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第3話 ドキドキ映画館

食事を終えた私たちは、映画館へとやってきた。

初上映ということもあり、館内は人でごった返していた。

聞いたところによると、今日は映画監督である天海龍てんかいりゅうと主演女優である水島久美子みずしまくみこが舞台挨拶をするとのことで、人でいっぱいになるのも無理ないことであった。

とはいえ広い映画館内、満員電車のように人が押し合うような状況ではないのが幸いであった。


「そう言えば今日の映画って、どういう作品なの?」


「『愛ゆえに人は苦しまねばならぬ……のか?』っていう恋愛映画よ。頂点を目指すボクサーがボクシングと恋人の間で揺れ動く様子を描いた作品みたいね」


「ふ、ふぅん……」


恋愛映画と聞いて、思わず悠李とイチャイチャする場面を想像してしまい、慌てて無関心な風を装う。

その様子を見て、悠李が俯き加減の私の顔を覗き込んできた。


「恋愛映画は、嫌い?」


「あ、いや、そうじゃなくて……」


覗き込んできた彼女の顔にドキッとして、思わず後ずさりながら否定する。


「あ、ふふーん。もしかして、誰かとイチャイチャしている場面でも想像してたんでしょう? 玲奈、今メチャクチャ女の子の顔してるよ」


「そんな……。はい、してました……」


にやけた顔で悠李が聞いてくる。

一方の私は想像してた相手に指摘されたことで、心臓が飛び出そうになるほど早鐘を打っていた。


「ふうん、へえ。誰なんだろうね? 玲奈の想い人って。羨ましいなあ」


私が誰かを想っていることに対して羨ましいと言われたことで、悠李のことを想っていたと言いそうになってしまい、慌てて口を閉じる。


「ま、まあ、誰でもいいでしょ。そんなことより、そろそろ映画が始まる時間じゃない?」


そうして、私たちは指定された席に座って映画が始まるのを待つ。

今回は舞台挨拶があるということで、上映の10分前から舞台挨拶が始まった。


舞台挨拶は映画監督と主演女優がそれぞれ自己紹介したあと、作品に対する思いや見どころ、苦労したところなどを対話形式で進められた。

そして、最後に二人同時に「それでは、楽しんで観ていってください」と言って終わった。


映画の本編は主人公が全てを犠牲にすることを覚悟しながら、不退転の決意でボクシングの頂点を目指すという話だが、その裏に恋人の存在があった。

しかし、主人公は過去に愛する人をNTRによって失うという苦しみを背負っており、恋人のことを信じ切れていなかった。


そのことを知りながらも主人公を支えようとする恋人に愛の温もりを思い出し、ボクシング界の頂点となる。

そして最後の試合で「我が愛に一片の曇りなし!」と右腕を天高く突き上げながら叫ぶシーンで幕を閉じるというものであった。


「意外と面白かったな……」


恋愛映画だから、もっとドロドロしているものを想像していたが、思ったよりまともだったことに驚いていた。

そんな私の想像を表情を見て察したのか、悠李がからかうように言う。


「そうだねぇ。でも、玲奈が思っているようなのは恋愛映画じゃなくてポルノ映画だよ。うふふ」


「えっ?! あっ……」


私は、自分がそういった想像をしていたことに恥ずかしくなって、顔が赤くなるのが自分でもわかってしまった。


そして、上映後の舞台挨拶のために主演女優である水島が舞台に上がる。


「大変申し訳ありません。天海の方は急遽、都合が悪くなりまして、舞台挨拶の方は私だけで行わせていただきます」


そう言って、深々とお辞儀をする。


「今回、映画化にあたりまして、なんと、原作のイラストを担当いただいたコロッコロ先生に、特大オリジナルイラストを提供いただいております! それでは、こちらご覧ください!」


そう言って背後を指し示すと同時に、スクリーンが上がる。


そこには、作品の最後に主人公が右腕を上げたシーンが描かれていて、その手前には、同じように右手を上に上げたポーズを取った天海が全身にワイヤーが絡んだ状態でぶら下がっていた。


「きゃあああああ!」


天海の遺体を目の前にしていた水島が悲鳴を上げる。

その悲鳴で異常事態を察した観客が騒然とし、すぐにスクリーンが下ろされた。


「大変申し訳ございません。先ほどの件につきまして、ただいま警察に連絡を取っております。お客様方におかれましては、今しばらく席でお待ちくださいますようお願いいたします。なお、お手洗い等に行かれる方は、近くの係員までお声がけください」


それと同時に放送が流れる。

しばらくすると警察が到着したらしく、多数の警察官を引き連れた九十九川刑事が入ってきた。


前の方の席に座っていた私は彼と目が合う。


「ああっ! あの時の冤罪刑事!」


「あああ?! お前はあの時の!」


「冤罪とか勘弁なんで! 今度はちゃんと捜査してくださいよ!」


「わわっ、バカヤロウ! 声が大きい! おい、お前、そいつを控室に連れて行ってやれ! くれぐれも丁重にな!」


彼は私を隔離しようと、近くにいた警察官に命令した。

話の内容からして乱暴なことをするつもりはないらしかったので、私は悠李さんと共に警察官に案内され、控室へと向かった。


控室に着くと、警察官は苦笑いを浮かべながらお茶をいれてくれた。


「すみませんねぇ。警部、あの後、冤罪のことでこってり上司に絞られましてね。今度やらかすとボーナスカットだと言われているので、こうして別室に隔離させていたわけです。かといって、あなた方を乱暴に扱うと、それだけで『やらかし』になっちゃいますからね」


そんなことをお茶を頂きながら話していると、勢いよく扉が開いて九十九川警部が入ってきた。


「おいいいい、さっきは何言ってくれちゃってるの?! おかげでいろんな人から白い目で見られたじゃないか!」


入ってくるなり、イケメンが形無しの怒った顔で私に詰め寄ってきた。


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