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記憶
お楽しみ頂けたら幸いです
ただ、瞼を閉じるだけ。
それだけで、今もありありと思い出す。
靴箱型の広大な会場を。
見上げるほど高い天井に、煌びやかに灯る照明器具を。
等間隔で並んだホール椅子に御行儀良く座る、ドレスコードで着飾った紳士淑女を。
コロンと香水をごっちゃにしたような甘ったるい臭いを。
咳一つ、ましてや唾を飲み込む音ですら憚られるような、あの静寂を。
そして、指揮者が指揮棒を揮うたび、舞うように音をつむぐ奏者達の姿を。
あの美しい音色を形成する全てを。
視覚で、嗅覚で、聴覚で、触覚で。
細胞レベルで覚えている。
あの日から僕は、クラシック音楽の虜になった。
応援宜しくお願い致します