした。
「もし許されるのであれば…安全にスキルや経験値を学べる場所、ダンジョンを建設することを許可していただけないでしょうか?」
国王は目を細め、興味深そうにアランを見つめた。
「ほう、それは興味深い提案だな。いいだろう、許可しよう。しかし、工期や予算についてはどうだ?何か要望はあるか?」
アランはその質問に戸惑った。彼はあくまで提案者であり、具体的な工期や予算については考えていなかった。彼は慎重に言葉を選びながら答えた。
「工期や予算については、必要な時に申請させていただきます。ただ、私としては質の高いダンジョンを作りたいので、時間をかけてしっかりとしたものを作りたいと考えております。」
国王は笑みを浮かべて頷いた。
「よし、好きにするがよい。お前のような者には信頼を置いている。財務に関しては、こちらのカルロスに相談するといい。」
国王が視線を向けた先に、青年が立っていた。彼の名はカルロス。王国の財務を担当しているという。カルロスは目に見えて疲れ果てた様子で、体調も優れないように見えた。アランは一抹の不安を抱きながらも、彼に近づいて挨拶を交わした。
「カルロス殿、よろしくお願いします。」
カルロスは軽く頭を下げ、無表情のまま答えた。
「こちらこそ。予算や工期の話は、私に任せてください。」
後日、アランはカルロスと再び会うことになった。財務の打ち合わせを行うためだ。カルロスの執務室に足を踏み入れると、膨大な書類と計算のための道具が並べられている。カルロスは書類を見つめながら、疲れた声で話し始めた。
「アラン殿、正直に言いますと、私は一人でこれら全ての財務を管理している状態です。国王と国民の要望を調整し、予算をやりくりするのは非常に難しい。Ranモードの技術を取り入れてから、仕事の効率は上がりましたが…」
彼の言葉にアランは驚いた。カルロスは仕事の効率を上げるためにRanモードを活用していたが、その代償として自分自身に過度な負担をかけていたのだ。
「カルロス殿、少し話を聞いてもらえますか?」
アランは優しく言葉をかけ、カルロスに近づいた。
「Ranモードは確かに便利なツールです。しかし、一人で全てを抱え込むのは良くありません。スクラムという手法を知っていますか?」
カルロスはアランの言葉に耳を傾け、首をかしげた。
「スクラム…ですか?」
「はい、1人で仕事をするではなくチームで仕事をするんです。人々に教え、協力してもらうことで、チームとしての力を引き出すことができます。スクラムはチーム全員が協力してプロジェクトを進める手法です。それぞれが役割を持ち、短期間で目標を達成していくことができます。こうすることで、全体の効率がさらに向上するだけでなく、カルロス殿自身の負担も軽減されます。」
カルロスはアランの言葉に納得し、しばらく考え込んだ後、静かに頷いた。
「確かに、それは良い方法かもしれません。アラン殿、そのスクラムという手法を私に教えてください。私も財務業務に取り入れたいと思います。仕事のことで妻に苦労をかけてますし、子供との時間も作りたいです。」
アランは微笑み、彼にスクラムの基本的な考え方を教え始めた。
「スクラムでは、まずチーム全体で目標を設定し、それを達成するために必要なタスクを分割していきます。それぞれのメンバーが自分の役割を果たし、定期的に進捗を確認し合います。このサイクルを繰り返すことで、効率的にプロジェクトを進めることができるのです。」
カルロスはアランの説明を真剣に聞き、メモを取りながらうなずいた。
「これは素晴らしい手法ですね。ぜひ、私のチームにも導入してみます。」
カルロスは新たな決意を胸に、スクラムを導入する準備を進めることを決めた。彼はすぐに自分の部下たちを集め、アランから学んだことを共有した。
そして、数日後、カルロスは自分の財務チームと共に、冒険者ギルドを訪れることになった。ギルドでは、冒険者たちの初心者育成ノウハウが豊富に蓄積されており、それを参考にすることで、自分たちのチームをより強力なものにしようと考えたのだ。
ギルドの門をくぐると、冒険者たちが忙しそうに活動している光景が目に入った。カルロスはアランと共に、ギルドマスターに挨拶を済ませ、彼らのノウハウを学び始めた。ギルドマスターは快く彼らを迎え入れ、冒険者たちがどのようにチームを組んで活動しているかを詳細に説明した。
「冒険者たちは、それぞれのスキルや得意分野を活かしてチームを編成し、協力して任務を遂行しています。互いに助け合いながら、困難なダンジョンやモンスターと戦っているのです。」
ギルドマスターの話を聞きながら、カルロスは自分のチームにスクラムを導入する具体的なイメージを膨らませていった。彼はこれからの財務業務を効率化し、国全体のプロジェクトを成功させるために、アランから学んだ知識を最大限に活用することを誓った。
アランはカルロスの成長を感じ、彼に笑みを浮かべた。これから始まるダンジョン開発プロジェクトが、国にとっても、そしてカルロスにとっても、重要な一歩となることを確信していた。




