第36話: レオン対フィン 2
フィンは、森の静けさの中で息を整えながら、愛用の犬型アーティファクトを見つめていた。このアーティファクトは、小学校に入学したときに両親から贈られたもので、彼にとっては単なるツール以上の存在だった。
「行ってこい、ベア」
フィンはそっと指示を出すと、ベアと名付けられた犬型アーティファクトが静かに動き出した。その動きは滑らかで、森の中を音も立てずに進んでいく。ベアが出発すると、次にネズミ型アーティファクトを複数起動させ、それぞれを異なる方向に散らばらせた。
フィンは自らも身を低くし、木々の影に隠れながらアーティファクトたちの動きを慎重にモニターしていた。彼は幼少期から動物型のアーティファクトに魅了され、コレクションとして集めるだけでなく、索敵や攻撃に活用する技術を磨いてきた。特に、森のような複雑な地形では、アーティファクトたちが大いに役立つ。
「レオン…どこに隠れているんだ?」
フィンは目を細め、森の中に潜むレオンの気配を探った。索敵範囲をどんどん狭めながら、アーティファクトを使ってレオンを追い詰める作戦だ。しかし、森の中は障害物が多く、無線通信が不安定になることもあった。それでも、フィンは自信を持っていた。アーティファクトたちの自動化された索敵アルゴリズムが、レオンの居場所を突き止めると確信していたのだ。
「ベア、進行方向を維持して」
フィンは命令を追加しながら、さらにアーティファクトを使ってレオンの動きを追跡した。次第に索敵範囲が狭まり、レオンの位置が絞られていく。しかし、突然、フィンのモニターに異変が起きた。
「…ん?」
ベアの動きが不自然に遅くなり、ネズミ型アーティファクトの一つが反応を停止した。フィンは驚き、端末に目を走らせた。どうやら何かが起こっている。しかし、その原因を突き止める時間はなかった。レオンが何かを企んでいる可能性があることを、フィンは直感的に感じ取った。
「いや、そんなはずはない…ベア、進め!」
フィンは再び命令を下したが、ベアの反応は鈍くなり、続いて他のアーティファクトも次々と反応を消し始めた。フィンの胸に焦りが募り、手が震え始める。
「これは…まずい」
フィンは冷や汗を感じながら、アーティファクトの操作に集中した。無線通信のラグが原因なのか、アーティファクトのアルゴリズムに何か問題が生じているのか、判断がつかない。彼は何とか状況を立て直そうと必死になったが、事態はますます悪化していった。
「このままでは…」
フィンは、アーティファクトたちが次々と無力化されていくのを見つめながら、ついにレオンが自分のアルゴリズムを解析し、攻撃の準備を進めていることに気づいた。これまでの戦いで培ってきた経験と、彼の得意とする索敵スキルが裏目に出てしまったのだ。
「仕方ない…」
フィンは決意を固め、これ以上の損失を避けるために、自立型アーティファクトの遠隔操作に切り替えることにした。ゴーグル型アーティファクトを装着し視界いっぱいに広げた操作画面とMAPを操作する。アーティファクトの自動操縦モードを解除した上、カメラからの映像解析にもリソースを割く必要がある。
「頭がパンクしそうだ。」
フィンは自らアーティファクトたちを操作し、レオンの動きを追い詰めようとした。だが、無線通信のラグも依然として彼の行動を妨げた。木々に阻まれた通信が遅延を引き起こし、アーティファクトたちとの通信にエラーが生じる。
「まずい…!」
フィンは焦りを隠せなかった。操作に遅れが生じるたびに、レオンが近づいてくるのを感じた。しかし、彼は諦めずに操作を続けた。彼にとって、ベアや他のアーティファクトは単なるツールではなく、共に戦う仲間だった。
だが、その時、フィンの背後に微かな足音が響いた。彼はその音に気づき、瞬時にゴーグルを外し振り向いたが、すでに遅かった。
「やられた…!」
レオンの影が背後に立ち、次の瞬間、彼は鋭い攻撃を受けた。ダメージの警告が端末に表示され、フィンは自らの敗北を悟った。フィンはその一撃に総HPの35%ものダメージを受けてしまっていた。リタイヤを知らせるアラームが響き、遅れて力が抜けていくのを感じた。
「…負けたか」
フィンは地面に膝をつき、静かに息を整えた。敗北の悔しさが彼を襲ったが、その一方で、今の戦闘をふりかえり、自分の限界とレオンとの差について考察を始めていた。




