表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートショート集  作者: 湯船ゆうさく
2/9

もう一つの物語/日常

 弁当を作って、朝食を作って、皿洗いをして……

 結婚生活3年目の日常である。

 丹原たんばら 美咲みさきは結婚して3年の主婦である。子供はいない。まだしばらく予定もない。

 元々は雇われのライターだったものの、夫の強い要望によりやむ無く主婦になった。

「貴女を外に出したくない!」

 婚前、彼はそんなことを言った。

「どういう意味よ」

「家にいてくれ!」

「仕事があるし無理よ。明日も打合せがあるの」

「なおさら家にいてくれ!」

 駄々をこねる彼の言い分にイマイチ要点を得ない。

「どうしてよ!」

「何だっていいだろ!」

「なんだってじゃ嫌よ! 私、仕事好きなの。沢山の人に話を聞いて、沢山の出会いを記事にしてるのよ。楽しいわ。楽しいだけじゃない。誇りだってある!

 貴方だって、『素敵な仕事だね』って言ってくれてたじゃない!!」

「それは今もそうだけど……!」

「じゃあ何が問題なの!」

 いま思えば私は馬鹿だった。

 結婚を前にした彼の不安を全くわかっていなかったのだから。

 そんな馬鹿な私に、

「綺麗だから!!!」

 彼は馬鹿正直に言った。

 フフフ――

 お茶を啜りながら、昨夜に届いていたメールを見る。

 ライター時代の後輩からだった。

 彼女は私の寿退社を誰よりも懸命に止めようとしてくれた人だ。

「仕事続けましょうよ! 丹原さんならwebディレクターになって、プランナーになって、どんどん昇進できますから!」

 って。

 随分と会っていない。

 こうして連絡を貰うのも、仕事を辞めてから初めてだった。

「あら、そうなの」

 どうやらWebプランナーに昇進したらしい。

 また、近いうちに独立するからぜひ力を貸して下さいとの事だった。

「……悪くないかもね」

 彼女のことだから、きっとそれなりの席と開けた道を私に与えてくれるだろう。

 沢山の人に囲まれて、誇り高き仕事をして、相応の報酬を貰う。

 そんな未来も、悪くないかもしれない。

 でもね、

「私、馬鹿なのよ」

 底に残ったお茶をグイッと飲み干す。メールを閉じると、洗濯機のブザーがなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ