2話
結論から言うと、私の勝ちだった。
彼が動き出す前に、いち早く水の魔法を彼に当てたからだ。これなら身体や服が濡れるくらいで後から怪我させられたとか難癖つけられることもないだろう。
「あーえっと……リアトリス君であってる、よね?風邪引くから、それ早めに乾かした方がいいよ」
頭から水を被った彼に向かってそう一言だけ告げて踵を返そうとすると、背後から苗字を呼ばれた。
振り返ると、彼は私を睨めつけていた。
「っ…俺はお前のそういうところが気に食わない!大っ嫌いだ!!!」
私の態度が相当気に触ったのであろうか、彼は吐き捨てるように言い、私を指さす。別に彼に嫌われようが構わない。その光景を、私はどこか他人事のように眺めていた。
『名誉学生』なんて称号、あげられるものならあげてしまいたい。私以外の人にはそれはそれは魅力的なものであったとしても、私にとっては面倒事が増えるただのレッテルでしかないのだから。
「ああ、そう」と身のない返事をして、今度は振り返らずにその場から去る。こんな厄介事はもううんざりだ。毎日が嫌になる。きっと明日も明後日も、さして今日と変わらない。
次の瞬間には彼のことなんてさっぱり忘れ、自身にあてがわれた寮の部屋に向かうのだった。
●○●○
あいつは、強烈な明かりだった。近づくのも一苦労するくらい、眩しすぎる絶対的な光だ。持ちうる魔力とセンスで周りを圧倒し、優勝候補だった俺でさえも何食わぬ顔でなぎ倒す。
そうして俺がいちばん欲しかったものをかっさらっておいて、そのくせなんの興味もなさそうなのがより腹立たしかった。
『名誉学生』の称号はどの学生でも喉から手が出るくらいの価値があり、実際何があっても将来安泰と謳われるほどだ。
それさえあれば俺を誰も無視できないだろうと思って、血反吐を吐くほど必死に頑張った。
なのに、それなのに。
「くそっ!」
勢いよく蹴った石が壁にあたり、ゴツと鈍い音がする。ものに当たれど気分は晴れない。それもこれも全部あいつのせいだ。
この俺に何の興味を持たぬ、何も映さない無機質な瞳が脳裏にこびりついて離れない。
あいつさえいなければ、俺はいちばんになれたのに。
「覚えてろ、シオン・トレニア……!」
燃え盛る妬心を胸にくすぶらせ、俺は必ずあいつをぎゃふんといわせてやると決意した。