表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

第2話 初めての女の子

翌朝、僕が少し遅い時間に目を覚ますと、布団の近くに女性用の下着が置かれていた。

ブラジャーは昨日付けてきたフック式のではなく、スポーツブラと呼ばれるシャツのように着るだけで済むタイプのものだった。


用意された下着を付けると、いつものようにTシャツとジャケット、それからジーンズを履いた。

ユニセックスであるTシャツは問題なかったが、元々男性用のジャケットとジーンズは体つきの変わった僕には少々窮屈であったが、何とか着ることができた。

女の子の体になってから時間があまり経っていないせいか、胸が大きくなかったのが不幸中の幸いだった。


着替え終わったので食事でも取ろうと部屋を出ると、食卓の上に簡単な食事が用意されていて、ラップが掛けられていた。

また、食事の近くに書き置きと1万円札が1枚置かれていて、書き置きにはこんなことが書かれていた。


『まだ研究が終わっていないので、研究室に行ってきます。食事をしたら、服を買ってきてください。少ないですが、お金を置いておきます。』


ささっと食事を終えた僕は、身だしなみを整えるために洗面所へと向かう。


鏡に映った僕を見ると、男だった頃の面影は若干残っていて少し幼く見えるものの、どこから見ても完全な女の子であった。

しかも、贔屓目になるかもしれないが、控えめに言ってもかわいかった。

自分が男だったら彼女にしたいと思ったのだろうけど、今の僕は女の子だし、そもそも目の前に映っているのは自分である。


その後は、少しお楽しみを兼ねた綿密なボディチェックを行った。

叔父は幸いにも出かけていたので、多少大声が出てしまったが何の問題もなかった。こうして、少しの無駄な時間を費やした上で疲労感を残しながら、僕は買い物に出かけることにした。


比較的安価に揃う店に行き、1万円をほとんど使いきる形で衣服を一式購入した。

フック式のブラジャーも購入し、店員に頼み込んで付け方を教えてもらい、万全の状態で店を出ることができた。


「目的の服も買いそろえたし、お昼でも食べて帰るかな」


そんなことを呟きつつ歩いていると、やたらと周囲の視線が刺さる。

僕は、品定めをするかのようなイヤらしい視線に鳥肌を立てながら、速足で近くのファミレスに入った。

しかし、ファミレスの中でも突き刺さる視線に全く落ち着くことができなかった。


追われるように食事をして店を出る。

速足で帰ろうとしたところで、ナンパと思しき3人組の男性に声を掛けられた。


「よぉ、暇してる? 良かったら俺たちと一緒に遊ばねえ?」


しかし、僕はその呼びかけを無視して、全力で逃げ出した。

こう見えても、某考古学者を敬愛している叔父の指導の下、格闘術だけでなく、鞭を使った戦闘や乗り物の操縦、銃火器の扱いなど一通り習得している。

しかしながら、男女の対格差と人数差を考慮すると、逃げるのが最善手である。


幸いにも、男たちは僕を追ってくることも無く、僕は無事に家に帰ることができた。


「ふぅ、つらかった。まさか女の子として外を歩くことが、こんなに辛いものだったなんて……」


僕は昨日今日の色々を思い返して、元に戻りたいという思いを一層強くした。

何よりも、女の子の体になってから、まだ一度も学校に行っていないわけで、今日のように多くの突き刺さるような視線にさらされるのが正直怖かった。


「ただいま。ちゃんと服を買ってきたみたいだね」


「渉さん。お仕事お疲れさまでした」


「どうだい、今日一日過ごしてみて」


「はい、いろいろと大変でした。特に他人の視線が――」


僕はこれまでにあったことをかいつまんで説明した。

叔父は腕を組んで僕の話を聞いていたが、話が終わると僕を見ながら話し始めた。


「その様子だと、しばらく学校に行くのは難しそうだね。そこで提案なんだけど、僕の仕事を手伝ってみるつもりはないかい?」


「考古学の、ですか?」


「そう、女の子にされたきっかけも廃村を調べていた時のものだろう? もしかしたら、元に戻る方法も考古学のフィールドワークを続けていく中で見つかるかもしれない」


「そうですね、今のままで学校に復帰するのも難しそうですし……。ご迷惑でなければお願いしたいです」


「わかった、とりあえず学校には連絡しておく。必要があれば、僕から連絡するから、その時には大学に来て欲しい。それ以外の時間は自由にしてもらっても構わないよ。ま、これまでと同じだね」


そう言うと、叔父はやさしく微笑んだ。

当面の話ではあるものの、学校に行かなくて済んだのは幸いだと、この時は思っていた。


しかし、この時の判断が、あの事件に巻き込まれるきっかけになるとは、この時の僕は予想だにしていなかったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ