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第35話: レオン対フィン 1


試合開始と同時に互いに身を隠した広大な森の中、レオンは立ち止まり、息を整えながら辺りを見渡した。風が木々の葉を揺らし、微かに耳をくすぐるような音を立てる。深い緑に包まれたこの場所は、彼にとって戦いの舞台であり、同時に思考を深める静かな避難所でもあった。


レオンの手には索敵アーティファクトが握られており、彼の周囲に潜む敵の気配を探っていた。だが、彼の心は今、過去の訓練の一場面に囚われていた。



「ウェイトの設定時間は5秒…それなのに、処理が終わるまでに6秒かかっている…」


レオンはその時の違和感を思い出し、再び頭の中で整理し始めた。ウェイト命令を実行した際に生じた遅延は、単なるプログラムミスや勘違いではなかった。それは、人間の脳が命令を処理する速度に限界があることを示していたのだ。


「Ranモードも元々はスキル。演算は人間の脳が行なっている。命令の実行には時間がかかるんだ…」


彼はその現実を理解し、それにどう対処すべきかを考え始めた。命令を高速で処理できなければ、戦場での生存率は下がる。敵の動きを予測し、対応するためには、命令の処理時間を短縮し、応答待機時間を削減する必要があった。


レオンは、まずはセンサの機能をシンプルにした。オンとオフだけの機能。電気を流すか止めるだけで状況を推測するために必要な最低限の機能。釣り糸を軸にした従来よりも細い配線で有線接続することで応答待機時間に改善が見られ、体への負担となる消費魔力と脳への負担となる通信量が劇的に減った。


次に、索敵アーティファクトを再起動し、現在の通信状態を確認した。彼の計算によれば、無線通信のラグは確実に存在する。それを最小限に抑える方法を探っていた。


「どうすれば…どうすれば応答待機時間を短縮できる…?」


レオンは悩みながらも、ふと、過去の経験からある考えにたどり着いた。彼は以前、補助記憶アーティファクトを使用してデータの処理を行った際、ローカルでの処理がクラウドよりも速いことに気づいたのだ。森のような障害物が多い環境では、無線通信は特に不安定になる。それならば、クラウドベースのデータ処理を極力避け、ローカルでの処理を優先するべきではないか?


「有線では補助記憶アーティファクトを持ち歩く必要がある…」


レオンは補助記憶アーティファクトを腰に下げ、索敵アーティファクトからのデータを補助記憶アーティファクトに有線接続しローカルでの処理を開始した。これにより、応答待機時間が劇的に短縮され、リアルタイムでの索敵と判断が高速になった。


「これなら…。脳への負荷が軽減され、他のタスクに割り当てられるリソースに余裕が生まれる。解像度の高いマップ出力とプロット情報からの解析・予測に割り振れる。」


レオンは、今までの戦いでの経験と知識を総動員し、自分の戦術をさらに進化させた。彼の脳が限界に達する前に、補助記憶アーティファクトを介してデータを処理し、次の行動を決定する。このシステムは、彼にとって新たな武器となった。


森の中は、静かでありながらも不気味な気配が漂っていた。フィンの存在を感じつつも、その正確な位置はまだ把握できていなかった。しかし、レオンには確信があった。この戦いで、フィンを追い詰めるための準備は整っていると。


「そろそろデータベースにサンプルも集まったかな。全体の状況把握からマップを生成しよう…」


レオンは再び索敵アーティファクトを操作し、周囲の状況をモニタリングし始めた。森の中には無数の木々が立ち並び、フィンがどこに潜んでいるのかを探るのは容易ではなかった。しかし、補助記憶アーティファクトによる迅速なデータ処理が、レオンの視界をクリアにしていった。


「フィンはどこにいる…?」


レオンは、索敵アーティファクトが示す情報に目を凝らしながら、森全体に広げた索敵範囲を少しずつ狭めていく。彼は焦らず、じっくりと森の中を探索し、フィンの気配を探り続けた。


「この感じだと…彼はアーティファクトを大量に使って索敵しているのか?」


レオンは、ふとその可能性を考えた。フィンの戦術は、動物型アーティファクトを利用して、広範囲に渡る索敵を行うことだ。それが彼の強みであり、今回の戦いでもその戦術が活かされているはずだ。


「でも、フィン…君はそこに落とし穴があることに気づいているか…?」


レオンは、相手が自動化されたアーティファクトに依存している可能性を感じ取り、思案する。自動化されたシステムは、非常に効率的だが、同時にパターン化されやすく、予測が可能だ。レオンは、自らのアルゴリズムを駆使して、フィンのアーティファクトの動きを解析しようと決心した。


「データベースから自立行動しているアーティファクト毎のデータを抽出し個別にテーブルを作成。解析…」


レオンは補助記憶アーティファクトに蓄積したデータベースから、複数のテーブル作成する。アーティファクトAのデータからは時間と走行距離の関係から素早い行動ができるアーティファクトであることがわかる。同じパターンをアーティファクトCとFとG…。複数該当するため同機種であると予想。高さを変えた複数の赤外線アーティファクトの反応から小さいサイズのアーティファクトのようだ。


「これはマウス型かな?」


彼の目的は、フィンのアルゴリズムを解析し、そのパターンを把握することにあった。これにより、フィンの行動を先読みし、適切なタイミングで攻撃を仕掛けることができるはずだ。


「この大型は攻撃力を持っていそうだな。」


レオンは自信を持ってデータを解析し始めた。フィンの動きが少しずつ読めるようになり、彼の索敵範囲が狭まっていく様子を感じ取った。森の中での戦いは、彼にとっても未知の領域だったが、冷静さを保ちながら、自分の戦術が正しいことを確信していた。


「さあ、フィン…君の動きが見えてきたぞ…」


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