第41話: ユウト対マックス 1
「始め!」という合図とともに、ユウトとマックスの戦いが始まった。
ユウトはゴーグル型端末を装着し、未来予測の視界を頼りにマックスの動きを追っていた。これまでの戦闘で蓄積されたデータが、彼の予測精度を支えている。しかし、目の前に立つマックスは単純でありながら非常に強力なスタイルで戦う武闘家だった。
マックスの実家は農家である。生まれつきの体力を基に、日々の農作業で鍛え上げられた体を持つ。彼の攻撃はシンプルだが、その一撃には圧倒的な威力が宿っていた。Ranモードの普及によって多くの人がスキルや魔法の手軽さに頼り、基礎体力の鍛錬を怠るようになっていたが、マックスはそれを見て逆にチャンスだと感じていた。彼は他者が忘れつつある基礎体力を磨き上げることで、他者と異なる力を手に入れていた。
「Ranモードで演算を行っているのは人の脳だ。その脳には必ず限界がある。僕のようにシンプルな動きを極限まで磨けば、相手の複雑な動きを超えることができる」と、マックスは自信を持っていた。
マックスの攻撃アルゴリズムは、相手との相対的な位置を視覚的に測定し、体の中心に向かって最短距離で拳を突き出すものだった。シンプルでありながら、非常に強力で精度の高い攻撃だ。ユウトがいくら未来予測を駆使しても、その力強い一撃は分かっていても防ぎきれていない。防御スキルパリィをアルゴリズムに組み込みなんとか対処していた。
「マックス、強い…」ユウトは心の中でつぶやき、次の手を考えた。しかし、彼の未来予測はまだ十分に精度が上がっていなかった。マックスの動きはシンプルゆえに、スキルの繋がりが多様である。ユウトの位置や姿勢によって柔軟に攻撃が変化するため予測のデータが揃うまでに時間がかかるのだ。
一方のマックスは、ユウトの動きを見ながら自分の攻撃に対する反応を観察していた。彼は、ユウトがパリィで攻撃を防ぐタイミングをつかもうとしているのに気づいた。そこで、マックスは攻撃アルゴリズムに「ウェイト」を追加することを考えた。ウェイトを加えることで、相手の予測を狂わせることができるのだ。
「ここだ…」マックスはユウトのパリィを狙い、そのタイミングをずらして攻撃を仕掛ける。彼はユウトがパリィを行う瞬間を計り、その前にウェイトを入れることで、攻撃のタイミングを変化させた。
ユウトはその変化に気づいたが、実行中のアルゴリズムを止めることはできない。条件分岐を通過した後のパリイが不発に終わりマックスの拳が彼のガードを破って大きなダメージを与えた。
「くっ…!」ユウトは体勢を崩しながらも、なんとか踏みとどまった。マックスのウェイトを使った攻撃は、これまでにない精度で彼を追い詰めていた。
マックスはさらにウェイトを活用し、ユウトの予測を狂わせる戦法を繰り出し続けた。ユウトは何度も攻撃を回避しようとするが、ウェイトによってタイミングが変わった攻撃に対応しきれず、次々とダメージを受けていった。
「まだ…データが足りない…!」ユウトはゴーグルを通してマックスの動きを観察し続けた。彼の未来予測は、過去のデータに基づいており、マックスのウェイトを取り入れた新しい攻撃パターンに完全に対応できていなかった。
それでもユウトは諦めず、サンプルを集め続けていた。「マックスの動きをもっとデータとして収集すれば、きっと予測精度が上がる…」彼はそう信じて、何度も攻撃を受けながらデータ収集に努めていた。




