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STAX少女は何を聴いてらして?  作者: END
第1楽章:前奏曲
5/7

かくれんぼが御上手ですこと



「どうしようかなぁ……」



翌日の、昼休み。

僕は何も塗っていない食パンをモソモソとみながら、頭を悩ませていた。


原因は、机の上の置いてある無記載の入部希望届け。


あの後、鬼の形相で追い掛けて来た女の子から逃げるように下校したため、結局【帰宅RTA部】以外の部活動見学には行けなかったのだから、無記載なのは当然と言えば当然だろう。


(とは言え……)


チラリと委員長に目を向けてみると、担任の手伝いで教室から出て行く姿が目についた。



「ちょっとぉ、根暗くぅんウチの事すっごい見てくるんだけどぉ。ウチって罪な女ぁ」


「きっと見蕩みとれてたんでしょ〜?ほら、泡姫ありえるってば、ちょ〜可愛いも〜ん」


「ガン見で草www」



(勘違いしてんじゃねぇよ、クソビッチ共がッ!お前らを見るくらいなら24時間砂嵐のテレビを観てた方がマシだわッ!!)


……なんて声に出して言える訳もなく、こっちに向かって「ごめぇん、無理ぃ」なんてのたまうビッチ達をチベットスナギツネのような目で一瞥いちべつし、頭を振る。


(先生は別にいいとして、委員長には迷惑かけたく無いよなぁ。みんなのためにいつも頑張ってくれてるし……この学校って部活動に入らなかったらペナルティとかあるのかな?)


「はぁ……」



と、何度目かわからないため息をついた、そのときだった。



「失礼致しますわ!」



──代わり映えのしない日常をぶっ壊す、声が響いた。







彼女の姿を視界に収めた瞬間、僕は反射的に、顔を隠すように机にせていた。


見覚えのありすぎる女の子が、そこにたたずんでいたからだ。


肩ほどで揃えた、絹糸きぬいとのようなつやのある黒髪。

黒水晶くろすいしょうのような大きな瞳。

白磁器はくじきのような美しい肌。

チェリーのようなうるおいのある小さなくちびる

スラリとした、スレンダーな体躯たいく


誰もが目を奪われるほど美しい。

そんな女子生徒の登場に、たちまちザワつくクラスメイト達。



「ちょっ……めっちゃ美人ちゃんなんだけどぉ」


「あの子って〜、噂のお嬢様じゃな〜い?ほら、頭の良い人達が集まる特進クラスの〜」


「私達と月とスッポンで草www」



そんなクラスメイト達の注目を一身に浴びながら、彼女は不敵な笑みをたたえたままグルリと教室を見渡すと、歌うように言葉をつむいだ。



「こちらに、古倉匠人という男子生徒はいらっしゃいまして?わたくし、その方に用がありますの」


「ひぇっ」



慌て口を塞ぎ、目をせる。

死刑執行人が、罪人《僕》を捕らえに来たんだ。

……罪状は皆目かいもく見当もつかないけど。


彼女のその問い掛けに、クラスメイト達にザワめきが更に大きくなった。



「コクラタクト……って誰だ?」


「そんな奴、ウチのクラスにいたっけ?」


「いたような、いないような……」


「委員長なら……あ、お手伝い中でいないのか」



……悲しいかな、僕はクラスメイト達に認知されていなかったらしい。


しかし、今は悲観せず、ポジティブに捉えよう。

誰も僕の事を認知していないなら、このまま黙っていればやり過ごせるはずだ。


だって、僕の名前を唯一知っていそうな委員長は今、教室にいないのだから。



「あら、古倉匠人はいらっしゃらないの?……仕方ありませんわね、今日のところは出直しますわ」


(駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ……だが)


クルリときびすを返した彼女を見て、耐えきれずにニタァと笑う


そんな油断がいけなかったのだろう。

ザワめきが収まらない教室の中で、()の声は、とても良く通った。



「なははははっ!()()()くん見て見て!売店のおばちゃんからこんなに菓子パン貰っちゃったんだけど!()()()くんにもおすそわけしてあげるねぇ!」



──ギュルンと、みんなの視線が僕に集まった。


僕の机のそばには、今しがた売店から帰還したであろう、両手いっぱいに菓子パンを抱えた夏君が立っていて。


そう言えば夏君も僕の名前を知っていたなぁ、なんて苦笑い。


半ば諦めの面持ちで、彼女へと視線を移すと。



「そんなところにいらしたのですね。ずいぶんとかくれんぼが御上手ですこと」



彼女はその美しい顔を、ニヤリと歪めた。



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