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ショートショート集  作者: 湯船ゆうさく
5/9

永遠に/恋愛

深夜一時。

僕はベットの上でライターをつけた。口に咥えた煙草の先端が赤くなる。優しく吸ってやると、バニラの甘い匂いが口をいっぱいにした。

「煙草、吸うんだ」

隣で寝ている彼女が物欲しそうな目で見ていた。

しょうがないな。長い髪の毛を優しく撫でた。

「ずるい人。わたし、煙草嫌いなのよ」

「じゃあ消そうか?」

「いいわ。貴方、煙草を消したら構わず寝ちゃうでしょ」

「どうかな」

一吸いして、溜まった空気を存分に味わう。

「寝られるくらいなら、煙草を吸いながら撫でてくれた方がいいの。もう飽きちゃったんでしょ」

僕は笑った。

煙が一気に放出される。白煙がぼんやり浮かぶ。

おっといけない。これじゃ味わえないじゃないか。

「気付け薬みたいなもんだ」

また優しく吸った。

「また訳の分からないこと言って」

ゆっくり、舌の先で押し出すように煙る。薄めた蜜で作った綿菓子のような味がする。バニラの香りが漂った。

「いまの、本気だったの!」

彼女は目を大きく見開いていた。

「なんで嘘つくんだ」

「なんでも何も、あなた嘘つきじゃない」

「僕は君が好きだ」

「そういうところよ。またすぐに嘘をつく」

また吸った。

「そうやって煙草を吸えば誤魔化せると思って。ほんとに好きならそうは言わないわ。嘘つき!」

辛い。ソーダ水のような刺激がする。これはこれで美味しいけど、ちょっと切ない気もした。

「訳分からないわ。どうしてそんな酷い嘘を言えるのよ……」

彼女の瞼は腫れている。時々、すすり声が聞こえる。

「嘘じゃないんだ。君が好きなんだ」

また、吸った。

「なんで、なんで嘘じゃないのよ……」

彼女は深く俯いている。

「訳が分からないわ。明日は違う人を抱くのに、今はほんとに、心からそう言える貴方が、私には分からない……」

そう言うと、彼女は僕に背中を向けた。

煙は甘かった。小さく開けた口先から漏れ出るように逃げていく。

煙草を灰皿に捨てて、僕は背中から抱きしめた。

「やめて!」

「こうするだけだよ」

「やめてってば……!」

「……」

「やめてよ……」

「……」

「……」

しばらくするとすすり声が聞こえなくなった。

「……酷い男」

「ごめん」

「別にいいの……。分かってたことだから」

「ごめん」

「明日はいまの気持ち、忘れちゃうの?」

小さく頷いた。

「でも、今日あったことは覚えてる。明日には気持ちが変わっちゃうけど、今日君が好きだったことは変わらない事実なんだ」

「最低……」

彼女はそう言うと、振り返って僕をじっと見つめた。髪が乱れていた。

気づいたら恥ずかしいだろうな。

僕は彼女の乱れた髪を梳いた。

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