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STAX少女は何を聴いてらして?  作者: END
第1楽章:前奏曲
3/7

交響曲第5番



「おはよう、お前ら。ほら、さっさと席につけ。SHR(ショートホームルーム)始めるぞ」



イヤホン越しに聞こえてきた担任の声に顔を上げると、まばらだった教室はすでにクラスメイトで溢れていた。


どうやらだいぶ時間が経っていたらしい。



「よし、じゃあ出欠とるぞ。相沢、相澤、會澤、藍沢──……」



気だるげな声で出欠確認をする担任を尻目に、いそいそとイヤホンを外してMDウォークマンをバッグに仕舞っていると、ふと1枚のMDディスクが目についた。


表題はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの【交響曲第5番】。



(()()……ねぇ)


──小・中学校と友達はおらず、高校デビューにも失敗した僕には、学校という場所は苦痛でしか無い場所ところだ。


それでも、僕はきっと、今もまだ。

僕のようなクラシック音楽を愛して止まない人との【新たな出会い】というものに、心のどこかで期待しているのかも知れない。







「よーし、お前ら全員揃ってるな。今日は連絡事項も無いから、さっさと帰れ。解散!」



時間は飛んで、今は放課後のSHR(ショートホームルーム)


『合コン♪合コン♪』と口ずさみながら、年甲斐としがいも無くスキップで教室を出ていった担任の背中を見送って、僕はいつものように安物のイヤホンを耳に詰めると、そそくさと帰り支度を始めていた。



「ねえ、古倉君。ちょっといいかな?」



ビクリッと肩がハネ上がる。


……断じてやましい事をしたわけでは無い。

ただ、夏君以外のクラスメイトに久々に声を掛けられ、ビックリしてしまっただけである。



「え、と……委員長、どうしたの?」



声のしたほうに顔を向けると、そこに立っていたのはクラス委員長である御手洗みたらい満子(みつこ)さん。


腰まで垂れた三つ編みお下げと、大きな丸眼鏡。

化粧っ気の無い色白い顔に、薄く散った雀卵斑そばかす


規定のブレザーをピシッと着こなすその姿は、今どき珍しい文学少女のような出で立ちであるものの、入学早々うわついているクラスメイト達をまとめ上げ、それでいて僕のようなボッチにすら配慮を欠かさず、満場一致でクラス委員長に推挙すいきょされた女の子である。


なお、苗字や名前で呼ばれるのを嫌がるので、みんな委員長または花ちゃんと呼んでいる。


そんな彼女が今、困ったように眉を八の字にして僕と相対そうたいしていた。



「あのね、ウチのクラスでまだ入部希望届けを提出していないのは古倉君だけなの。もう提出期限ギリギリだから担任の根鳥ねとり先生にも『古倉に今週中に提出するように伝えてくれー』って言われちゃって。だから今週中に部活を決めて、私に入部希望届けを提出して欲しいのだけど……」


「そう、なんだ。うん、わかった。今週中には必ず出すよ」



どうやら、僕のせいで委員長に迷惑を掛けてしまったようである。


要件を伝えて遠ざかる委員長の背中を見つめ、僕は無意識にため息をついていた。


妙音高校は【青春を謳歌せよ】の校訓のもと、全校生徒が何かしらの部活動に所属している。


それは、全校生徒部活動推奨(強制)などという面倒臭い制度があるからだ。


とはいえ、活動報告さえしていれば幽霊部員になっても黙認されているのが実情だと、夏くんは言っていた。




閑話休題それはさておき


はてさて、今日まで『バイトで忙しい』という言い訳を免罪符えんざいふにして入部希望届けの提出を先延ばしにしてきた訳だけど、今週中という期限がある以上、出さない訳にはいかないだろう。


入部希望届けに適当な部活名を記載して提出する手もあるが……後々(のちのち)面倒事が発生するのは宜しくない。



「はあ……しゃーない」



チラリと時計を見てみると、さいわいバイトまでは少し時間があるので、部活動見学を兼ねて別棟へと足を進めるのだった。



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