1話
随分と面倒なことになった、と私シオン・トレニアは肘をついてぼうと窓の外を眺めていた。
この状況を理解したいのなら、まず、こんな事になった経緯を話さねばならない。
私には、物心のついた頃あたりからか、ぼんやりとだが前世の記憶があった。両親の目には大層大人びた子供に見えたことだろう。
大半の人は『前世の記憶がある』の一言で頭でも打ったかと思うだろうが、紛れもない事実だ。
前世で自分はだいぶ働き者だったように思う。自身の身を削って、削って、削りまくった結果、睡眠不足とその他諸々のせいで赤信号のくせに突っ込んできたトラックに気づかずぽっくりお陀仏だ。結局、頑張ってきたこと全て無駄になってしまった。
そんなこんなでこの異世界に生を受けて、私は思ったのだ。全部無駄になってしまうのなら、今世でも別に頑張らなくたっていいじゃないかと。そうして、おおよその物事に無気力になった私は、次第に周りに対して興味を抱かなくなった。
魔法学園に入学してからは、前世の知識のおかげで勉学はある程度理解出来たし、今世では魔力の才能があったようで、適当にしているだけで高得点を貰えた。今世では才能に恵まれたのだろうか。そう考えると前世がより一層切ないもののように思えてくる。
そうして適当に、根無し草のように生きていた私だったが、大きなミスを犯した。
国のお偉いさんがたが集まる学校行事、学園魔術大会で適当に魔力を振るっていた私が何故か1位に輝き、見事学園長からじきじきに『名誉学生』なる賞を頂いたのである。やっぱり世の中は才能なのかと私の目からより一層ハイライトが消えたことをここに記しておく。
ここまで聞いて何がミスだ、と思うだろう。
ここからが問題だった。
私のことが気に食わない生徒からのやっかみ。特に元々優勝候補で、大会では準優勝だった伯爵子息君からである。名前は確か……える、エルなんとか……ああ、思い出した。エルヴィン・リアトリス君だ。
この学園はお金さえ払えば10歳から学生を受け付けており、彼はその間所謂トップのエリートだったそうだ。そして、14歳から18歳までの在学が義務付けられたこの学園に私が入ってきて、今の状況に至る。
「ルールは至って簡単、先に相手の身体に魔法を当てられた方の勝ちだ」
グラウンドで仁王立ちする彼は随分と尊大な態度だ。正直言って、こんなこと心底どうでもいい。
私に何の利益もない無駄な時間。
さっさと終わらせてしまおうと、私は杖を構えた。